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8-10

 緊急出撃準備。そのアラートは倉庫の一部を宿舎に改造したブロックⅡ-2Bでは聞き慣れたものであった。


 何時如何なる時でも、敵が押し寄せて来れば反応できるように、夜討ち朝駆け、不意討ちで何度も鳴らしまくったからだ。


 「物資搬出急げ! 重外骨格用意!」


 [走れ走れ! 急いで〝テミス11〟に乗り込め!!]


 〔いそがしい、いそがしい!!〕


 〈なんだなんだ、またか? 最近多いな〉


 各々多彩な反応を見せつつも、体は素直に動いて緊急出撃の準備を始めている。ガラテアはセレネを通して送った指示書通りにテイタン2をB型装備に――対艦仕様――換装させるべく作業員を走らせ、〝テミス11〟に中隊を載せる準備をしていた。


 同時にテックゴブ達は戦仕度を瞬く間に終えて点呼をし、乗り込むべく走り出している。シルヴァニアンも同様で、地対空誘導弾(ミサイル)の発射機と弾倉を抱えてパタパタと走っていた。


 そして、こっちに来て以来たまの水浴び以外で軍装を解こうとしなかったトゥピアーリウスも、弓矢と短刀をぶら下げて走り出している。マギウスギアナイト達にはとってはしょっちゅう眠りを妨げてくる辛くて鬱陶しいスクランブル訓練も、彼女達にとっては慣れた日常の一部であったのだろう。


 「あっ、ノゾム!」


 群狼に跨がって駆けつけてきた私に気付いたのだろう。ガラテアがヘルメットを被っていない外骨格姿で走り寄ってきたかと思うと、こちらにAR投影の仕様書を見せてきた。


 「命令通り全機B装備だけど、いいの!? 僕ら、対艦戦闘訓練で誰も成功してないけど!」


 「今回は無理にでもさせる。アレを浪費することになるけどね」


 私は今まで乗れる者が誰もいなかったので、どこか所在なさげに格納庫のラックにしまわれていた、二機のウラノス3を指さした。


 「いきなり乗れって言われても無理だよ!?」


 「違う、この日のために準備したんだ」


 言うと同時、ラックがレールに沿って動き、二機のウラノス3が自動で歩き出した。


 「ええっ!?」


 『待宵艦長代行、出撃準備完了しました。推奨外動作につき精度は保証いたしません』


 その声は〝テミス11〟に元々搭載されていた疑似知性のものだ。


 ふふふ、こんなこともあろうかと……こんなこともあろうかと!


 ……ふう、満足。人生で一回言ってみたかったんだ。


 ともかく、こんなこともあろうかと、取り外したのを放っておくのも勿体ないので、セレネにちょちょっと違法改造してもらって機動兵器の遠隔操作ができるように仕様変更しておいたのだ。


 元が戦闘艦の管制AIだけに、機動戦闘や火器管制に対するドライバは元々搭載してあったので、遠隔指揮ユニットに改造するのは手間だが困難ではなかったとセレネは言う。


 まぁ、何と言ったって船と機動兵器は随分違うからな。結構強引にやっているので精度には期待できないが、飛べば失速、着地すれば抗重力ユニットの扱いをしくじって大破、格闘戦をすれば関節をイワす新兵達よりずっとマシだ。


 「構わない。私に追従して、優先目標を叩くだけで良い」


 『機体を損耗する確率は概算で89%に登りますが』


 「問題ない。どうせ機体なんて使い捨てだ」


 機動兵器は幾らでも量産が利く。それよりも補充が大変な操縦手の方がずっとずっと価値がある。テイタン2は一日と一二時間あれば用意できるが、パイロットは格好だけでも動かせるようにするのに九日かかったのだ。材料だけ用意できれば補充が一瞬の機体と、生身の仲間達を比べるのはレートが狂っているとしかいえん。


 「ガラテア、君も忘れるなよ。守護神は人を守るための機械だ。必ず……」


 「危険だと思ったらベイルアウトする。分かってるよ」


 それに、これは統合軍でも口を酸っぱくして言われたことだからな。我々は脳殻さえあれば、経験を蓄積して何度でも帰ってこられる。脱出さえ上手く行けば、それは旧人類でも同じなのだ。


 ちゃんと教えを守ると言ってくれた、頼もしき戦友の頭を撫でて、私はさっきまで自分が収まっていた方のウラノス3に向かった。


 「ノゾムはそっちで出るの!?」


 「ああ、誰ぞかが露払いして穴を開けにゃテイタン2は降下もままならん。指揮官先頭は統合軍の華ってな」


 本当は私もテイタン2で格闘戦をやる方が性に合っているのだが、如何せんここで量産できるTypeGはスラスターがないので鈍重すぎる。かつての愛機だった〝為朝6〟であれば単騎でも素人が操る陸上戦艦なら半壊までは言い過ぎでも、突入路くらい切り開けるのだが、空を飛べないコイツじゃ無理だ。


