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7-16

 機動兵器同士の戦闘は、白兵戦と共通する点も多いが全くことなっている。


 まず一つ、打撃が決定打になりづらいこと。


 内部に機構は収まっているが、その殆どは対衝撃機構に守られており、ただ殴っただけでダメージを通すことは難しい。我々高次連や黄道共和連合の場合は、装甲の間に衝撃を吸収して分散する特殊なジェルを封入することによって、表面装甲以外への衝撃を殺す構造を取っている。


 これは単なるダンパーを挟むより格段に効率的で、同格の機動兵器で殴り合っても決着が付かないくらい頑丈である。


 『ちょっと、こっち、来いやぁぁぁぁ!!』


 なので必然、相手の関節を狙うことになるのだが、投げ技も有効だったりする。


 何せ数百トンクラスの装備なのだ。地面にぶつかった時の振動は想像を絶する物があり、さしもの襲撃吸収機構とていなしきれる物ではない。


 故に武装を失った際、我々は柔道やプロレスのような強力に敵を弾き飛ばすワザや、一歩間違えれば関節をねじ切るような技術を用いるのである。


 『オラァァァァァ!!』


 私は起き上がりかけたテイタン2の襟を守る装甲板を引っ掴み、腰を払って重心を崩させて変則的な背負い投げを見舞った。


 本当によかった、起き上がる前に反応できて。流石にテイタン2とウラノス3の重量差では、姿勢が崩れていないと投げ技なんて決まらない。


 狙いは隣の格納庫区画だ。あそこは壊れている物ばかりなので、多少は破損しても問題ないからな。


 まだ起動が完全に済んでいなかった敵は無防備に放り投げられ、受け身も取れずにゴロゴロと転がったが……アレは駄目だな。


 抗重力ユニットを使って墜落の勢いをかなり殺された。上手くいっていれば、右肩から叩き付けたので右腕部がねじ切れていたはずだ。


 畜生、あの異形め、重外骨格だけじゃなくて機動兵器のドライバも入っているのか。今まで使わなかったのは、住処を荒らしたくなかっただけってか。


 ぎこちない動作で起き上がるテイタン2に追い打ちを掛けるべく、私は硬質ブレードを構えて走り出した。本当は抗重力ユニットを起動して浮かび上がり、スラスターを噴かせて加速度を全力で載せた斬撃を放ちたかったが、今は足下に味方がいるので無理だ。


 『ちぇいあぁぁぁぁぁぁ!!』


 ただの鉄量と硬度を頼みにした鉄塊に近い硬質ブレードを振り上げれば――さっき使わなかったのは、破片を飛散させたくなかったから――敵も遅れて反応し、近くに落ちていたテイタン2の残骸、その左腕を取り上げて向かうってきた。


 装甲と刃がぶつかる破滅的な音。外骨格を着て減音機能が働いていなければ、人間の鼓膜が軽く破れるような悲鳴が上がるが、ブレードは食い込んで止まっていた。


 ちっ、賢いな。梁材とかで迎え撃ってきていたら、そのまま圧し斬ってやるつもりだったのだが、頑丈な機動兵器の残骸を使うとは頭も回りやがる。


 装甲に食い込んだ刃が暫く拮抗したが、このままではいかんと私は抗重力ユニット出力を最大まで上げ、敵を軸に半回転するようにスラスターを噴かした。


 如何に航空戦のため出力が高いとはいえ、ウラノス3はしょせん航空機動兵器だ。関節部の頑強性も、地に足を着いての膂力も、何より格闘戦で物を言う重力もテイタン2相手では勝負にならない。このままでは力任せに折りたたまれると思ったので、また相手の軸をずらして転ばせようと試みた。


 しかし、敵はようやく機体に馴染んできたのか、気味が悪いほど正確な足運びでバランスを崩そうとする起動に対応して見せたかと思えば、更に空いた手でブレードを使ってもぎ取ろうとしてくるではないか。


 『小癪なっ……』


 ええい、ならばと私はスラスター出力を繊細に加減し、目当ての方角に向くと同時に噴出を止めた。


 そこは、先程表に出るため開いた搬出口。空に向かって口を開けている出口を捕らえると同時、私は水平方向に推進器の出力を全開にした。


 『堕ちろこのやろぉぉぉぉ!!』


 そして、推力に任せて押し出しに掛かる。テイタン2は地面に脚を食い込ませて抵抗したかっただろうが、ここは機動兵器が動くことを前提したブロック。少々踏みしめたところでつま先はめり込まないし、踵のスパイクを起動するのも一瞬遅かったな。


