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剣士の国  作者: quo
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毒の人

間者の女は、椅子に座った男と向き合っていた。

窓のない部屋。机の蝋燭の火は消えかかっている。蒸し暑く、汗の臭いでむせ返る。

何回来ても慣れない。


男はやつれて、震えている。


間者の女は、膝をついて男の顔を優しく撫でた。

「あなたは、騙されていただけ。かわいそうに」

男の目から涙が流れ落ちる。

「ありがとう。これで国は救われる。あなたのおかげよ」


間者の女が合図をすると、衛兵が現れた。男はシーツに優しく包まれ、部屋を出て行った。

「丁重に扱え。家族と合わせてやれ」

衛兵は無言で部屋を後にした。


間者の女は机の上の供述書を取り上げると、記されている名前を、上から順になぞった。

仕上げが近い。


間者の女は、蝋燭の火に息を吹きかけて消すと、足早に部屋を出た。



アリアとナタリアはミストラに連れられて、カイン達の泊っている宿に向かった。

部屋に入ってカインに紹介すると、案の定、不信感を顕にした。

しかし、アリアは、笑顔を絶やさない。


図太い性格だ。


ガーランドは、アリアが所帯持ちだと分かると、子供の話で盛り上がった。

子供好きなのだろう。ミストラと一緒になって、子沢山な家庭を作りたいと言いう。

アリアは、ミストラは花が好きだから贈ると良いだろうと言ってのけた。


花なんか好きじゃない。本が好きなんだが。


ミストラは、アリアの人を食った性格が嫌いだった。

ナタリアはそつなく、挨拶をかわすのに。この違いはなんだ。


最後にリリスと挨拶をかわす時、手合わせしたいと言い出した。

アリアは、勝つと分かっているような勝負はしないと言った。


二人ともどうかしている。


しかし、意外なことにリリスはナタリアを一瞥するだけだった。

もしかしたら、薬士だと言う事がばれたか。リリスとルカには、何か特別な能力が備わっているのだろうか。


ナタリアは、気に障ったのか、じっとリリスを見ている。

かわいそうに。アリアに関わるとろくなことは無い。


最後にアリアが、「それでは皆さん。今後は別行動と言う事で」と、締めた。


連れてくるんじゃなかった。


ミストラは、胃を押さえながら部屋を後にしようとすると、リリスに引き留められた。

「昨日の金だ。全財産とは思わなかった。悪かったな」

そう言って、ミストラに小袋を渡した。


握った瞬間に、中に金と何かが入っている様だ。しかし、胃が痛い。後で中身を見てみよう。

ミレイラは、ありがとうと言うと、袋を懐にしまった。


宿に戻ると留守番のルカが、間者と接触したようだ。

ここから、馬で半日のところにある、貴族の別邸を買い上げたそうだ。

そして、アリアへの親展の手紙を預かったと言って差し出した。


アリアは手紙を受け取ると、中身を読んだ後にみんなに読むようにと渡した。


「ディートスは健在。エンデオ領ににて活動拠点を構築。場所は不明」

「アウロラへの対応の必要なし」

「東国との内通者あり。当方にて調査中」


アリアは、

「当面は、ディートスを追う。おそらく、エルンストに取り付いているだろう」

「アウロラは泳がせる。接触しても知らぬふりをしろ」


以上と言うと、食堂に行くと言って部屋出た。


ミストラは眩暈がした。胃が締め付けられる。内通者。予想はしていたが、事実とは。

「ディートス」グリンデルの前任者だ。


退いた後は、王の側に置かれ、眠る連中を育てていたはずだ。

その後は、隠居していたが、亡くなったと聞いた。

生きている。そいつがエンデオ領にいる。


この一連の事件は、国の者が仕掛けている。

ミレイラもティファニアもみんな、私の国のせいで不幸になっている。


ミストラは、青ざめてベットに力なく腰を下ろした。


不意に、ナタリアがリリスから渡された小袋を見せてくれと、言ってきた。

ミストラは、こんな時に、と思いながら小袋を差し出した。


「そのままで」

ナタリアは、マスクと手袋をはめて、小袋を手に取った。


それを見たナタリアが、道具箱を取り出すと、何かを始めた。

小さいのから大きなガラス瓶。粉に丸薬に乾燥した葉っぱや、木の根。

封印が施された、細長い箱。


袋から金を取り出すと、小さな紙袋を取り出し、開けて中身を皿に移し替えた。

小瓶から液体を、粉に垂らすと、紫色に変色した。

ナタリアは溜め息をつくと、マスクと手袋をとって、粉を小指にほんの少しつけて舐めとった。


「毒です」


ミストラは、粉が毒である前に、それを舐めたナタリアに驚いた。

さっき紫色にしたのは何だったんだ。

しかも。リリスも一言、言うべきではなかったのか。間違えて舐めてたらどうするんだ。


しかし、ナタリアは平然としている。

「私には、耐毒性があります。強力ではない限り大丈夫です」

「おそらくは、土着の代物でしょう。国の物とは系統も技術も違います」

「この地方の毒の知識はありませんが、この程度なら解毒剤も作ることが出来ます。」


なんと心強い。毒を舐めて、そこまで言うとは。

そして、国から毒と薬士、資料が持ち出されていない事が分かった。それだけで安堵した。


ナタリアは、更に分析して、この国の毒の体系から作った者を特定したいと言った。

ミストラが、目を輝かせて手伝うとうと、近づかないでくださいと、きっぱりと言われた。


その代わりと言うと、胃の粉薬を調合してくると言う。

「より効くように、材料の見直しと調合方法を変えてみたんです。飲んだら、感想を聞かせてください」

自分で試したが、よく分からなかったそうだ。しかし、問題はないと言った。


毒の耐性がある人の言う事など信用できない。

ミストラは、遠慮しますと言った。



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