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6-11

 森の外周を突っ走るにつれて、情報はドンドンと正確になってきた。


 砲声が近づき、発射位置の特定が着弾までの時間差とで推測できるようになったのだ。


 ここで私の予想は一つ当たることになる。やはり〝アイガイオン級〟は最前線に出てきていない。森の縁に弾が当たる最大有効射程に引き込もっており、衛星の誘導がない状態での最大射程距離、約150kmほどに引き籠もっているのだろう。


 狙いは森の外縁部を焼き払いトゥピアーリウスを引き摺り出すことか。森の中で戦うのはアウェー過ぎて、どれだけの装備があってもやっていられないだろうからな。


 この状況で怖いのは隠密して接近された上で、艦内白兵戦に持ち込まれることだ。少なくともマギウスギアナイトはトゥピアの戦士より肉弾戦に優れていないし、あの隠密能力があれば自動誘導式の近距離迎撃武装は効果が薄い。


 況してヤツが掌握していたという騎士団は重装備の対竜戦闘を主眼においた騎士団。すばしっこいエルフもどきとは覿面に相性がよくない。


 となると、後はもう砲で打っ叩きまくって殺し間に引っ張り出す他、真面に通じる戦略はない。


 腹立たしいが、よく調べ、よく考えていやがる。自分達の弱点を理解し、同時に無理矢理克服しようと足掻くでもなく、格好付けて相手の土俵に立つでもなく、できる最適解を叩き付けるとは。


 この戦法に否を言った騎士も多かろうに、よく通したものだ。


 『接敵までおよそ二時間』


 「敵視覚素子の射程範囲に入らないよう気を付けてくれ。戦場概要を確認するため地平線間際で停止し、情報収集に重点を置く」


 『了解』


 ジリジリと焦れるような時間を過ごしながら、辛うじて観察できる距離に到達すると同時、私達は再生産した〝コバエ〟を全て放った。


 そして、戦場が露わになる。


 『コットス級掃陸艇を二隻視認』


 「おいおいマジかよ、本当にフルパッケージで生き残っていたのか」


 二千年前の記憶が確かであれば〝ブリアレオースパッケージ〟は旗艦たるアイガイオン級が一隻、直援用にギュゲス級が一隻、そして周辺警戒用にコットス級が三隻含まれる。


 この商品群がヴァージルの虎の子であれば、万が一を考えて周囲に護衛を配置していると見るのが適切だろう。


 そして、前衛をできる小型艦を――といっても、全長300mはあるんだけども――前に押し出してくるのは戦略的に間違っていない。


 後方から射撃しているのがアイガイオン級の主砲だけなのは、恐らくギュゲス級とコットス級一隻を地元の抑えに残しておいたからだろう。全力を出し切って肝心の地元が堕ちることを嫌ったのだろうが、一応は理に適っている。


 出し惜しみではなく、戦力の適宜配置と呼んで良いだろう。


 「あーあーあーあー……」


 『酷い物ですね、焼夷攻撃です』


 森の外縁部は派手に燃えさかっていた。ギュゲス級には大仰な主砲こそないものの127mm速射砲が二門搭載されており、その弾種は実に豊富だ。弾頭に追尾装置を積んだ対艦攻撃用から飛翔体迎撃にまで使える散弾型、各種特殊弾頭を搭載した変わり種まで色々ある。


 更に対ミサイル用の圧縮光砲台(レーザータレット)やら――霧散用装備を散布されないと能く効くんだこれが――機銃座で針鼠になっており、ついでに対地・対空両用誘導弾発射設備(ミサイルサイロ)まで整っているから森を焼くのに打って付けって訳だ。


 「後方を砲で叩いて前に引っ張り出し、出てきたら焼き尽くすか。クソ、あの野郎、騎士としては見下げ果てた男だが戦術家としちゃ一流だな。観察眼に優れているのか、いい参謀団を囲っていやがる」


 『どうせなら徹頭徹尾無能であって欲しかったですね』


 「本物の馬鹿なら騎士団長総代代行にまではなれなかったんだろうさ」


 思わず舌打ちが溢れるくらいにはヴァージルは馬鹿でも無能でもなかった。北に集結したトゥピアーリウスを効率的に狩るやり口を考えて訪れ、実際にそれが有効なのだから性質が悪い。


 さては古老が五月蠅いと思う程度に捨て駒を放り込みまくったのも、戦力を集中して砲撃で一網打尽にする下準備だな? 戦略が悪辣なら考えることも性根がねじ曲がっていやがる。


 『トゥピアーリウスが迎撃に出ていますが……』


 「完全に殺し間だ」


 森から灼き出された庭師達は次々に撃破されていく。全力疾走で80km以上出しているのは凄まじいし、センサーで正確に捉えられない隠密能力が合わされば歩兵相手なら脅威であろうが、相手は何十門も機銃を備えた怪物だ。


 「ここら辺かな?」という雑な狙いで弾をばら撒き続ければ、何発かは当たるので関係ない。その上、小型の機銃とて飛翔体を撃墜できるだけの口径なので、私が素手で解体できる強度ならまぐれ当たり一発で十分過ぎる。