 次の瞬間、私達は何一つ遮るもののない大空に飛び出していた。


 元々、ウラノス3は大破した味方を救助できるよう、装備を持っていない空手であれば機動兵器を持ち上げて飛ぶことができる性能がある。それには勿論、運搬相手の抗重力ユニットによる助力が必要だが、ここで一つの選択を強いることができるのだ。


 敵はこのまま何もできない上空に運ばれるか、二機の重みを受けた墜落で潰れるか。


 嫌な二択だろう。さぁ、どうする。


 基底現実時間では僅かな逡巡の後、異形は掴んでいた手を離して落下していった。食い込んだ刃は自重と重力によって解き放たれ、心地好い浮遊感と共に浮かび上がる。


 よぉし、良い子だ、やりやすくなった。このままつき合って上で蹴り合いをするより、こっちの方が航空機動兵器の本領を発揮できる!


 『推進剤残量は……67%!? もうそんなに使ったか!』


 元々完全充填されていなかったのか、ちと振り回しすぎたのか推進剤が心許ない。帰りの脚を考えると早々に決着を付ける必要があった。


 まぁ、元々ウラノス3って、こういう戦い方を想定してないからな。少しだけ浮いて戦闘ヘリのように浮き砲台をやるか、短い跳躍を繰り返しての航空戦を行う機体であって、原型機の〝紫電4〟ほどビュンビュン飛び回ることを考えていない。


 それもこれも、生存性を高めるため内蔵型タンクを減らして装甲を半端に厚くしてみたり――そういう要望があったらしい――武装を積み込む関係でハードポイントを増やしまくったりした影響だ。


 基本的に黄道共和連合は機動兵器を遠隔操作で扱うが、電子戦で不利になった盤面では有人操作に切り替えるそうなので、兵員の損耗を嫌って行ったのであろうが、それで継戦能力が削がれては本末転倒だろうに。


 まぁ、コイツは飛べるおかげで直ぐ後方に帰って補給を受けられるから、それでも構わないと割切ったのかもしれないが。


 『さぁて、地べたに降りたことを後悔して貰おうか』


 ともあれ、優位に立てたことは事実だ。腕部に内蔵されたチェインコイルガンに弾薬が装填されていないのは仕方ないとして――そもそも待機状態で装填してると危ないし――こちらにはブレードがある。


 反面、軟着陸を成功させた異形が持っているのは歪んだテイタン2の腕一本。肘に関節があってブラブラしているそれは、さぞ振りづらかろうよ。


 『さぁ、行くぞ、私の空間把握能力を舐めるなよ』


 手出しできない高空域に登った私を恨めしそうに睨んでいる異形を横目に、推進器を吹かして左右に微動。牽制の動きを挟んだ後に急降下して斬りかかる……ように見せかけ、ギリギリ腕が届かない位置で強烈なGを受けながら軌道を水平に変更。


 迎撃せんとテイタン2の腕を振り抜いた敵は、装甲にギリギリ掠める位置を殴りつけたものの空振りして姿勢を崩し、大きく蹈鞴を踏んだ。


 そして、私はそのまま急減速をかけ抗重力ユニットを切って素早く着地。乗ってるのが旧人類なら挽肉になっているようなGと、膝部関節がギリギリ耐えられる速度での無茶な着地にOSが警告の悲鳴を上げるが、軍用品がこれくらいで文句を言うんじゃありません、それでも男の子か。


 左を軸足に180°急旋回、そして背後を見せたテイタン2に向かって斬りかかる。防御を捨てた、右肩に刀を担ぐような姿勢は関節可動域の限界に従ったものであって、流派も何もないが――そもそもウラノス3は原型機と違って、格闘戦をあまり想定していない――モロに隙を見せている相手には十分。


 重力を軽く軽減し、質量を最大限保ったまま浮動。スラスターを全力で噴かせてトップスピードに持っていき、無防備に晒された右膝を撫で斬るように通り過ぎた。


 『脚一本貰ったぁ!!』


 超硬質ブレードは運動エネルギーと自らの鉄量でもって関節のシーリングを斬り割き、アクチュエーターと人工筋肉を破断。2/3ほどを断って、赤黒い輸液を纏いながら宙空へと躍り出る。


