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剣士の国  作者: quo
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掃除

ミストラは鏡を見ていた。

美しい赤い髪は健在だが、左側だけわずかだが、切り欠きのようになっている。


手にハサミを持つと、そろえるために、右側に慎重にハサミを入れようとした。

しかし、切ろうとするが、手が震えて力が入らない。


ハサミを置くと、左側をたくし上げて耳を出し、細い髪留めで留めた。

改めて鏡を見ると、悪くないと思った。伸びきるか、時間を見つけて床屋に行くか。

そうして、鏡をしまい立ち上がると、後ろにアリアが立っていた。


何様のつもりなんだ。人の部屋に勝手に。

「ノックって知ってる?」

ミストラが、そう言うと、アリアは何回もしたと言う。

しかも、お茶が冷めるくらいの時間、立って見ていたらしい。


アリアは、冷えたお茶をミストラに勧めて言った。

「リリスと仲がいいの?」

ミストラは、返答に困った。一緒にいた時間は短いが、自分の生い立ちを話してくれた。

互いに悪くない関係とは思う。しかし、アリアが問うてくると言う事は、何かある。


リリスのためにも、仲がいいとは言いたくない。


ミストラの様子を見ていたアリアが、答えを待たずに言い出した。

「アウロラと会っていたって話よね。アウロラをこちらに引き入れられないかな」

「ディートスの元に居る可能性が高い。上手くいけば、ディートスの情報が得られる」

そして、要らぬ血を流さずに、この件を収める事が出来ると言う。


ミストラは、

「リリスを動かすなら、こちらの情報も出さないといけないでしょう。ただのお使いをする人間ではないわ」

そして、彼女は南方の国の王族だ。


アリアは、ミストラに好きにするように言った。

そして、グリンデルが、協力するならアウロラを追わないと約束すると言っていたことを伝えた。

「それで、リリスは何の得があるの?」


アリアは、望む物は何でもと言った。この件の予算は無制限だと言う。

しかし、リリスは金で動かない。むしろ、何か望む事があるのだろうか。


とりあえず、毒の件の礼もある。リリスに、聞いてみると言った。

ふと、アリアへの怒りが込み上げてきた。

そもそも、この女が不在なので、私がここに来る羽目になったのだ。

挙句に大事な髪を切るなんて。


ミストラは、

「私はあなたの代わりに来させられたの。髪を切った事ぐらい、謝ってもいいんじゃない」

そう言うと、アリアは一枚の封筒を差し出した。

ミストラが中身を見ると、国の資料室への入室許可証が入っていた。しかも、禁書庫まで許可されている。


ミストラは、ちょっとリリスと会ってくると言って、部屋を飛び出した。

ミストラは見落としていた。有効期限が後三日である事を。



ルカは足早に出て行くミストラを見た。では、アリアは一人になったはず。

ナタリアは、部屋に閉じこもって出てこない。


夕方に、久しぶりに不幸に襲われる人を見た。

見つかれば、アリアに何をされるか分からない。


どこかに隠れなければ。


そう思い、どこが良いかと思案していると、アリアが現れた。

そして、自室に来いと言う。

ルカは仕方なく、アリアの自室に行った。


アリアは、これからティファニアの生家に向かうと言った。

そして、途中で外交特使と合流するために、特使が泊る村の掃除をすると言った。

村によからぬ者がいるそうだ。


アリアは政治的な問題で、ここに特使は泊められないと言った。

政治的な問題。ルカが初めて聞く言葉だ。


「深夜に村を急襲する。この男が居たら生け捕りにしろ」

アリアはそう言いうと、似顔絵を描かれた紙を出した。

しいて言えば、特徴のない顔だ。


「国と東国が裏で何かをしている。その連絡役の元締めだ」


ルカは、何となくだが、ミレイラに関係があると感じた。

国同士のいさかいに巻き込まれている。どうにかしないと。


アリアはルカを見ていた。複雑な心境と言うやつだろう。顔の表情が物語っている。

この件で、ルカとミレイラと言う娘が鍵になるかもしれいない。

ミレイラと言う娘に会ってみたい。


アリアはルカの頬の傷を見た。前に見たときより、薄くなっていると感じた。

傷に触れようと手をのばすと、直前でルカが触らせまいとアリアの腕をつかんだ。

アリアが力を入れるが、ルカは押し返そうとする。


「いつも髪を切ってあげているじゃない」

「今度から、金を払って切ってもうらう」


こいつ、金の使い方を学んだか。


アリアが折れて、手を離すと、

「準備して。村に居るのは一人なのか、複数人なのか分からない。夜戦だから気を抜いちゃだめよ」

ルカは、分かったと言うと、自室に戻った。


剣士を短期間で五人斬ったと言う。そして、精神的に強くなっている。

止まっていた時が動き出したかのように、ルカは成長している。


剣に呑まれるなど杞憂だったか。

ルカは、手伝ってあげなくても、見守るだけで大丈夫なのかもしれない。


アリアの今後の課題は、誰を手下にするかに移りつつあった。



アリアとルカが、拠点の屋敷から出発して、だいぶん経った。

夜も更けてきた。最近は夜風も生ぬるく感じる。


目的の村の手前まで来ると、アリアとルカは馬を降りて、森に入ると慎重に村へ近づいた。

森をかき分けるて進むと、村がみえる位置まできた。

アリアとルカは、二手に分かれる。


人影が見える。地方の村にしては大きい。農耕畜産で成り立っている。

買い付けの商人達用に、大きな屋敷がある。国が村に寄付をして、特使の滞在先にした。

そんな村だが、夜更けに人が出歩くだろうか。


村の入り口に近づいたルカは、門に誰かが立っているのを見た。

目を凝らすと、腰に剣を帯びている。

賊がいる。木の上にも一人いる。村は占拠されている様だ。


ルカが賊を監視していると、アリアが近づいてきた。

アリアの口の動きを読む。

「村長の屋敷に数人。集会に村人が人質になっている。そこに二十人ほど」


明日には特使がくる。村人に平静を装わせて、村に引き込んだら襲うのだろう。


アリアとルカは、投擲用のナイフと短剣、短いが弓矢を用意した。

アリアが村長の屋敷に、ルカは人質を確保する。


お互いに、仕事を確認し合うと掃除に出かけた。


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