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9-9

 あれから二度、東園騎士団の自殺的な肉薄誘導弾(ミサイル)攻撃を凌いだせいで、士気が落ちるところまで落ちた我々は、ようやっと縮退炉区画にまで辿り着いた。


 しかし、そこは隔壁が降りており、どういう訳か先に進めなくなっていた。


 『こちら〝テミス11〟の待宵 望 艦長代行。〝ヒュペリオン2〟応答せよ』


 『こちら〝ヒュペリオン2〟統括疑似知性』


 『どういうことだ、隔壁が降りているぞ。今すぐ開けろ』


 数秒の沈黙の後、規定プロトコルに従って閉鎖しているとの回答が出た。


 規定プロトコル? なんのこっちゃと問えば、整備中は主格壁を閉鎖する通常ルーチンがあるようで、それが働いて降りているようだ。


 馬鹿が、と叫びたくなったが、相手はただの疑似知性。自己沈静プロトコルを働かせて落ち着き、子供に言い聞かせるように説得せねば。


 彼等には怒鳴っても意味がないからな。数列自我知性体であれば、相手が怒っている理由くらい察して動いてくれるんだけども。


 『いいか〝ヒュペリオン2〟現在は対テロ戦闘中だ。規定プロトコルに則った行動が敵に利することを分かっていないのか』


 『…………協議中』


 『整備プログラムを装って縮退炉を自壊させようとしていたらどうする。開けろ』


 『………………協議中』


 ったくもー、頭の固い子だねまったく!


 『2-1、アレを用意してくれ』


 『持ってきてるけど、使うの? かなり危ないんじゃ』


 命令すればガラテアが3-3に持たせていたようで、背部バックパックから例の物を取りだした。


 機動兵器で担ぐサイズのそれは、OQボムの機動兵器版であり、要はただ単にデッカくしただけだが、航宙艦の外殻や隔壁を吹っ飛ばすために作られた攻城戦装備だ。我々EVA特技兵はコイツで外殻にへばり付いて、敵艦を吹っ飛ばすのも仕事の一つであるため、城攻めとなれば必要だろうと携行させておいたのだ。


 まぁ、たまに絶望的な戦線をひっくり返すべく、コイツを背中に担いで自爆して敵陣に穴を開けるなんてこともあるせいで――無論、脳殻と操縦手槽は耐えられる設計だ――カミカゼ・ノッカーなんて渾名も付いているが、正式名称は〝多目的外殻破砕爆弾甲種一型〟と遊び心のないものだ。


 家の技術部、どうなってんだろうね。強襲艇に〝桜花〟なんて攻めた名前付けたかと思ったら、時に自爆戦法に使う爆弾を神風って呼ぶのはダメとか言うんだし。感性の線引きがどこら辺でされているのかまるで分からん。


 『〝ヒュペリオン2〟こちらは最悪隔壁を爆破しても構わんと司令部から指示がでている。貴艦が隔壁を開かなければ共同軍事規則Bー233条1項補足2に基づいて隔壁を爆破する』


 『…………隔壁を強制解除します』


 よしよし、良い子だ。やっぱり法律を盾にすると判断が緩くて助かる。


 我々に取っちゃ「緊急時以外はできたら守りましょうね」に過ぎない物が、彼等には死んでも守る物なのだから扱いやすいったらない。


 いや、ちゃんと守るけどね、私達も。本当の際の際まで対処してどうしようもなくなるまでは。


 『1-1より各機、突入後直ぐに戦闘になることを考慮しろ。白兵戦準備』


 『つ、2-1了解!』


 ここから先は射撃武器は厳禁だ。うっかりシーリングケースに当たった日にゃ……ああ恐ろしい。勿論防弾どころか融合弾の直撃にも耐える造りにしてあるんだろうけど、この〝テラ16th〟の魔法のご加護あって保っていた物だからな。何が起こってもおかしくないので、備えておく必要がある。


 私は〝虎徹 TypeC〟をゆるりと引き抜き、仲間達は腰部ラッチに固定してあった最後の手段こと、今回は命令あるまで使用を禁じていた超硬質アックスを手に取る。基本的に叩き割る斧の方が習熟が簡単だから、初心者向けの武装として配備してあるんだよね。


 刀で斬るのって結構慣れが要るから、こっちの方が彼等には使いやすかろうと思ったのだ。


 『っとお!! 盾を構えろ!!』


 隔壁が徐々に左右に開くにつれ、向こう側が見えてきた。最奥に位置するのは野球ドームほどの直径がある巨大な円筒。アレの中に何重にも守られた、極小のブラックホールが内包されている。


 敵は隔壁前にバリケードを築いて迎撃準備をしていたらしい。残存していたマギウスギアナイトや徴収兵と思しき軽装甲の歩兵が健気にも誘導弾を撃ってくる。


 しかし、それはあくまで歩兵が脆弱な間接部に当てて、何とか機動兵器を擱座させられる〝タケヤリ〟の親戚だ。きちんと防楯を構えたテイタン2を正面から破壊できるような代物じゃない。