 『如何なさいましょう、上尉』


 「そりゃ静観している訳にはいくまいて」


 『義侠心……ではありませんよね?』


 「あのね、私がマストカウンター(王手)を見逃す下手な指し手に見えるかい?」


 何とかせんといかんと思ったのは、単に森から飛びだして効きもしない矢を懸命に放ったり、プラズマ攻撃を試みようと陣形を構築した途端に吹き飛ばされるトゥピアーリウスを哀れに思ったからではない。


 勿論、それも多少はあるのだけど、本質的なところでアレを放っておくと王手詰みに持って行かれかねん。


 あのままだと早晩トゥピアーリウスの軍団は壊滅するだろう。私達がちょっとドン引きするくらいの蛮族なので――あと、今の状況で戦意が萎えていないことを勘案して――彼等は森に引き籠もれば、守るべき森を焼かれると分かって逃げ出さない。


 そして騎士道精神なんて欠片も持っていない野郎の艦隊につり出されて全滅し、後は森を焼いて悠々とブロックⅡ-B2を探せばいいだけになる。


 こうなると完全な詰み、対象不能だ。テイタン2は遠隔操作型で旧人類でも扱えるように作ってあることもあって、前線拠点としてブリアレオースの巨人達があれば十分に運用できる。艦艇だけでも十分過ぎるのに、守護神をズラッと並べて、あの船で来訪されれば聖都の士気なんて一気に折れる。


 私はこれでいて総搭乗時間が凄まじいことになっている、熟練の機動兵器操縦者ではあるが、流石に数十機に武装が満足じゃない機体で囲まれて殲滅できるほどの化物(絢爛武闘)じゃないんだよ。


 聖都を守り切れず降参された場合、私はこの惑星に何が起こったかを知る欠片の一つと、生産拠点を同時に失うわけだ。


 いや、それだけで済む訳がないか。きっとヤツは南にも雪崩れ込んでくる。そしてティアマットを制圧し、シルヴァニアンの王国も焼き払うだろう。


 野望に立ちはだかった私を殺すため。


 ああ、嫌になる、自分がもっとクズ野郎なら、持つ物持って、もっと都合の良さそうな所を探して再起を図れるってのに。


 ただ、こっちに来て見捨てられないものが、ちっと増えすぎた。


 「さて、こういう時に我等が取る手法は一つだ」


 『肉薄し、乗り込み』


 「白兵で掻き乱す」


 『統合軍人の本懐ってやつですね……』


 セレネの嘆息を聞きながら拳を掌に打ち付け、私はより抜きの配下に群狼を用意させた。


 「ノゾム! 何するの!?」


 「外から破壊するのは現有の火力だと不可能だ。だから乗り込んで奪い取る」


 「そんな無茶な!」


 「私達は、その無茶をやるための戦闘教義(ドクトリン)を先鋭化した集団なんだよガラテア。ただ、無理に付いてこいとは言わない。この任務に就く部隊は特攻野郎(スーサイダーズ)なんて言われるくらいだからね」


 宇宙でも地上でも、大型建造物の弱点は内側だ。中に乗り込まれてしまえば、どれだけ装備が豪華であっても用を為さない。強力な白兵部隊を送り込んで内部から食い荒らすのは、高次連お得意の戦法なのさ。


 そして、それを自決ではなく、戦術として成立させるための装備もある。


 「あーもー! 君が命を懸けているのに、僕がついて行かないわけないだろ!?」


 そう言ってヘルメットを取る彼女は少し涙目であるが、私を信じてついてきてくれるというなら有り難い。戦闘要員が一人でも多ければ、それだけ早く制圧できるからな。


 「聖徒様! 自分もどうかお供に!」


 [水くさいな族長。テックゴブの戦士を率いているんだから、喜んで死にに来いくらい言え]


 〔ノゾム様! どうか私達もお供に! あんな所にお付きなしで送り出したら、死んだ後に星の海で神様に撫でてもらえません!!〕


 おうおう、死にたがりが多いようで何よりだ。


 なら、一丁やったろうか。


 「セレネ、車両隊と砲の指揮を任せる」


 『承知しました。どうかご武運を。T・オサムの加護が篤からんことを』


 「ああ、君こそ。三至聖の加護ぞある」


 群狼に跨がり出陣の準備を終える。六機のタンデムシートには迫撃砲を乗せて急拵えの高機動自走臼砲仕様にデッチ上げ、総勢一六機の特攻部隊を志願により編成。


 これだけの大戦なら、あの世で太母に自慢できると武者震いするテックゴブや、置いて行かれたらティシーとセレネに義理が立たないと必死なシルヴァニアン。そして聖徒の戦いを援護できず何が騎士かと意気を上げる騎士達から面子を選ぶのに少し苦労したが、時間がないので私からの直接指名を取ることで黙らせた。


