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剣士の国  作者: quo
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ミレイラと女

ミレイラは整備の済んだ出城の屋上に居た。

今日は湿気もなく風がある。涼しいが太陽は容赦なく肌を焼く。


見渡すと急峻な丘に生える木々の緑がまぶしい。

平地ではまばらに生える木の影で、一休みしている農夫たちがいる。

町は遠く、その屋根たちが見えるだけだ。


父はここから何を見たのだろう。


騎士達は全員が残ると言ってくれた。

使用人たちは昔から仕えてくれていた者達だけが残ってくれた。

飾りになる私には過ぎた人数だ。


ガレスの要求は何であれ母が帰れば、私がここを守らなくてはならない。

母はすでに、ここがどうなるかを知っている様だ。

帰郷の準備が整いつつある。


無駄な血は流さないように。


それが母の私への言葉だ。

ミレイラは剣を取ると横一線に抜きはらった。


まだだ。きっと好機が訪れる。それが何十年後であっても私はあきらめない。


剣を収めると後ろに誰かが立っている気配を感じた。

振り返らずにいると、しゃべりかけてきた。女だ。


「こんにちは。いいお召し物ですね。上質な絹。リロワが扱っているものですね」

「でも、刺繍が今一ですね。仕立ては上出来と言いましょうか」


リスが言っていた女か。なぜここに居る。


「ルカも一緒にいる者も、それに貴女も見張れと言われています」

「信じられますか。どこに居ても誰からも追われる身の私にですよ」


物憂さげに言う。なんの意味だ。


「こことエンデオの境に町があるでしょう。ならず者の町ですよ」

「そこに店を出しました。古着屋です」


確かに町がある。規模が大きいが戦争の後の和睦で取り合いになって話が止まった。

あえて無視することで話を進めたせいで、復興の資金が得られずに寂れてしまった。


地方貴族に委任統治させるが大した産業もなく税も取れない。

それぞれに新しい街を、街道を整備して満足のいく利益をもたらしている。

だから誰も関知しない。


「来たら教えてくれませんか。私がそこに居ることを」

「お茶くらい出しますよ」


誰か来るのか。ミレイラが振り向くと女はの姿はなかった。

思わずルカの事を思い出した。でも、あんな手紙を渡してく来るわけがない。


風が強くなった。

ミレイラは城を出た。



ミストラは準備が整うとリリスと拠点を出た。

リリスはあの斬り合いが無かったかのように大人しくしている。


特使が拠点にする村は、アリアとルカのおかげで友好関係が築かれ受け入れの準備が整ったそうだ。

ルカは斬られたが大した怪我ではなかったようだ。

鎌と籠を背負っていたのは謎だが。


ミレイラに言付けがあるかと言うと何もないと言った。

国は外交を始める。私たちはミレイラ達を助けたいが、事と次第では見捨てる事にもなりかねない。


アリアがルカを呼んで何事かを指示ししている。

ルカにはルカの仕事がある。ミストラは拠点を後にした。


リリスはミレイラの様子を見るのに屋敷に潜り込んでみるそうだ。

ならば、こちらは間者から周辺の情報を得ることにしよう。


拠点のおかげで、随分と動きやすくなった。朝に駆け出せば昼には拠点につく。

特使の村とティファニアの生家へは、若干遠いが何かあれば村に居る剣士が時間を稼ぐだろう。


ミストラは思った。この一帯は国の領土になっている。


リリスが近づいてきて剣士の事について聞いてきた。

「お前の国の剣士はあの程度の者か」


いや、あんたが強すぎるんだよ。


ミストラは東国の騎士よりも強いと言っておいた。

「ならば、アリアより強い男はいるのか」

ミストラはいないと言った。男だろうが女だろうが。アリア達は一番強い剣士を斬るための存在だ。


あえて強さに順位を付けるなら、アリアと同等の男が一人、次にやはり男が一人。そしてルカが最近強くなってきている。四番手と言ってもいいだろう。その下に十人前後と言ったところだ。


「アリアは結婚してるのだろう。旦那が一番強いはずではないのか」

リリスが何が言いたいのかわかってきた。国で強い剣士と一緒になろうとしている。

どんな家庭になるか恐ろしい。


挙句にアリアと同じくらいの男を見繕って来いと言う。

なんで国の総力をあげてリリスの旦那探しをしないといけないのか。


あの斬り合いでアリアが強いのを再認識した。あのまま行けばリリスはどうなっていたか分からない。

だが、戦争となればどうだ。一人が強くても数が言う。国はどれくらい本気なのか。


ふと、興味がわいてリリスに聞いた。

リリスの国から兵を出させば、どれくらいになるかと。


リリスは突然の質問に驚いた様子だったが少し考えた後に二万と答えた。

常備軍と民兵を合わせ、最低限の国の守りを置いてだ。


少ない。


エンデオの総兵力は約二十万。国から出せるのはリリスの国と同じく二万がいいところだ。

しかも、派遣されている剣士を招集しての数だ。

国の民兵は他国の正規兵と互角だがやはり少ない。


やはり、ディーストの筋書きがローレリアを我が物にすることであれば、正面切って戦争を仕掛ける訳には行かない。

アウロラを落として、ディーストを捕らえなければ。


しかし、ディートスの狙いは何だ。みんなを戦争に駆り立てているが、最後に何を得ようとしている。


ミストラが考え込んでいると、後ろから荷馬車の音がする。行商人だ。

太った老人だが冷たい目をしている。リリスが剣に手をのばす。


ミレイラはそれを制すると、リンゴは無いかと尋ねた。

行商人は荷馬車を降り、荷馬車からリンゴを取り出しながらつぶやいた。


「出城でアウロラを見たがまかれた。そのあとミレイラが出てきた」

「屋敷に一人役者になった者がいる」

そう言いとその者の名前を言った。執務官の名だ。


ミストラが金を払うと、行商人は荷馬車に乗って去っていった。


ミレイラのティファニアの動きは筒抜けだ。

そしてアウロラとミレイラは会っている。執務官の事と合わせて忠告せねば。


リリスが野営すると言いうと森への道へ進んだ。

ミレイラが一人になっていく。


このリンゴを彼女に渡そうか。ルカからだと言って。

そんな嘘でも彼女は喜ぶだろうか。




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