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剣士の国  作者: quo
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月の刃

森の影から男が出てきた。

月明りに、女と見間違うほどの、美しい顔の男が照らし出された。


男は言った。

「大人しく国に帰れば、見逃してやる」


ルカは男の話を聞かずに「二人いるな」と言った。

男は少し驚いた様子だ。ミレイラの背後に、もう一人、森から女が現れた。


ミレイラは背中に剣先が当たるのを感じた。女は「動かなければ何もしない」と、ミレイラの耳元でささやいた。


「剣を捨てて出て行け」

男がそう言うと、ミレイラも、もういいから、とルカに言った。本心からだ。


もう、私の事はいい。悲しい思い出を背負うくらいなら、剣を捨てて、自分の人生を歩んでもらいたい。


ルカは男に向き直ると、剣を鞘に収めた。

そして、剣を腰に当てると、斜めに構えて腰を落とした。


「馬鹿な事をする」そう言うと、男も同じ構えをとった。


女はミレイラを突き飛ばし、倒れ込んだところに、みぞおちに蹴りを入れた。

ミレイラは、うずくまり、痛みで動けず声も出なくなった。

女は、寝ていろと言うと、ルカの背後に立ち、剣を抜くと正眼に構えた。


ルカと男は動かない。女が背後からにじり寄る。

男を斬ったとしても、女が背後から斬りにくる。

女を斬ろうと振り返るなら、男の剣がルカをとらえる。


ミレイラは今からでも剣を捨ててと叫びたかった


女はルカを斬れると考えていた。

だが、この娘は始めから、私がいないかのように構えを崩さない。

間合いを縮めようと、微動だにしない。


二人とも型が完成しているからか、動けないでいるのか。


風もなく、雲一つない夜空に満月の光が辺りを照らす。

森の中だけが、暗闇に染まっている。


まさか、射手がいるのか。

女の心が乱れた。


瞬間、男とルカは踏み込み剣を抜いた。女も踏み込んでルカの頭に剣を振り落とす。


女の一瞬の心の乱れが、動きを遅らせた。

ルカは吹き抜ける風のように踏み込み、放った一閃は、男が剣を抜く前に首を落とした。


これが、白い私。


女の剣はルカの居たはずの場所に叩きつけられた。

ルカはそのまま回転すると、大勢を立て直した女と打ち合いを始めた。


間合いを自在に変えて、体を突き、薙ぎ払う。そして、それは間断なく襲ってくる。


ルカは受けるのに、精一杯だと思い始めると、どこまで自分が保てるのか、試したくなった。

受ける深さを、次第に深くしていく。始めは服まで。次第に皮膚の寸前まで。そこから肉まで。


次第に、女の剣の振りが、わずかに大きくなる。


軌跡が荒くなってい来た。ルカは剣を持つ手を、わずかに緩めた。

女は好機と渾身の力で剣を振り下ろした。


ルカは大きく振りかぶった女の懐深くに入り込んだ。女と目があった。

大きく見開いた女の瞳に、自分の姿が映る。


目を背けない。これは、黒い私。


ルカの剣が女の喉を貫く。

ルカが剣を抜き取ると、女は自分の血だまりに沈むように倒れた。


ミレイラががようやく立ち上がると、ルカはその場で膝をついた。かろうじて剣を突き立てて体を支えている。

苦痛に耐えながら駆け寄ったミレイラは、何処か斬られたのかと聞くと、「疲れた」と、言った。



執務室を出たミストラは、カイン達にルカが見当たらないと言って、探すのを手伝ってくれと言った。

カインが、剣士を追っている可能性を示唆すると、単独行動は危険だと言って、二人組に分けた。


カインとガーランド。リリスとミストラ。

組み合わせには色々と考えるところがある。カインとミストラは、初めに反目し合った。

ガーランドは、求婚を申し込んでいる。


ミストラは、内心、執務室での発言を聞いて、リリスに少し腑に落ちない感情をもった。


あんな言い方はいないだろう。


リリスはミストラをみて、鼻で笑った。

カインは新たに組み合わせ問題が生じた瞬間をみた。


ミストラとリリスが庭園に出ようと、廊下を行く途中でシエラをみた。

騎士達にも知らせないといけない。


シエラは誰もいない大広間から、出てきたところだった。

声をかけると、目に涙を浮かべている。

そうだ。ペレスが居なかったのは、騎士たちに話をしていたからだ。


辛いだろう。何歳だ。ペレスの姪だからと言っても、厳しい登用試験があったはずだ。

それを超えて騎士になった。それが一週間後に終わり。

この娘に、大人の理不尽は、まだ荷が重い。


ミレイラはシエラにルカが行方知れずになっていると言うと、にペレスに、屋敷の防備を固めるようにと、伝えに行くように指示した。

シエラは返事をすると、詰所に走った。


リリスは言った。

「あの話を聞いて、騎士たちは士気が落ちるんじゃないか」

その通りだ。一週間とはいえ、守りに穴が開く。

推薦状をもらえば、一週間と言わず、すぐに出て行く者も出よう。


ミストラは、みんなで守ればいいんじゃないのかと言うと、追加の剣士はあてにできるのかと聞いてきた。

なにか、刺さる言い方だ。さっぱりとした性格かと思いきや、ミストラに厳しい事をいう。


ミストラは、リリスに「何が言いたいの?」と、思わず言ってしまった。

ルカが見当たらないことに加えて、アリアの事、任務の事で、心にゆとりがない。


リリスが口を開こうとすると、ペレスの声がする。

ホールに向かうと、ルカがミレイラに肩を貸して立っている。

ペレスが騒ぎたてるペレスを、ミレイラが落ち着かせようとするが、ルカを突き飛ばして、騎士たちに救護室へ連れて行くように命じた。


突き飛ばされたルカが、こちらを見つけると歩いてきた。

「剣士が二人現れた。斬ったけど」

どこでと聞くと、裏に秘密の教場があるらしい。


ホールの向こうに、シエラが立ってこちらを見ている。

ミストラが手招きして呼ぶと、駆け寄ってきた。

ルカを部屋に監禁しておけと言うと、腕を掴んで部屋に向かった。


騎士達が見つける前に、顔くらいは写し取らねば。


リリスは、どうやってシエラを飼いならしたと聞いてきた。

「どうだったかな。忘れた」

ひっぱたいたら言う事を聞く様になったとは、口が裂けても言えない。


ため息交じりに、胃をさすりながら向かうミストラ、リリスが付いてきた。

そしてミストラに、一言、「さっきは悪かった」と言った。

そうだ。みんな疲れいる。


ミストラはふと、涼やかなルカの顔を思い出した。

あいつには、夜通し説教してやる。


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