表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣士の国  作者: quo
98/144

ルカの仕事

薄暗い部屋に薬の匂いが充満している。

整然と並べられたガラスの小瓶には、粉や色の付いた液体が入っている。


ルカは匂いにやられて、頭がくらくらしている。

ナタリアはさっきから小瓶を見つめている。


「つまんないでしょ」

ナタリアは振り返らずに言う。

「アリアの言う通り、特使を出迎えに行った方が良いんじゃない」


アリアがリリスとの斬り合いに一段落したところで、特使と合流して村まで送れと言われた。

特使と会いたくないらしい。


「多分、今日はこれの観察と例の球根の粉を十個の試薬に一個ずつ混ぜて観察するところで終わりかな」

ナタリアが言う「今日」は、一区切りの事で三、四日は当たり前だ。


「今は色々とやってみる事ね」

そう言うとルカに振り向いて、棚の小瓶を取るように言った。

ルカが小瓶を渡す時、行ってらっしゃいと言った。


ルカはごめんなさいと言うと部屋を後にした。

ナタリアは背伸びをすると、球根の粉に試薬を垂らした。


ルカがアリアの部屋に行くといない。

外に出ると屋敷の入り口の階段に腰かけて剣を研いでいた。

一目で機嫌が悪いと分かる。


アリアがルカを一瞥すると、薬士の才は無かったかと聞いてきた。

ありませんでしたと言うと、だろうなと返した。


「あのリリスっていう女はどうにかならないの?」

剣を研ぎながら言う。刃は砥ぎ終わったが、剣の腹に傷がついている。

「最初の一撃を躱してきたんで長引いた。二度はやらないからって伝えといて」

そう言うと剣を鞘に収めた。


ルカが何も言わないでいると、特使の迎えに行って来いと言った。

「ついでに村に行って、特使と同席しておいて。勉強になるからね。聞くだけだかね」

「向こうには普通の剣士で書記官の護衛で追加されたって言っておいたから」

「それから、特使のエドが私の事を聞いてきたら、何も言わなくてもいいから」


特使の問いに答えてはならない。なぜだ。

ルカは疑問に思いながらも、馬を駆って特使を迎えに出た。


アリアがルカを見送るとナタリアが屋敷から出てきた。

「お守りが大変ですね。突き放したり身を寄せたり」

ナタリアはアリアが毒づくと思っていたが意外にも弱音を吐いた。

「そうね。どうしてあげればいいのかしら」


二人は暫しの間、ぼんやりと森を見ていた。


昼を大分過ぎたころ、身なりの良い大男と剣士が二人、後に女がいる集団に出くわした。


剣士が前に出て何者かと誰何する。

ルカはアリアの代わりに来たと言うと、大男が剣士に下がるように命じた。


大男は特使のエドと名乗り、ルカの到着を歓迎した。

「村までは近いですが、この速さだと日が落ちます。急いでください」

ルカが言うと、エドが申し訳ないと言った。

「書記官が旅に不慣れでゆっくりと進んでいるとこだ」

「昨日、連絡員と接触したので先方には伝わっている」

そして、護衛を頼むと言った。


書記官を見ると、確かに疲労してうなだれている。

疲れ切った言葉で、すいませんと言った。


馬を見ると書記官と同様に疲れているのが分かった。

馬が疲れているとふらつき、乗馬する者も疲れる。

初めて馬で遠出する者ならなおさらだ。


ルカはエドに書記官を自分の馬に乗せ、書記官の馬は引っ張ると言った。

エドは理由を尋ねると納得して、書記官はルカと同じ馬の背に乗ることになった。


書記官がルカに謝った。

「馬の様子をみて休憩すればよかった。後の者は慣れているから気付かなかった」

剣士の二人がルカを見ている。剣士が気付くべきところを突いたのだ。機嫌も悪くなる。


一団は歩速を早めた。日没前には着きそうだ。


ルカ達は日暮れ前に村に着くことが出来た。

特使を尊重自ら出迎えた。

「お疲れでしょう。まずは宿舎にご案内いたします」

「お食事の準備が出来たらお呼びいたします」


エドは村長に礼を述べると、夫人に宿舎に案内された。


宿は内部だけ改装と清掃がされていた。

申し訳程度の調度品が置かれ、特使と書記官の部屋だけ広い部屋をあてがわれた。

夫人はルカを見ると、抱きしめてあの時の礼を言った。


そして、あの子を呼んでくると言いうと、部屋の案内をしないまま飛び出していった。


エドが何かあたのかと言うと、賊退治の事を話した。

「ありがたい。話が進めやすくなったよ」

そして、アリアが居ないのはなぜだと問うてきた。


「私が代わりです。アリアに関して、あなたからの問いには答えられません」

それを聞いたエドは、あいつらしいと言ってあてがわれた部屋に入っていった。


護衛の剣士がルカをみて困惑している。

はじめは馬の件でいら立っていた。手合わせと言って教育でもしてやろうかと思っていた。

しかし、十人の賊を同時に片付け、しかも、人質に怪我人を出していなと言う。


剣士の一人がルカの剣に気付いた。


実力がある剣士であればあるほど、自分の技量に合った剣の帯刀が許される。

一目見れば、ルカのそれが極められた剣技に見合った剣だと分かる。

居合を使うのは、限られた剣士しかいない。

剣士の一人がどこの所属か聞いてきた。ルカは普通の剣士ですと答えた。


ありえない。


剣士の二人はルカと言う少女にどう接すればいいか分からなったが、とりあえずは無言で頭を下げると、ルカも黙って頭を下げた。

気まずい沈黙の時が流れる。


そこに少女を連れた夫人が現れた。あの時、人質にとらわれた少女だ。


少女はルカを見るなり抱きついてきて涙を流しながら言った。

「ありがとうございます。私のせいで傷を負わせてしまって。私が鈍いからいけないんです」

そして、ルカの腕の中で何度も謝った。


ルカはどうしていいか分からず、抱きしめると頭を撫でてやった。

少女が落ち着いたところで夫人が、ルカが帰るのが遅くなると言って下がらせた。

夫人も改めて村を守ってくれたことに感謝の言葉を贈った。


少女は、それならばうちに泊まっていってほしいと言い出した。

夫人は困惑したが、ルカは有り難いと言った。

拠点に帰っても機嫌の悪いアリアと、何ともしがたいナタリアの料理が待っているだけだ。


そして、ルカは他人の家庭に招かれたことが無い。


夫人もルカの同意ならばと、少女の家の泊ることを許した。

少女は喜び、父と母に言って準備をしてもらうといって、走って宿を出て行った。

「すいませんね。前からルカさんに一目会いたいとばかり言って夫も困っていたんですよ」

「よっぽど嬉しかったのでしょう。許してやってください」


ルカは「お気遣いなく」と言うと、二人の剣士を見た。

剣士達は見回りは自分たちだけで十分と言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