 なのでカスったら御陀仏の可能性があるウラノス3でもやるしかないんだよ。


 「こっちも装備はタイプBで頼む! 一五分で換装できるか!?」


 「無茶苦茶言うなぁ……まぁ、やるけどさぁ!!」


 あまりもの短時間で作業を終えろという無茶振りにガラテアは憤ってみせたが、それでも間に合わせるといって工兵達に指示を出した。


 彼等が着込んでいる重外骨格には自動整備マニュアルが搭載されているので、着さえすれば所定の位置に装備を合わせ、キッチリと雑な固定をしないで固定してくれるので大丈夫だろう。


 「セレネ、テミス11の準備はどうだ」


 『積み込み完了まであと一時間です』


 『問題ありません』


 「っと、そうか、名前が同じじゃややこしいな……」


 そうだった、セレネに整備を任せていたから、この疑似知性の名前と艦船の名前は未だに一緒なんだった。それだと今後、情報に齟齬がでるよな。


 「よし、艦長代行権限で改名する。〝テミス11〟、お前は今から〝ニュンペー〟だ。ナンバーは何番があいてる?」


 『21以降です』


 「分かった。では以降、お前のコールサインは〝ニュンペー22〟だ。復唱しろ」


 『了解しました。以降、当機のコールサインを“ニュンペー22”とします』


 良い子だ。よし、これで少しやりやすくなった。


 「って、ノゾム! よく考えたら〝テミス11〟の定数って九機だよ! ウラノス3はどうするのさ! 飛んでいくのは遠すぎない!?」


 「そこは問題ない。掴まっていくから」


 「はぁ!?」


 素っ頓狂な悲鳴を上げるガラテアだが、まぁ良くあることなんだ。本当はあっちゃいけない例外規定なんだけど、船縁とかに入り切らない機体を掴まらせて撤退するとか、戦車の上に歩兵を乗っけて走るとかね。


 流石に戦闘機でもあるまいし空中での推進剤補給機能を持たないウラノス3が、〝テミス11〟に随行しようと思えばそれしかないんだ。


 ただ、ウラノス3は元々空を飛ぶように設計されている。気を付ければ邪魔にならないさ。


 「ほんっと、君は無茶ばかり……!」


 「今回ばっかりは、これくらい無茶しないと詰むんだって!」


 「君の今回ばっかりって、僕、三回くらい聞いてるけど!?」


 え? そうかな? そうかも……。


 いや、でも詰みそうなのは間違いないから、何とか容れてくれたまえよ。ホントにヤバいから今回も。


 「あーもー! 第二班! 今の作業が終わったら、ウラノス3の一から三番機をB型に! 急いでよ!! 十五分でやって!」


 「無茶です騎士ガラテア! 二十分ください!」


 「じゃあ二十分! それ以上遅れたら尻を蹴り上げるからね!! ノゾムもそれでいいよね!?」


 「工兵が二十分要るというなら仕方がないな! 急がせつつ慎重に!」


 「相反する二つを同時に言わないで!!」


 彼女も現場指揮官らしくなってきたなぁと思いつつ、私はセレネに頼んで脳殻をウラノス3に戻して貰った。


 「聖徒様、お体失礼いたします!」


 『ああ、大事に保管しておいてくれ』


 抜け殻を丁重に扱われるのは何だか気恥ずかしいが、豪奢な椅子に乗せて待機室に運ばれていくのには少し慣れてきた。あんまり贅沢に慣れるとよくないから、もうちょっと気楽に接してくれても良い物なんだが。


 などと考えている間にも作業は進み、増槽を切り離して空になっていたハードポイントに様々な装備が取り付けられていった。


 肩部上部には六連装多目的誘導弾の発射筒、同側部には小型の擲弾発射筒。背部にはスラスターを邪魔しないよう縦長に設計された爆弾槽。そして腰部には手投げ弾の三連装懸架機が吊され、太股にも三連装誘導弾の発射機。


 主兵装は六連装の対艦機関レイルガンだ。取り回しは悪いし、装甲への打撃力も対艦と関してある割りにイマイチだが迎撃兵装の撃破には定評がある。


 そして、左腕には大口径〝対艦杭打ち機〟が装備された。


 通称、凸とかパイルと呼ばれるコイツはすれ違い様に叩き込み、内部で炸裂させる炸裂杭が装填されており、肉薄しての対艦戦闘では無比の強力さを発揮する。何せ装甲を無視して、内側の脆い部分で爆発するのだ。効果は折り紙付きで、当たれば駆逐艦級までの航宙艦なら数ブロックに甚大な被害を与えられることを〝実戦〟で確認している。


 まぁ、問題は完全に押し当てないと内部まで貫通しないから、触れられる至近に近寄らないと使えないって不便さなんだが。


 『上尉、本当にフレアなどは通常でいいのですか?』


 『最大爆装じゃないと碌な被害を与えられないだろう。注意を惹くだけなら色々欲しいが、対迎撃装備妨害は〝テミス11〟で頼む』


 『在庫には限りがありますよ』


 『足りない分は勇気と気合いで補うさ』


 残念ながら、我々が奪った〝コットス級掃陸艇〟は、あくまで動く前線司令部程度の能力を求めて作られた物なので、内部に工廠を抱えていない。小型の弾薬製造用立体成形機はあるものの、誘導弾などの高度な武装は後方から運ばれてくる想定になっているのだ。


