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気の済むまで

悠「も〜〜〜、さっきから”る”ばっかりじゃ〜ん。」

春「ほんとだ。偶然だね。」


 悠華と春渡はあれから何度も夢の中で遭遇していた。この奇妙で作為的とも言える巡り合わせに最初は懐疑的だった悠華であったが、次第に不信感も薄れ今では進んで春渡との時間を望むようになっていった。


悠「る・・・る・・・る・・・・ダメ、全然思いつかない。”る”から始まる言葉なんてこの世に5個くらいしかないよ。」

春「降参かい?」

悠「参りました・・・」


 眠りについてから目覚めるまでの間、2人はこうして他愛もないやりとりを繰り返す。しかし悠華にとって唯一気掛かりだったのは、春渡の記憶が会う度リセットされてしまうということだった。同日内において彼の記憶が保たれていることもあったが、翌日には出会った記憶は全て白紙に戻されてしまうのだった。


春「君と話すのは楽しいね。すぐに時間が経ってしまうよ。・・・・・まだ名前を聞いてなかったね。なんていうの?」

悠「私は悠華。悠然と咲く、難しい方の華って書くの。勇敢の勇だったら今のしりとりは負けなかったはず。」

春「素敵な名前だね・・・・・。」


悠「(このやりとりも何回目だろう・・・・・・。」


 悠華の表情が少し陰った。それを見逃さなかった春渡は口を開いた。


春「ごめんね。」


 春渡が発したその言葉は、悠華が常に周りへ抱いていた思いそのものだった。意思疎通の面において幼少期から周囲の人々に多大な苦労を強いてきた悠華は自責と後悔で雁字搦めになっていた。日常生活で現れる不出来な自分を夢の中で猛省する毎日で、夢現(ゆめうつつ)共に自閉してしまうところだった。そんな中奇跡とも言える春渡との出会いは彼女を窮地から救い出した。そんな英雄(ヒーロー)のような存在の春渡に気を遣わせてしまった自分を悠華は許せなかった。


悠「どうしたの急に!なんで謝るの。私、あなたにいっぱい感謝してるのに・・・ごめんなんて、私が言う言葉なのに・・・・・」


春「・・・・・ちょっと歩かない?」


 悠華はまた春渡に気を遣わせてしまったと思い更に表情が暗くなった。悠華は場の空気を変えたいという思いと、春渡に対する自責の念とが(せめ)ぎ合い黙り込んでしまった。悠華は適当な言葉が浮かぶまで春渡から少し距離を取るように後方を歩いた。

 2人は丁度草原の中を歩いていた。元々2人がいた大木はあの日以来姿を消して、悠華が次に目覚めたときには別の風景が広がっていたのだ。時には崖の上や浅い湖の上で現実(うつつ)から目覚めることもあった。


春「悠華。見てごらん、動く玩具(おもちゃ)。」


 春渡はそう言って足元の草を指差している。悠華が視線を移すと一匹の蜥蜴(とかげ)が舌を出したり引っこめたりしている。


悠「可愛い。蜥蜴って山に住んでると思ってた。」

春「そうなの?」


 悠華は調子を戻すことが出来て少し安堵した。


悠「春渡くん、蜥蜴と家守(やもり)の違いって知ってる?」

春「春渡って?」

悠「(しまった・・・今の春渡くんはまだ春渡くんじゃなかった)

 私が家で飼ってるわんこの名前が春渡っていうんだけど、あなたに似てて・・・ごめん、犬と同じ名前で呼ぶなんて・・・・?」

春「全然。僕は今から春渡だ。」


 春渡は怪訝な顔一つせずに優しい口調で答えた。彼には人を疑うことがないのだろうか。悠華は疑問に感じた。


悠「私たちどのくらい過ごしたかな。多分もう少しで帰らないといけないと思う。」

春「そうなんだ・・・」


 春渡は残念そうな顔をしている。滅多に表情を崩さない彼だが、悠華が別れを仄めかす発言をするといつもこういった表情をする。この新鮮な反応を悠華は密かに楽しんでいた。

 夢と現実の時間経過は繋がっていて、夢の中で過ごす時間(いこーる)現実世界で就寝している時間となっている。大抵10時に就寝する悠華が起床する時間は朝の5時なので、毎日7時間前後を夢で過ごすことになる。起床時間が少し早いのは、家と学校が離れているからである。里親である恭子が普段の送り迎えを担当しているが、家と学校とは車でだいたい1時間半かかる。障害を持つ悠華が快適に過ごせる教育環境を選んだ結果、現在通っている高校に落ち着いたのだ。


悠「・・・でもすぐにじゃないから、もう少し一緒にいられるよ。」

春「よかった。」


 春渡の表情が晴れた。春渡じゃなくて晴渡じゃん、と心の中でつっこみを入れた悠華だったが、口には出さなかった。






 史州都は日没間際の浜辺に打ち上げられていた。大渦の中で次々に情景が移り変わり、落ち着いたと思ったら砂浜の上に伏せていた。夢の中で劇的に場面が変わることはよくある。顔を上げると塔内で見た者たちが相変わらず空な目をして佇んだり徘徊したりしている。凄惨な場面から脱出した人数より更に数が減り、20名ほどが確認できた。そのほとんどが、史州都のお墨付きの連中だった。