 機動兵器戦で肝要なのは、敵を完全に撃破することではなく、行動不能に陥らせる、つまり擱座させることだ。いっそ気味が悪いほどの速度で進化する装甲と火力の進化というイタチごっこは、有史以前から変わらず火力の方が上を行くが、それでも防御機構の進化も馬鹿にならない。


 無理に両断しようとすると、ブレードが保っても関節がイカレてしまうので、コツは撫で斬りにして筋を断つことだ。


 特に消耗品たる機体と違って、パイロットは補充も易くないため、何処の国も生残性を気にして胴部の護りは厚く造るので、四肢を詰めて動けなくするのが一番簡単。


 敵に兵士を補充させたくないなら、その後引き摺り出して捕虜にするなり、動けなくなったのをいいことに精密衛星弾で吹き飛ばすなりすればいい。美事に斬り倒して一撃爆散というのは見栄えが良いが、ゲームの中でだけできること。


 機動兵器は頑丈だからな。実際の戦場の多くでは任務達成困難(ミッションキル)にするか、戦闘続行困難(タスクキル)にするのが一般的なのだ。


 まぁ、我々は関節部にブレード突っ込んで操縦者とか中枢を真っ二つにしたりすることも多いけど。


 空中に駆け抜けながら、ダメージレポートを確認。かなり加減したつもりであったが、繊細なウラノス3の手首は微かな損傷を伝えており、実際に見てみると僅かに輸液が漏れていた。


 ちぃ、どうにも繊細すぎるなこの子は。ブロックⅡ-B2を取り戻したら多少取り回しが悪くなっても強化するかしてもらおう。


 上空で弧を描き、膝を断たれて立つに立てなくなった敵機を睥睨する。異形らしく、既に戦闘行動が取れない状態になっても戦意が絶えることはなく、膝立ちになって迎え撃つ構えを取ってくるではないか。


 その意気やよし。肉塊の塊と馬鹿にしたが、闘争本能だけは評価しよう。


 なら、達磨になるまで続けるだけだ。


 私は直進するような欺瞞起動を画き、直前で急減速。攻撃をまた空ぶらせた後、膝を頭部に叩き込んで主感覚素子を粉砕。この蛮用にもまたOSが警告を上げてくるが、無視して背部に着地すると、霞の構えに取って右肩部関節に刃を突き込んだ。


 刺突の後に抉って関節部を破壊すれば、輸液が盛大に噴き出して碧い機体を赤褐色に染め上げる。断片から肉腫と触手が溢れ出したが、それごと切り上げて大上段に構え直すと、今度は左肩を破壊した。


 あとは、うごうごと膝を動かすことしかできなくなった塊が残るばかり。


 『介錯してやる』


 私は迷わず、首と胴のシーリングにブレードを突き刺して中枢を破壊した。潜り込ませた刃を数度抉れば、操作系を破壊できたのであろう。機体は数度痙攣した後、静かに動きを止め、激しくのたくっていた触手も動きを止める。


 ふぅ……勝った。今度は小破止まりだし、完勝といってもいいだろう。


 敵にも装備があれば、火器を持っていれば、数が今より多ければ怪しかったが、私の悪運はまだ尽きないらしい。


 『上尉! 中枢のオーバーライドに成功しました! 一旦主電源を落として再起動させます!』


 『でかしたセレネ! 私も直ぐ戻る!』


 『残敵がまだ動いていますので、お急ぎください!!』


 そして、相変わらず私の相方は頼りになるな。こちらが仕果たしたならば、必ず期待に応えてくれる。


 よし、では気を抜かず残党狩りとしゃれ込もうじゃないか…………。




【惑星探査補記】機動兵器の主機は核融合炉であるため、撃破されても派手に爆発することはない。しかし、推進剤タンクや、その増槽が爆発する危険性はあるため撃破する際には注意を払うべきである。

高機動機にヒット&アウェイでNDKされる中量機の気分を述べよ。


明日も更新時間は未定でお願いします。


感想は作者の燃料。ちょろっと補給してやってくださると、とても筆が捗ります。

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[一言] ※誤字修正で感想を再投稿しました 失礼いたしました 特性が真逆の巨大ロボ同士、そして技の限りを尽くした激闘とても面白かったです! 特にその機能が、制約であると同時に長所にも成り得るのが、メ…
[一言] イメージ的にはレイズナーがザカールのV-MAXレッドパワーにボコボコにされてる感じ
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