 故に、敵が進撃する際に搭載してきた分しか誘導弾は在庫がなかった。


 光線を霧散する光学兵器攪乱幕弾頭は四発、電子戦攪乱幕は六発、あとは散弾弾頭と大質量弾頭が二十発ずつ。


 まぁ、陸上戦艦を破壊するのには全く足りないが、注意を惹くくらいのことはできるだろう。


 『それにしても、ミサイルのケツにくっついて陸上戦艦に突撃か。第四次紛争を思い出すね、セレネ』


 『弊機もよく覚えていますが、端的に言って地獄(クソ)でしたね、あの戦場は』


 最後の太陽系紛争として歴史に名を刻まれた第四次紛争。あの紛争に参加した私は、実は三度撃墜されて、都度都度回収されて戦場に舞い戻っている。


 その一度目が、太陽系連邦政府の陸上群総旗艦〝レキシントン〟攻略戦だったのだが、ありゃあもう酷かった。


 同型艦三隻、随伴艦大小含めて五十隻、陸上戦力は甘く見積もっても二十個師団。


 まー酷い作戦だった。敵がガチガチに固めて背水の陣を組み、大深度に〝縮退炉〟がある地下アーコロジーの上に陣取ったばかりに衛星軌道攻撃が強気に実施できず、困り倦ねていたところに参謀本部が出した結論が中々に笑えたな。


 敵総旗艦を撃沈しての指揮崩壊、及び戦意喪失からの降伏勧告なんだから。


 正に言うは易し、成すは難しの典型だ。


 あの時は機動兵器部隊が荒れたなぁ。俺達に飛んで火に入る夏の虫になれってか、と司令官をぶん殴りに入ったヤツまでいたっけ。


 しかし、最終的には命令だからと、数十万発の誘導弾が先行する中、僅かに遅れて突入するという〝オペレーション・ミサイルヴェイル〟なんて特大の無茶をやらかす先陣に加わらせられた。


 要は敵の迎撃網が誘導弾の飽和攻撃で処理能力を食われている間に取り付いて、可能な限り迎撃兵器を破壊しろとかいう無茶苦茶にも程がある作戦だった。


 というか、アレはもう作戦自体が全部無茶苦茶だったな。衛星軌道には直援二個艦隊が張り付いていたから、航宙軍も重力圏が近い中で砲打撃戦をやらかすハメになったし、我々はその残骸が降り注ぐ中で白兵特攻だ。


 我ながら、よく生きてたよ。


 『あの時の戦果は幾つだっけか』


 『機動兵器、協調撃破十八、不確実撃破二三、〝レキシントン〟の砲台十二、主砲一基。それと装陸艇二隻ですね三度目の吶喊で運悪く主機に直撃して爆発四散しましたが』


 『そうだったそうだった。懐かしい』


 そっか、そんなに落としてたか、結構頑張ったな。なら、今回も頑張りゃなんとかなるべ。


 誘導弾の囮を壁に突撃し、敵の迎撃圏を強引に突破。甲板上に強行着陸をかまして武装を撃ち尽くしたら離脱。


 あとはそれを撃墜するか、されるまでやるだけ。


 なんだ、こっちも言葉にすれば随分簡単だな!


 『随分な〝簡単〟があったものですね』


 『仕方が無いさ、こちとら常に前線勤め。楽な戦場なんてなかったんだ。二千年眠って、実質異世界転生したからって、楽勝で無双できる戦場に恵まれる道理なんてあるまいよ』


 『はは、仰る通りで』


 二人で一頻り笑っている間に、戦仕度は終わった。


 さて、では参りましょうか。


 別の敵と戦って忙しくしている敵の横っ面に、思いっきり拳を叩き込むことほど楽しいことはないからな…………。




【惑星探査補記】跨乗(こじょう)戦術。いわゆるタンクデサント。最後の策ではあるのだが、先行した特攻野郎が爆散することは珍しくなかったため、帰りの足として機動兵器が陸上艦や航宙艦に掴まって移動することは珍しくなかった。

エース・オブ・エースでも撃墜される時はあっさり落ちます。まぁ、しれっと帰って来るのが高次連の一番嫌で鬱陶しいところなのですが。


明日も更新時間は未定でお願いします。


感想は作品を仕上げるニスのようなものなので、ペタペタっと塗って貰えると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
兵士一人一人が魔王ルーデルみたいに、しかも短いスパンで復活して再突貫してくるとか敵からしてもやっぱクソゲー。 高次連こええ。
[良い点] 脳殻残ってたら無限に突撃してくるエースとか悪夢 [一言] パイルバンカーだ!浪漫を崇めよ!
[一言] 高次連の戦争は、聞くたびにハードさを増していますねぇ……さて、今回も無事生還といきたいところですが 僚機は遠隔操作ばかりですからね この思い出話が、良い縁起かつぎになれば良いですねぇ……
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