7-15
『キックオフだ! ボールを相手のゴールにシュゥーッ!!』
製造区画への戸がゆっくり開き、機動兵器一機が体をねじ込めるほど開いた瞬間、私はウラノス3を潜り込ませて、地面に犇めいていた異形を纏めて蹴り上げた。
やっぱり地面に蔓延る雑魚を掃除するのは、これが一番早い。
『上尉、何か色々混ざってます!』
『いいんだよコレで! 歩兵相手に暴れるのは最高にスカッとするな!』
テイタン2と比べて脆いとはいえ、空を飛ぶためこの機体の出力は上質な炉を積んでいることもあって高出力だ。勢いよくけり抜かれた十数の異形は宙に散らばり、バラバラになりながら壁や地面にぶつかって、赤褐色の汚い花を咲かせた。
〔うてうてー!〕
[突っ込め! 族長を支援しろ! ■■■■野郎を黙らせろ!]
「ノゾム! その蹴っ飛ばすのやめて! 破片が飛んできて怖いよ!!」
仲間達も続々と戦闘を開始し、コイルガンの発砲音が賑やかな多重奏となって響き渡る。ガラテアからクレームが来たので、私は邪魔な異形をプチプチ踏み潰しながら、製造区画をスキャンした。
『凄いな、ほぼ完璧に残っているぞ』
『これなら施設の再稼働どころか、装備のアップグレードもできますよ』
何とも奇跡的なことに、内部の製造設備は殆ど損傷が見られなかった。起動兵器級の部品を供給するラインから組み立て機、整備用のスキャナに各種消耗品や装備の製造器機までバッチリではないか。
これは勝ち申した。グッドゲーム、と思わず内心でガッツポーズを取ったが、まだ戦いは終わっていないので喜ぶのは少し早い。
敵の本丸を落として、残敵を掃討するまでが戦争だからな。
ワラワラ寄ってくる異形を仲間にブチ当てないよう蹴り飛ばし、踏み潰し、蹂躙しつつ中枢への経路を探す。
敵は機動兵器の補助兵装製造ユニットを流用して作られているようで、そこから湧いてくるため中央管制部分を抑え、製造を辞めさせなければ。外からも残党が集結しつつあるようなので、あまりのんびりしていられない。
こちらの弾薬は再分配しても半数を切っている。既に腫瘍が森中から集まった異形によって半包囲下にある以上、群狼による輸送はもうできん。
『セレネ、経路検索!』
『ありました、上尉! あそこから登れます!』
見れば、施設の奥側に一部出っ張った箱のような部分がある。硝子が嵌まって下を見下ろせるような施設は、見紛うことなき管制部分だ。
そして、内部から到達できるよう壁に沿って階段が走っている。
『誰でも良い! あそこにいけ! そこに〝穢れたる雄神〟がいるはずだ!』
[討ち取って良いのか族長!]
『欲を言えば情報を抜きたいが、今回はそんな余裕はない! 止めさえすればなんでもいい!』
今までの定石に従うのであれば、ブロックⅡ-2Bはテラ16thを大混乱に貶めた連中の端末に乗っ取られているのであろう。本来なら直結して情報を抜きたいが、今の最優先目標は機動兵器を製造できるようにして、ヴァージルや大型の異形に対抗できる状況をつくること。
どうせ方々に放たれているのだ。一匹二匹取り逃したところで大勢に影響は出るまい。
『道を切り開く! 管制室を占拠しろ』
硬質ブレードを地面にギリギリ当てないよう振り下ろし、分隊単位で敵を粉砕。更にそのまま刃を横に返し、包丁の上でみじん切りにしたネギを落とす要領で振り抜く。
[ようし、遠慮なく弾をおごってやれ! 閉じさせるな!!]
