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剣士の国  作者: quo


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嵐の中

風が強くなってくる。

木々のざわめきが、大きくなっている

濃厚な雨の匂いを風が運んでくる。


雨が降るな。


中継所を一つとばした。ミストラが手配した宿には、深夜につくだろう。

馬は痛めるが、早く着く越したことは無い。


ナタリアは、相変わらず同じ距離を保ちながついてきている。

まくのが面倒くさくなって、そのままにしている。


得体がしれない。急な出発で確認できなかった。宿で聞いてみよう。

言わなければ、御法度にならない程度に聞いてみるか。


雨のしずくが、顔を打ち始めた。フードを目深に被る。

ルカは成長しているだろうか。だとすれば、宿に入れば乾いた布に、湯の用意をしているだろう。

軽食も用意していれば、満点だ。



ミストラとルカは、執務官と別れの儀式を行った。

彼も、本意ではないだろう。一週間後の内容によっては失業だ。

そんな中でも、粛々と仕事をこなしてゆく。


ティファニアもミレイラも現れない。

ミストラはルカを見たが、いたって平静だ。


ミストラ達がホールを出ると、執務官が門まで見送るそうだ。


門までは少し歩く。

「風が強くなりましたね。雨が降るやもしれません」

と、執務官が言った。彼とは世間話など一度もしたことは無かった。


「主は変われましたました。エンデオで誰かと会って、その考えに心酔したようです」

「戦うことを、忘れてはいけない。そう、語られていました」

そして、歳をとると独り言が増えていけないと言い、門まで来ると、ミストラ達を見送った

姿が見えなくなるまで。


執務官の一縷の望み。それが我々になった。

背負うものが多くなる。


「庇護者」と関係がある。平和に浸かってしまった騎士を憂う大騎士に、なにか吹き込んだか。

ミストラは、これが筋書きのあらましと考えた。

戦争ごっこでもするつもりか。そして、そのおもちゃ役に、逃れた剣士を集めている者がいる。


そいつを押さえる。国の者も関わっている。

情報の断片が多すぎて、どこから手を付けるべきか分からない。時間がないのに。


強い風がミストラを襲った。ランプの灯が消えてしまった。月も隠れ何も見えない。

ミストラの手をルカが、力強く握った。「行こう」


二人は足早に宿へ向かった。



ミストラとルカは、リリスのくれた宿を見て回った。

やる気のない主人。通りから奥まって空室が多い、深夜の出入りは、勝手にやってくれ。


いいじゃないか。リリスは分かっている。

食事は出ないが、備品はそろっている。一番いいのは、裏にかまどがある事。

薪は宿で買わなければならないが、いつでも湯が使えるのがいい。


寒くなると、道が閉ざされる。冬に備えて、秋口にひっきりなしに商人と旅人が出入りする。

その時までは、どこの宿もこんなものだ。


すこし値が張るが、カイン達が避難できるように大部屋をとって三日分の金を支払った。


早速、荷物を置いて、仕掛けが無いか、見張る者はいないか調べ始めた。

終わると、ルカをアリアを受け入れる予定の宿を見に行かせた。

ミストラは、カイン達の宿へ向かった。


カイン達の宿は、概ね紹介してくれた宿と同じだった。


カインとガーランドの部屋訪ねると、二人は武器の手入れをしていた。ミストラは隣の部屋にいるそうだ。

「連中は、俺たちが離れたくらいじゃ満足しないんだろう」

全くその通りだ。障害を確実に排除したいだろう。そして、町の宿で迎え撃つのは難しい。


ミストラは、執務官の話と、自分の推測の話をした。

カインは、西の国が剣士の供給源になっている事が問題の一つと言い、国に帰って、その首謀者を捕まえろと言った。

ぐうの音も出ない。しかし、国の方でも調査していると答えた。


険悪な雰囲気が漂うなか、ガーランドが酒を飲もうと言い出した。

