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剣士の国  作者: quo
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贈り物

アリアが拠点についたのは昼が近くなってかだった。


村長の話が長すぎた。

もう日差しが強い。いつもなら平気だが疲れが感じられる。

ルカは大丈夫だろうか。


拠点に着くと馬を飛び降り屋敷に駆け込んだ。

足早に治療室に着くと、ベッドでルカが横たわっている。

側に来ると、ルカは目を開けてれアリアをみた。


血色がいい。無事なようだ。

ルカがアリアに謝ると、人質になった娘の事を聞いてきた。

傷一つ追わなかったと言うと安堵の表情を浮かべた。


アリアが娘からだと言って、預かった櫛を渡した。

ルカは戸惑っている。武具を支給されたことはあったが、身の回りの品を贈られたことは無い。

「どうすればいい」ルカはアリアに聞いてきた。

アリアは貰っておくんだと言うと、ルカは櫛を眺めると色や手触りを確かめている。


いくらするんだろうかと聞いてきたので、そう言う事は考えない事だとアリアはいった。


そこへナタリアが現れた。アリアを見るとルカの状況を伝えた。

骨にも内臓にも異常はないとみられる。打ち身が酷いことと経過観察で一日くらい寝かせておけばいいと言った。

異常はない。それは戦列に復帰できると言う事だ。アリアは心をなでおろした。


しかし、それは戦い続けると言う事だ。

国に帰らなければならない傷なら、戦場に戻らず緩やかな人生を送ることが出来るかもしれない。

しかし、ルカに剣以外の何がある。厳しい道のりの中でしか成長していない。


アリアはルカのこれからの心配をしたが、決めるのはルカである。ルカはもう大人だ。

そう考えると少し寂しさを感じた。


ナタリアが滋養がよく体に負担の少ない食事を持ってくると言うと、皿に盛られた白い粥のようなものを持ってきた。

決して粥ではない何かだ。香りがしないし漆喰のように見える。


ナタリアが食事の成分と有用性についてしゃべり始めた。ルカから表情が奪われていく。

アリアは、早く良くなれと心の中でルカを励まし治療室を後にした。



ルカは白い粥のようなものを食べ終わると、寂しさを感じていた。

ここに来た時に、食事はテーブルを囲んでみんなで食べた。味はしなかったが楽しかったと思った。

カインにリリス、ガーランド。ティファニアにミレイラ。


みんな一緒だったらよかったのに。


ルカは、グリンデルとアリアと一緒に食事をした時の事を思い出した。

執行人としての移動は概ね一人だ。

食事は宿で取るなり買うなりしていたし、野営の時には携行食を食べるか動物を狩った。


いま思うと味はみな同じだった。

アリアが串焼きを買って食べさせてくれたのも、一緒に食べたから美味しかったからだ。


一人は寂しい。


ルカは今まで感じた事のない感情を抱いた。

仲間でも斬られる人間は仕方ないと思っていた。だけれども、アリアが斬られて倒れたらどうなる。

胸が苦しくなる。


今まで会った事のある人が次々と頭を過る。


良くしてくれた人も、悪くされた人も。斬ったらその分まで胸が痛くなるんだ。

人質に取られた娘の瞳に映る私。あの時ナイフを投げていたら。

そう思うと頭が痛くなった。


そして、ルカの中の誰かが言った「賊を始末できればよかった」



ナタリアが皿を下げに部屋に入って来た。

ルカの顔を見るなり、具合が悪いのかと言いだした。


ルカは自分が涙を流していることに気付いた。

そして、なぜだか分からないが世話を焼くナタリアが鬱陶しいと思えてきた。

「うるさい!」


ルカは思わず口にした。

ナタリアが驚いているのが分かる。もう、こんな言葉が出ないようにと手で口を押さえつけた。

まただ、町の屋台の裏で切った男を見たときの感じ。


私の中にある黒やつ。なんで、今ここに現れるんだ。止めてくれ。


ナタリアはルカの様子を見ながら、人質の事で悩んでいるのではと推察した。

何となくだが、親代わりと言えるアリアが距離を取り始めている気がする。


ルカについて感情が無いと聞いているが、接する限りそんなことは無い。

かといっていつまでも付き添ってはいられない。


さて、どうしたものか。


ナタリアは考えた挙句、薬の話を始めた。

「薬を作るって材料の組み合わせが難しくて、ある程度の当たりを付けたら片っ端から順に調合していくのね」

「百通りあったら百回。千通りあったら千回。気が遠くなるんだけど」

「でも、悪いことに組み合わせ自体が間違っているときもあるんだよね。千回の組み合わせが無駄ってことになる」

「でも、諦めて違う実験をしていたら、ふと頭の中にある組み合わせが出現して、やってみたら完成とかあるの」


「寄り道って大事な実験要素なんだと思う」

「そういうわけで、私の助手にならない?」

「あの毒の分析がまだなのよ」


ルカから返事はない。いつでもいいからと言うと、ナタリアは部屋を出て行った。


ルカはベットから降り立つと、鏡台に置いてあった櫛を手に取った。

滑らかな肌触りで、木の温もりがする。


ルカは鏡台に座ると櫛で髪をすいてみた。

櫛を一度当てただけで絡んだ髪が解かれてゆく。


ミストラの髪は軽く風になびく。私の髪はしっとりと重い。

櫛を通すたびに艶がまとまり、日の光が緩やかに流れてゆく。


私は剣士に向いていないのかもしれない。


そう思うとナタリアの薬学に興味が出てきた。

薬学に才があれば薬士になろう。忙しい中だがアリアの傍若無人に比べれば許される範囲だ。


少しだけだ。


合いにくさを覚えながらも、ルカはナタリアの部屋に向かった。

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