 ま、分からないでもないよ。統合軍でも破れかぶれに近い、一か八かの突撃の際は先方をくじ引きで決めるくらい人気だったからな。誰も彼も置いて行かれたくはなかろう。


 「よし、行くぞ。データリンクチェック。戦術機動指示に合わせろ。しくじったら即死だからな」


 各々了解の声を上げるのを聞き、私は地形の陰から飛びだして密集した群狼の先頭に立った。


 『攪乱、開始します』


 「頼む!」


 さぁて、命を場代にした賭けの始まりだ。


 ここから手前側に陣取ったコットス級までの距離は、地形を陰にして近寄ったこともあって12kmちょいってところだな。全速の群狼で駆ければあっと言う間ではあるが、無数の防衛兵器を積んだ陸上艦の前には永遠と言って等しい距離。


 無論、無策で突撃したらであるが。


 私に率いられた騎兵隊が突出すると同時、戦車隊が前進。主砲を手前側のコットス級に――以降〝標的あ〟と呼称――に向けて一斉に放った。


 言うまでもないが、如何に〝サシガメ〟といえど主砲で陸上艦の装甲を貫通することはできない。この多脚戦車は主に敵の軽戦闘車両と軽装甲の航空機、及び歩兵支援を念頭に置いた機体だからである。


 故に狙いは迎撃兵器だ。


 いや、これが有効な敵はそういないだろうけど、規定の装備に含まれているから積んでてよかった。私は下ろして通常弾の容量を確保しようよと主張したんだけど、万が一に備えて突っぱねてくれたセレネに大感謝だ。


 無用と断じかけた砲弾は着弾の寸前、弾頭に搭載されていたセンサーが最適距離を割り出して爆ぜた。


 そして広まるのは、磁場によって長時間対空するように設計された攪乱幕。霧のように広がる微細な金属粉は光を乱反射させて光学兵器を無力化させる。


 こういう手があるから、我々は基本的に実体兵器を好むのだ。黄道共和連合は効果時間の間耐えるか、効果範囲から離脱すればいいと考えて搭載を望んだが、そんなもん我々にとっちゃ逃げか持久を強制させられる時点で一手損な訳でして。


 『光線減衰率ほぼ100%。気候、大気状況からして効果は五分ほどです。残弾的に三度の展開が限界なのでご留意ください』


 「十分! 次!!」


 『了解、発射します』


 ついで射出される砲弾も命中する寸前に弾け飛び、熱攪乱幕とは組成の異なる金属粉を待ち散らした。


 先のが熱を阻む壁なら、こっちは狙いを逸らすジャマーだ。電波を掻き乱してレーダー測距による狙いを殺す電子戦の帳が降り、今まで四方に弾丸を浴びせ掛けていた銃座や砲台が混乱して〝躍って〟いるのが分かった。


 よし、掛かった。やっぱり連中、艦船の操縦はズブの素人だな。管制の殆どを搭載された疑似知性に頼り切りで対応が鈍い。


 こういう時はさっさと視覚素子の有視界戦闘に切り替えて、人力でエイムするんだよ素人共。我々が何としても白兵に持ち込もうとすることを分かってる元の持ち主達は、初手で反応して移動するか有視界に切り替えてんぞ。


 『最後、行きます』


 「応!!」


 そして、三度目の斉射で世界が白く染まった。


 最後に頼れる感覚、有視界における視覚素子を殺すスモークだ。


 しかもただの煙幕じゃないぞ、熱感センサーも殺す〝人肌の靄〟だ。コイツで誤魔化しきれないのは大気を掻き分けて存在している物体を全て検知する〝大気掌握型〟の電探のみだが、ソイツが積んでないことは知っている。


 何つったって、我等が高次連が銀河で独占している技術だからな! 二兆年とかいう宇宙の寿命より長い間、延々飽きずに討論している親玉の神通力めいた科学の結晶なんだから、モンキーモデルに搭載する訳がないだろ。


 「総員! 後は祈れ!」


 できることは全部やった。そして、我々にできるのは事前に群狼が読んだ地形データを頼りに盲目状態で突っ走るだけ。正しく命を懸けた丁半博打だ。


 もう、敵にできることは何も見えない中で馬鹿みたいに撃ちまくるだけなんだから。


 高次連が最も得意とするパワープレイの押しつけをどうかご堪能あれ…………。




【惑星探査補記】特攻戦術。基本的に最期の手段であるはずなのだが、何故かこれに備えた装備を用意し、訓練を施し、戦闘教義に組み込む異常者共が異様な成功率を叩き出すことから、統合軍機械化人は隙あらば実行しようとする悪癖がある。


 勿論、一旦退いて大駒を持ってくる余裕があれば彼等はそうするが、一刻を争う場合、機械化人達は捨て身の戦術に一切の躊躇を見せない。

2024/08/31の更新は15:00頃を予定しております。

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― 新着の感想 ―
そりゃ肉体なんて簡単に復活させることができるんだから特攻戦術が主流になるのは理にかなってるよね
永劫の未来の果てに鎌倉武士に収斂進化してやがる…!
[一言] カミカゼじゃあない。 道理の通らぬ世の中にあえて挑戦する方になりゃあええんよw
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