残念ながら、ミストラは酒を飲まない。そんな暇があるなら本をたらふく読みたい。


ミストラは、ガーランドの気遣いに感謝しながらも部屋を出た。

リリスの部屋をノックすると、返事が返ってきた。常識人でよかったと思う瞬間だ。


部屋を開けると、上半身裸で体を拭いていた。

背中に大きな鳥の入れ墨がある。

「見たな。金はテーブルの上に置いておいてくれ」リリスは、そう言いながら、体を拭き続けた。


鷲だろうか。リリスの背中を羽ばたいているように描かれている。

もっと近くでみたい。その衝動を抑えきれずに、おもわず背中を拭いてやると言うと、布を水に浸した。


見れば見るほどきれいに彫られているのが分かる。まるで、生まれたときから授かったような美しさだ。

知る限りの技術では不可能だ。一体、どんな技術で彫られたのか。

ミストラは、背中を拭くのを忘れて、入れ墨と肌の境界をなぞり始めた。


リリスが、いい加減にしろと言われて、我に返ると、背中を拭きだした。

そういえば、この入れ墨が意味するところは何だろう。


リリスは、もっと強く拭けとミストラに言うと、話を始めた。

「手の入れ墨は、部族ごとに違う。背中の入れ墨は、弓使いの中で、まあ、強い奴ってことだ」

リリスの弓の腕前は、聞いたことがある。三射を間断なく放ち外さない。

国でも一級の弓使いと、認められたのであろう。


リリスの話は続く。

「昔は戦いで王を決めていたんだが、血筋で決まるようになっている」

「なんだかんだで王になる羽目になった」


リリスは王族だったのか。それでノックして部屋に入る常識人なのか。


「でも、弟に王の座を譲ったんだ。あいつは頭がいいし人望もある。私は、人の上に立つ器じゃない」

「派閥ってやつか。もめ事がよく起こるようになった。弟に悪いことをしたと思っている」

「突然だったが、私の妹分と結婚した。よく二人で喧嘩をふっけかて遊んでいたよ。強いし綺麗な女だ。相思相愛ってやつか。私は気付かなったがな。」

「妹分は、私の派閥の頭だった。おかげで、争い事は一段落した。良かったよ」


喧嘩をふっかけるのは、遊びとは言わない。


ミストラは、

「だったら、リリスは国に残ってもよかったんじゃない?」そう言うと、リリスは

「私がいれば、争いの火種になる。もう、帰れるつもりはない。傭兵になったのは、食う術が戦う事しかなかったからだ」


自ら故郷の安寧を願い、そして、あてもなく旅をする。

私には、帰る国がある。今は帰る事が出来るか微妙だが。

リリスが、みんなから一歩引いた位置にいるのが、分かる気がする。


ふと見ると、耳飾りの石が欠けている。リリスの国では、耳飾りを自慢するそうだ。

欠けているのは、ペレスの剣をかわす時に、やられたそうだ。ああ見えて使い手か。


小さいが希少な緑の石で、国では見る者が振り返るくらいだそうだ。

リリスの自慢気に話すのを初めて聞いた。


ミストラは、国に住めばいいと言った。

鍛えられて無駄のない体に、適度な体の傷。艶のある髪は伸ばすといい。そして、何よりも強い。

誰もが歓迎すると言った。


リリスは何も言わない。気に障ったのか。


リリスは、なぜ、自分の身の上話をしたのか分からなった。

国を出てから、何も良いことは無かった。

だが、この旅の果てには、何か良いことがありそうな気がする。


そして、今いる連中とも離れたくない。ミストラは自分の国に住めばいいと言う。

一介の傭兵に、国の人間になれと言うやつはいない。

これまで、一人でも平気だったのに。不覚にも心が揺れた。


そして、ルカとミレイラの姿と、国に残した弟と妹分の姿が、重なって見える。

離れ離れには、させたくない。


不意にミストラが背中から抱きしめてきた。

優しく覆いかぶさる。暖かい。人肌の温もりを感じたのは、どれくらいぶりだったろうか。

ミストラはリリスの肩に顔を埋めて言った。


入れ墨を全部、模写させて。


ミストラは持ち金を全部、吸い上げられる羽目になった。


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