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剣士の国  作者: quo
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偽りの平和

ミストラ、仮眠をとりたいと言うアリアに、事の経緯を話した。

そして、カイン達と共に動くために、紹介するので会って欲しいと言った。


アリアは、カイン達の事について、仲良くする必要はないと言った。

彼らは、彼らの方針で動いている。協力者程度でいいだろうと。

そもそも、こちらに不信感を持っているなら、なおの事。情報が欲しければ、金を払って買えと言った。


ミストラは、分かったと言うと、紹介だけにとどめると言った。


確かにそうだ。彼らに国の事を手伝ってもらうのは、お門違いだ。

逆もそうだ。


アリアは、この近辺の豪商、貴族の館を借りるように指示しておいたと言った。

そこを拠点にして活動する。今日にでも連絡があると言う事だった。


そして、ティファニアの生家に行くと伝えてた。

すでに、人を送っているそうだ。


ミストラは、ローレリアの、ミレイラの扱いについて尋ねると、「知らん」と言って部屋の隅に座り込んだ。

「エンデオ領に動きなし」

「目覚めた女。アウロラと言うそうだ。こいつの情報だけが上がってくる」

「送った間者からは中枢に潜った後から連絡がない」

そう言うと、目を閉じて何も言わなくなった。


ミストラは、リリスに付きまとっていた女は、国に帰ったと思っていた。

考え込んでいると、ナタリアが、ベットで寝ると言って潜り込んだ。


ルカが部屋を出る。ミストラも部屋を出た。

ミストラがルカに、ローレリアの事は良いのかと言うと、何も返してこない。


嵐は弱まっている。


ミストラは、リリスとの約束を思い出していた。そして、何も言わないが、ルカの心中も察している。

カイン達とはリリスを通じて、自分が何とかしよう。

そう思うと、ルカの後を追うように、まだ降りやまない雨の中を宿に向かった。



ナタリアは、ベットで横たわったまま言った。

「人を使うのがお上手なんですね」

「国を出るときに言われました。あなたには逆らうなと」

アリアは目を閉じたまま、ルカについては、と聞いてきた。

「よろしく頼むと言われました」


アリアは、グリンデルの顔を思い浮かべた。

子離れできないか。私はどうだ。


アリアは、浅い眠りについた。




かつて大騎士と言われた男は、小さな額の絵を見つめていた。

中には美しい女性と少女が描かれている。

もう、どれくらい会ってないのか。


大粒の雨が、激しく窓を打つ。

男は激しく咳き込むと、椅子に座りうなだれた。


酒をガラスの盃に注ぐと、酒瓶は空になった。

最後の一杯を、一気に喉へ流し込んだ。


平和はいい。そのために戦い抜いてきた。多くの仲間が倒れて逝った。

そして、弟を助け、そして三領主による平和な世のために働いてきた。

しかし、この平和は、仮初の平和だ。


領主たちは、商業や工業に力を入れ、国を富ませることに躍起になっている。

技術を奪い合い、よからぬ商人を側において相場を操る。高度な技術を持つ者は、法を作って一族ごと管理する。


そして、貧しい者だけが増えてゆく。

王は何も言わない。献上があれば、民はどうなってもいいのか。


内政はどうだ。賄賂が横行し、権謀術数を用いて私欲を満たす役人ばかりだ。


騎士の精神はすたれてしまった世界にいる。

我が手に、一振りの剣があれば、この世界を薙ぎ払うものを。



長椅子に老人がいる、よく手入れされた髭に、染めたと言う黒髪。

静かに座っている。

「ガレス様は、この嵐の中で大変でしょうな」


十年前に、突然現れた老人。

その老人の手勢でエンデオ領に巣食う、情報屋連中を急襲すると、亡命を手助する者の一覧をもって現れた。

エンデオの端に位置する貴族が関わっている事が分かった。


老人に見返りは何だと言うと、領地の中で小さな村でもいいから作らせてくれと言う。


政治に飽きていた。戯れに許可をくれてやった。数日の後に、貴族から領地返上の手紙が届いた。

使者を送ると、五十騎の騎士団の半分になり、老人が連れて歩く剣士が騎士団長となっていたと言う。


関係する者に箝口令そ敷くと、そこを直轄領にして、老人に与えた。


その頃から老人に興味を抱いて、自分の邸宅に招いて話を聞いた。

西の国の者で、国から放逐され、流れてここにたどり着いたと。

手下は、追われる者、逃げ出した者を助けるうちに多くなり、住む土地が必要になった。


老人の話は興味深かった。白面の剣士の話。

領主に雇われ、争う事があれば、剣士同士でも斬り合う。

傭兵ではない。その覚悟をもって派遣先の領主の剣となる。


そして、領主に不義があれば、国が白面の剣士を引き上げる。

結果として西の剣士の国が、各領地、国を大きな戦争が起きないように操っている。

西方ではここ二百年、戦争は起きていない。


西方の国々は、私欲のない剣士達に、西の国々は信頼し大きく依存している。

これこそが、私の抱く理想。

我が国でも、それが出来ないか。


老人は静かに目を閉じて、椅子に座っている。

私の覚悟は出来ている。自分の領地を捧げても。


外から馬の嘶きが聞こえる。ガレスが着いてようだ。

私はこれから、悪になる。


妻と娘を犠牲にしても、私は成し遂げる。

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