〈外者ばかりに活躍させてなるか! 斬り込むぞ!〉
「連携! しっかり連携して! ああ、もう! 僕らは援護するよ!!」
十戒の光景もかくやとはいかないが、道を強引に拓いたそこに戦士達が乱入して階段を目指し始めた。テックゴブ達は火力を集中して拓いた道に敵が寄らぬように全力射撃を始めるが、そこで本来跳び出すべきだった前衛兵のシルヴァニアンではなく、矢玉が尽きても未だ戦意旺盛なトゥピアーリウスが吶喊しはじめてしまった。
ガラテアは順序が思っていたのと違う! と焦ったものの、即座に思考を切り替えて自分達も支援につくことに決め、援護射撃を開始。シルヴァニアンも道を譲って庭師の後を追う形になった。
チッ、ここで事前打ち合わせにない連携の甘さが出たか。まぁいい、彼女達には突撃兵としての適性もあるんだし、齟齬としては許容範囲だ。
高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応。味方の独断専行で発生してしまったが、これくらい御せないで大隊や中隊は掌握できないからな。
『まだまだ暴れるぞ! 踏み潰されないよう注意しろよ!』
切り拓いた道を防ごうと連携する敵の中に踏み込み、味方に当たらないよう注意しつつ踏みにじる。必死に飛び上がって間接部に喰らい付こうとする――コイツら、機動兵器の弱点を知っているのか――敵を摘まんで捕まえ、そのままメンコめいて地面に投擲。三機纏めて叩き潰して一石三鳥!
『やっぱり機動兵器はいいな! 戦っていて元気になる!』
『上尉! 変な戦闘高揚剤を入れてないでしょうね!?』
『素面だが!? 失礼だな君も!!』
たしかに新兵がビビらないよう、疑似脳内麻薬に似た働きをするプロトコルは電脳に搭載されているけれど、そんな物に頼らなければいけないほど初心じゃないぞ私は。これは、久方ぶりに無双できてテンションが上がりきっているだけだ。
だって、これまでこっちが装備的に不利な激戦続きだったもの。
〝太母〟奪還戦では貧弱な装備で死ぬ思いをしたし、聖都では二千年かけてセレネが作ってくれた大事な筐体を失った上、テイタン2は中破。〝死の渓谷〟は戦果こそ得られたが結局物量に押されて撤退することになった挙げ句、先の〝テミス11〟特攻作戦では一歩間違えれば蕩けたチーズだ。
楽な戦場が全くなかった中で、本来の兵科で思う存分暴れられたら気分の一つもアガるものだろうよ。
機嫌良く暴れているとトゥピアーリウスが階段を登り切り、ドアに辿り着いたが、開け方が分からないのか思いっきり蹴ったり殴ったりしている。
だが悪いんだけど、それは横開きなんだ。それじゃ開かんよ。
〔どいてー! とおしてー!〕
〈なんだちまっこいの! これくらい直ぐに蹴り開けて……〉
〔もっと便利なのがあるからー!!〕
遅れて辿り着いたピーターが背の高いトゥピアーリウスの脚を潜り抜けて前に出ると、ちゃんと持ってきてくれていた解錠爆弾を貼り付ける。そして、必死に下がるように警告した後に起爆すると、蹴りたくられてベコベコになっていた扉が吹っ飛んだ。
いや、しかし凄い脚力だな庭師達。解錠爆弾の方が早いけど、なくても二、三分蹴り続けていたら開きそうな勢いでビビったわ。絶対に外骨格なしで格闘戦はしないでおこう。
〔えんとりー!〕
爆発の煙を潜って、ピーターを始めに三人のトゥピアーリウスがサブマシンガンを構えて内部に突入する。そして十分な安全確認を行った後に叫んだ。
〔えっ……? く、クリア!〕
はい? 今なんて?
『ピーター、繰り返せ。状況報告』
〔クリアです! 何もいません!〕
『そんな馬鹿な!』
内部に雪崩れ込んだ仲間達はコンソールの下から何から探してくれたが、やはり結果は何もなし。〝穢れたる雄神〟は中央管制にいない?
畜生、どういうことだ!? 普通、あそこからしか制御はできないはずだ! もしかして、何処か別の太い回線が通っている所からバイパスして制御しているのか?