 むしろ、この程度で破壊できる兵器だったなら、機動兵器はスタンダードにならなかっただろうから、分かりそうなもんだけどなぁ。


 それでも、抵抗を止められなかったのかも知れない。うーん、言われたら陣地に着いて、効き目の薄い兵装でも戦わなければならない歩卒の悲哀を感じる。


 機動兵器一機が体をねじ込める程度まで開くのを待って、私は一番に突撃して陣地を蹴散らしたが……そこで想定外の物を見た。


 『機動兵器!? 馬鹿な! 搭載していないはずじゃ……』


 陣地の向こうに、工具を構えた機動兵器が都合……二五!? こっちの倍以上もいるぞ、どういうこった!?


 『上尉! 〝ヘパイトス3〟です! 連中、整備用の機動重機を引っ張り出してきました!!』


 『チッ、そうか、整備用だったらそりゃ載ってるか!!』


 言われて気付いた。あの黄色と赤の塗装が目立つ8m級の準小型機体は、正確には機動兵器ではない。機動重機に分類される、戦闘を目的としない人型の重機みたいなものだ。


 鍛冶の神に肖った〝ヘパイトス3〟の名の通り、内蔵武装や装甲は一切なく、人型で体感的に大型物体を動かせるという利点に着目して作られた非戦闘用機械。そして碌な武器もなかろうに、整備用の大型工具で立ち向かってくる様は健気さよりも、溢れんばかりの血気と死の覚悟を感じる。


 操作方式は機動兵器と同じ直結式だから、深度Ⅴの電脳化ができる連中なら動かせるにしても、よくぞ使おうと思ったな! 一見デカくて強そうだが、FCSも搭載していない作業用に過ぎないのに!


 蹴散らされて逃げていく歩卒を余所に横列を組んだ〝ヘパイトス3〟の群れは、巨大な工具を剣の如く地面に立てて堂々と横列を組んでいる。


 そして、その中央に一機の機体が堂々と現れた。


 『我が名はヴァージル! 誇りある神々の末裔!!』


 『何っ!?』


 一機だけ銀色に光る塗装を――恐らく船体用の体熱塗装であろう――施された起動重機の外部スピーカーが上げる名乗りに私は驚愕した。


 まさかヴァージル、アレに乗っているのか!? CICに引き籠もるでもなく、ここにいるということは……クソッタレ、頭の固い〝ヒュペリオン2〟め! 現在の指揮官だからといって何か告げ口しやがったな! 後で取り外して初期化してやる!


 『聖徒を名乗る偽りの救世主よ! 我が大望の前に何度立ちはだかれば気が済むか!』


 『それはこちらのセリフだ! やることなすこと面倒なことをしおってからに! 天蓋聖都百万の民、そして領邦の民をなんだと思っている!』


 『はっはっはっはっは! それは異なことを言うな自称生徒様! 民を千年間踏みつけにしてきたのは、他ならぬ天蓋聖都であろうよ!!』


 大笑するような身振り、間違いない、完全直結して乗り込んでいる。そうか、作業用の機体は僅かなラグでも大きな事故を招きかねないから、最初から有人式であることが多いからヤツらでも改造の労なく操れる訳だ。


 『故に私は、全てを覆し、誤った聖典を正すため立った! それを何度となく……』


 『語るに落ちたなヴァージル! それこそ貴様が捨て置けば天蓋聖都は巨竜の襲撃で滅びていたであろうよ! 最悪の状況で寝返りを打ったヤツが偉そうなことを抜かすな!』


 『何をっ!!』


 作業用故か〝ヘパイトス3〟には単眼のカメラアイが三連装で付いており、それを入れ替えることで視覚素子を最も作業に適した物に切り替えられる構造になっているのだが、その中でも最も巨大な赤い眼が強く光った。


 『貴様が! 貴様が要らぬ題目を引き連れて行進してこなければ、こうはならなかった!』


 『ああ、そうか! ならば導きが悪かった貴様に運命が味方しなかったと諦めよ! 今投降するなら命は保証してやる!』


 『抜かせ! ここで死ねば、貴様こそただの逆賊よ! 総員掛かれ!!』


 指示と同時に起動重機達が工具を構えた。縮退炉整備用の大型器機は全てかなりの重量を持つため、遠心力を込めてぶん殴れば機動兵器の装甲を凹ませることはできるだろう。数機で囲んでタコ殴りされれば流石に手間取るだろうし、操縦手槽を破壊することはできずとも、擱座させることは不可能ではない。


