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剣士の国  作者: quo
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拠点

アリア達は拠点とするべく買い上げた貴族の屋敷に向かった。

ティファニアの屋敷に比べると、格段に見劣りした。


すでに国の者たちが派遣され、住めるようにはしてある。

いわゆる没落貴族の所有物で、たまに使用人が来て草刈り程度の管理をしていたそうだ。

要するに、程度の良い廃墟だ。


鬱蒼とした森の中、屋敷への道は所々崩れていいる。

日当たりは悪く、藪から虫が這い出ている。

唯一の救いは、井戸水が使えるところだ。


こんな屋敷を買う者はいない。

口止め料と含めて、幾らで買い上げたのだろうか。

その貴族は、さぞかし喜んだだろう。


まわりには、間者たちが丹精込めて仕掛けた罠が、張り巡らされている。

賊の警戒どころか上手くいけば、促成栽培の剣士を釣り上げることも可能だ。


アリア達は、自分たちが罠にかかってはたまらないと、仕掛けた者に、案内するように指示した。

仕掛けた本人は、罠にかかった者が如何にして足を砕かれるかを説明してたが、アリアは位置だけでいいと、話を遮った。

最後は、証拠隠滅のために、屋敷を一瞬で爆破する仕掛けの説明をして終わった。


ミストラは爆弾と寝食を共にするのかとため息をついた。

ルカは説明を熱心に聞いている。

きっと、アリアより先にルカが爆破の仕掛けを作動させる。

この子は、いつも考えより体が先に動く。熟慮することを早く学んでほしい。


屋敷に入ると、装飾ははがされ、調度品は捨てられている。

腐った板は新しい物に変えられ、簡素な椅子と机が並ぶ。

殺風景だが、衛生的で住むのに問題はない。


連絡役と、後方支援の補給部から世話役として、三人が派遣されていた。


それぞれの部屋のが割り当てられた。

離れを建設する計画で、すぐに展開できる簡易兵舎を合わせると、最大で六十名を収容するそうだ。

二個小隊が待機できるわけだ。


連絡役とアリアは、手早く次の行動の段取りと、新しい情報が無いか確認し合い、ナタリアの情報を、上に持ちあがるように指示した。

そして、夕飯をここで取ろうと言うと、休憩を宣言した。


皆が、それぞれの部屋に荷物を置きに行く。

ナタリアの部屋だけが、扉に補強が入り、鍵が三個も付いている。


アリアは世話役にハサミとシーツを持ってくるように言うと、ルカの部屋に入った。

「髪を切ってあげるから、座りな」

ルカが椅子に座ると、シーツを首に掛けてやった。


「忙しかったみたいじゃない?」

アリアは、ルカの伸び過ぎた髪を器用に切っていく。

アリアがルカと組んでいた時、自分の髪をナイフで切ったの目撃して以来、こうして切ってやるのが恒例になっていた。


「町で切ると、幾らかかるの」

ルカが聞いてきた。いつもは終わるまで一言も話さずに微動だにしないのに。

「町や店によるな。よく髪の手入れをしている女にくと良いわ。外れが多いの」

ルカは、分かったと言うと、肩ぐらいまで短くすると、どうなるか聞いてきた。


アリアは、駄目だと言った。

「私は子育てがあるから、髪にかけられる時間がない。ルカの髪はきれいだから、邪魔にならに程度に長くしておきなさい」

そう言って、今度は毛先を整えて始めた。


「ミストラから聞いたけど、南方人は耳飾りを大事にするんですって」

アリアは、ルカに耳飾りをしたらどうだと言った。

ルカは、あれは外せないからと言った。


髪飾りなら外せると言うと、みんな、していないと言う。


アリアの手が止まった。

この子は知らないのか。


外に出た剣士でも、その国の女がしていればする。最も、最近ではお飾り剣士が増えたせいだが。

そして、初めて派遣される剣士の儀礼式では、階級に応じた髪飾りをする。

昔は白面にだけに文様を彫っていた。髪留めは装備の一部だったらしいが、今では髪留めにも文様を入れるのが、しきたりになっている。


階級を言えば、職人が階級と、その者に見合ったものを作ってくれる。

初々しい剣士たちが、一振りの剣として私欲を捨て去った証として、白い面を被って整列する。


しかし、よく見れば、面に髪飾りに少しばかりの見栄で、文様を入れている。

みんな、感情をもった人間なのだ。


昨日、会った瞬間に感じた、この子の感情の芽生え。

いきなり外套をめくられ、驚いた表情。手紙を見れまいと焦る表情。理不尽なお使いに反抗する表情。

そして、ミレイラの事を、知らんと言った時の複雑な表情。


悩むことまで覚えたか。


ルカは、執行人として、ほとんど国に帰らなかった。

帰ってきても、報告書やら再訓練やらで時間を取られて、すぐに任地にとんでいた。


アリアは自分の報告書を、代わりに書かせていたことを心の中で詫びた。


国に帰ったら、作ってやるか。いや、この件は何年かかるか分からない。

明日斬られることもあるだろう。


この艶やかなで、闇夜の黒で染められたような髪には、星が流れたような銀の髪飾りがいいかな。

文様はどうだろう。そこいらの職人では、荷が重すぎる。やはり、国で作るのがいいか。


アリアは髪を切り終わると、水浴びに行こうと、井戸に向かった。


井戸にはミストラとナタリアが、半裸で腕を組をして、真剣な表情で何かを話していた。

なんなんだい。一体。


ミストラが、アリアとルカに気付くと、リリスの入れ墨の話をし始めた。

ナタリアが墨の成分について考察している。ミストラは、美しさも分類に含めるべきと言う。

アリアはリリスの入れ墨の美しさについて、熱心に質問をし始めた。


ルカは服を脱ぐと、三人を無視して井戸水を頭からかぶった。


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