『クソ、掃討戦をやるしかないのか!? だが、この物量相手では……』
だとしたら困ったことになるぞ。ここを制圧するのに精一杯で、余所の捜索に分隊を割いている手間も人的余裕も売り切れだ。人手が少しでも欠ければ、機動兵器のおかげでやや有利な戦況が微妙に不利な状況に転びかねん。
考えろ、落ち着け。全域に〝コバエ〟を飛ばして捜索させるか? いや、それでも時間がかかるし、首尾よく見つけられても討伐に向かわせる部隊を別途編成しなければならない。
外骨格を吐き出している設備を破壊するか? いや、貴重すぎるし、再建が不可能な物を破壊するのは論外だ。機動兵器自体が作れても、消耗品や装備がなければ戦力価値は半減する。
『……待ってください、上尉。弊機に少し考えが』
『なに? ……分かった、任せる!』
頭の中で思考がグルグルし始めた頃、セレネが不意に声を上げた。
それに対して私が全てを委任するまでにかかった時間は1μ秒もなかっただろう。
こういう時、相方の方が推論もアイデアも上なのだ。下手な考え休むに似たりというし、彼女に任せた方がコトは早く進むだろう。
なのでドローンが飛んでいくのを見送っていると、彼女は直結してから悲鳴を上げた。
『どうした!? 防壁か!?』
『せ、正常稼働!? 上尉、この施設、正常稼働してます!!』
『はぁ!? んな阿呆な!?』
信じられない報告に顎があったから外れていたかもしれない。こんな化物を出力しているのに正常稼働!? じゃあなんだ、この気色悪いのの図面を態々引いて、入力して、製造させ続けていたというのか!?
〝穢れたる雄神〟がへばり付いているより意味が分からんぞ!
『強制停止できるか!?』
『くっ、上尉船員権限が書き換えられて……何とかやってみます! 時間を稼いでください!! 電子戦に専念します!!』
やることは変わらないにせよ、厄介なことになったな。戦闘に手一杯のなかで謎を増やすのやめてくれません!? 近くの梁をよじ登って頭部に飛び降りてきた異形をキャッチしながら憤った。
『~~~~~~~~~~~~~~!!』
『うるせぇ! 今それどころじゃないんだよ!!』
苛立ちに任せて握り潰して床に叩き付け、更に脚を振り回してよじ登ろうと懸命に寄ってくる敵を撃破。
ああ、もう、折角爽快に戦っていたのにコレじゃあ……。
[■■■!? 族長!?]
『どうしたリデルバーディ! 弾切れか!?』
[■■■■! ■■■■! アレを見ろ!!]
シルヴァニアンの五〇倍もの罵倒語彙を持つせいで、修正音だらけの怒声に反応してセンサーを向ければ、組み立て機構に未完成のテイタン2が寝そべっていた。色はオリーブグリーンの有り触れた物で、スラスターなどがないことから陸戦用のTypeGであろう。
それ自体はいい。格納庫に完成品があったということは、予備機を組み立てていてもおかしなことはないもないからだ。
ただ、拡大すると間接部や胸郭に〝撃破された異形の触手〟が絡みつき始めているではないか。
『はぁ!? いや、待て、待て待て待て!』
「わぁっ!? あああああ!? 守護神様が動いたぁぁぁ!?」
ぐぽんと特徴的な音を立てて、モノアイの視覚素子に光が灯った。そして、ぎこちない動きでラックを破壊しながら起き上がろうとするテイタン2。その悍ましさと、有り得ない光景にガラテアが悲鳴を上げて、連鎖的に通信帯が騒がしくなる。
今思えば、確かに連中は複雑極まるはずの外骨格を原始的な見た目のクセして、ちゃんと操作していた。
やろうと思えば機動兵器を操れるのも道理か。隙間から入り込み、電装系に取り付いて、集団で操作。理屈の上では納得できる。
だとしても、今は不味い! とてつもなく不味い!
『総員退避ー!!』
ここは大して広くない。そして、大事な精密器機だらけ。
こんなところで機動兵器戦をやったらえらいことになる!
私は脅威を迅速に退けるべく、急いで寄生されたテイタン2へと駆け出すのだった…………。
【惑星探査補機】各兵装の立体整形機は最も効率よく、原材料の消費も少なく済むよう最適化されているのだが、設計図さえ入力すれば想定してない装備を作り出すことができる。
喩えそれが、生体兵器であっても。
次回、隊機動兵器戦闘。
明日も更新時間は未定でお願いします。
pixivファンボックスで二話分先行公開しているので、先が気になる方はフォローよろしくおねがいします。
感想という栄養をいつもいただけて嬉しく存じます。返信できていないのが申し訳ないですが、その分書き溜めに精を出していると思ってゆるしてやってください。現在8-8までストックがあります。