 『迎撃! 油断するなよ! ヴァージルが態々電脳化を施したということは、全員白兵戦の手練れだ!』


 『2-1了解! 各機、多対一にならないよう密集して応戦するよ!』


 逃げ惑う歩卒を余所に、巨人達の殴り合いが始まった。


 しかし、旗色が悪い。


 こちらの機動兵器操縦手達は速成であり、何よりも元々は対人戦闘を考えないで訓練されていた騎士団から抽出された兵員から成る。私相手に白兵戦の訓練をしていたのはガラテアを含む初期メンツだけで、残った四人はマシなのを選ってきただけだし、シミュレーション時間も圧倒的に短い。


 それに対してヴァージルは、かなりのパターンで状況を読んできたのか、機動重機で格闘戦をする訓練を配下に積ませていたらしく連携ができている。こちらが密集して辛うじて一対三などを強いられていないだけであるが、もしもガラテアの指示が数秒遅かったら各個撃破されていたであろう。


 『死ねっ、偽りの聖徒!!』


 『ヴァージル卿のために!!』


 『うぉぉぉぉぉぉ!!』


 しかも、他の余裕を擲って私には三人同時に襲いかかってくる念の入れよう。天蓋聖徒で私の個人武勇を見せ付けてやったのもあって、相当警戒していたと見える。


 だがねヴァージル、それじゃ足りんよ。


 二五機、お前を含んで全員突っ込んでくるくらいじゃなきゃ私は落とせん。


 『ちぃえいりゃぁぁぁぁぁ!!』


 超大型スパナを大上段に降りかかってくる機体の一撃を半歩横移動して回避し、〝虎徹 TypeC〟で胴を薙ぎ払うと鍛冶神の名を借りた起動重機の上体が冗談のように吹き飛んでいった。


 そちらは私を殴り倒して機能停止にするのに何十回と殴らないといけないだろうが、アウレリアが用意してくれた聖剣の切れ味の前では斬り合いにすらならんのだよ。


 『ああああああああ!!』


 『甘い!!』


 コンパクトな横薙ぎの一撃はきちんと対人戦の剣術を学んだ動きであるが、屈みながら前進して抜き胴でコックピットブロックを真っ二つにした。作業用の物も操縦者保護の観点で頑強性は軍用と大差ないのだが、それも単原子分子ブレードの前ではないも同然。


 体の捻りに合わせて、切断面から機体がズレて落ちていく。吹き出す大量の赤黒い人工筋肉輸液を浴びながら、私は最後の一人に肉薄した。


 『せいっ!』


 『ぐぁっ!?』


 まず、互いの視覚素子の数を数えられそうなほどに間合いを詰めてから、肘を折りたたんで柄頭で武器を一撃。よろけさせた後、無防備に晒された胸に額の高さという低い振りかぶりで構えた虎徹を斬り込んだ。


 今度は両断とまでいかないが、確実に操縦手槽を斜めに割る一撃が入った。吹き出す輸液を浴びて視覚素子が曇るが、直ぐに除染液が噴き出して視界を取り戻す。


 躍るような足運びで続けざまに三体のヘパイトス3を斬り倒すのに要したのは六秒と半分弱。彼等も十分に鍛錬を積んで、機体に慣れていたようだが機動兵器戦特技徽章を持ち、サムライを名乗っても許されるだけ近接戦闘を熟してきた私に向かってくるのが間違いだ。


 私を殺したいなら、遠距離から飽和するくらい誘導弾をブチ込むのが一番簡単だというのに、鋼の巨人を自分達も扱えるからと調子に乗ったのがよくなかったな。


 『ヴァージルは私が仕留める! 2-1! 雑兵を抑えておけ』


 『2-1了解! 機械神の武運を!』


 『君にこそ三至聖のご加護を!!』


 左側に陣取った機体から殴りかかられるのを盾で防ぎつつ、右側の敵の縦切りを斧で防いで腹に蹴りを叩き込んでいたガラテアに――彼女も格闘プログラムに随分馴染んだな――激励を送りつつ、私は緩やかに虎徹を構えて、ヴァージルへと歩み寄るのだった…………。




【惑星探査補機】起動重機。全高6~8m級の人型機械であり、主に建築物の組み立てに用いられる重機。機動兵器と似ているが戦闘用ではないため装甲やFCSなどは搭載されていないが、重作業のために出力だけは軍用に近いグレードの物も存在する。


 〝1stテラ〟時代からある設備であり、その利点は巨人がブロック遊びや砂場遊びをするように建造物を繊細に構築できることで、これの完成以降、土木作業の効率は飛躍的に発展した。

お待たせしました。

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― 新着の感想 ―
神話ベースにしてるから「へパイトス」は語感が悪く感じるな… 「ヘパイストス」の間違いでは?
はじめまして、感想を乞われたので応じさせて頂きます。 航宙軍人的な主人公が1人ファンタジー要素が溢れる惑星に降り立ち、その魔法とも錯覚せんばかりの超科学を用いて活躍する…という話が溢れる中で、本作は独…
偶然見つけて面白いなぁと一気読みして作者見たらSchuldさんかいッ!そら面白いわw
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