史「あ゛ぁ・・・・コレクションたちが・・・・・・・」


 史州都は起き上がると、その場の全員を一箇所に集めた。それぞれの顔を確認し、安堵や嫌悪の表情を見せていた。そんな中ある男に視線が止まった。


史「諒ちゃん・・・・・似てる・・・・・。」


 男は2m以上ある巨体で、体全体がまるで彫刻のように隆々とした筋肉で覆われていた。ボロボロの薄い一枚布が窮屈そうに男の肌を覆っていた。史州都はごほんとわざとらしく咳払いをして、残りの者全ての顔を確認した。


史「今から少し休む。呼ばれたやつは俺と一緒に来い!お前とお前、あとお前、それとお前は好きに散れ。あとの奴らはここに待機しろ。」


 史州都の口調が好戦的なのは、威厳を持った王の姿に憧れているせいだ。先ほど目に止まった巨漢(おおおとこ)と近くにいた幼い獣人を連れて少し離れた木陰に移動した。そして史州都はまず獣人の少年を横たわらせた。そして自分も横になると、少年の口に自らの舌を絡ませた。現実でこのような経験が一度もない史州都は、見よう見まねで、不器用に舌を動かした。息苦しくなって少年の口を解き、目の前に待機している大男に目をやった。


史「お前もこっちに来い」


 そういうと男は反対側に横たわった。肩の肥大した筋肉のせいで地面から頭が不自然に浮いている。史州都は両手で強引に男の頬を手繰り寄せ、勢いよく舌を絡ませた。


史「・・・諒・・・・・くんっ・・・・・・」


 史州都は息を切らしながら必死に男の唇を貪った。反対側から(まさぐ)られる少年の手を振り解こうとしながら。


史「・・・・・ん!?」


 史州都は急に振り返った。すると先程の空虚な眼差しとは打って変わって、発情し赤ら顔になった少年が史州都をぼんやり見つめていた。


小「主人(あるじさま)はこういうのがお好きなのですね。」

史「えぅ、ごっ・・・意識がないんじゃないの・・・・・」


 少年は史州都の質問には答えずに、振り向く唇へ激しく舌を絡ませてきた。舌使いの巧さに史州都は翻弄されていた。少年の片手は史州都の下着を掴んでいる。すると反対側に横たわる大男も史州都の下着を脱がそうと力を加えてきた。口を離さない少年から顔を背けることができず、史州都は振り返って巨漢の顔を見ることができなかった。


史「ちょ、まっ!!ほんとに!!!一旦ストップ!!!」


 史州都は強引に少年の唇を解き、両手で下着を押さえた。両側から獣人の少年と大男が史州都の顔を見つめている。


小「主人も期待されてるじゃないですか。僕たちはその望み(おこころ)に従うだけでございます。」


 史州都の力は2人に敵うはずもなく、間も無く下半身が晒されようとしていた。諦めた史州都は仰向きだった体勢を即座にうつ伏せに変えた。同時に史州都の(もも)裏が(あらわ)となった。履いていたズボンは膝まで引き下ろされ、中途半端な格好をしている。このような展開は微塵も想像できずに抵抗する史州都だったが、その顔に憤怒や焦燥はなかった。


小「主人はこちら側がお好みで。」

史「ちがっ!・・・ちがうから!!!」


 少年が手で卑猥な手真似(ジェスチャー)をした。そして立ち上がり目の前へ出てきた。ゆっくりと自身の麻袴(ズボン)を下ろしていった。


史「ぁぁ・・・・・」


 その幼い躰からは想像できない有様(もの)が史州都の前にだらしなく垂れていた。


小「主人よ・・・お気の済むまで。」


 

 

 四つん這いに脱ぎかけのパンツといった情けない格好の史州都は放心したように頭を動かしていた。すると息苦しくなって思わず咳き込んでしまった。気付くと先ほどの幼い少年の姿は無く、成長した青年の獣人が立っていた。それに伴って目の前の黒影(かげ)も大きさを増していた。史州都は後ろから腰をがっしりと掴まれた。大男が後方で史州都に自身の腰を寄せている。重い鞭を下ろすような、ぴしんっ、ぴしんっという音が4、5回響いた。その後男の固い鼠蹊部(そけいぶ)が、ゆっくりと史州都のやわらかい臀部に触れるのだった。


史「はっぁ・・・・・ぅうんぐっ・・・・・」


 海岸近くでは波が静かに引いたり押したりしている。呆然と佇む者たちの周りには、優雅な漣の音が広がっていた。だが、史州都と2人の男たちは、その音色はどうしても聞こえなかった。

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