謁見の日
ミレイラはミストラが部屋を出た後、ベットに横たわった。
自分自身が、ばらばらになっていく感じがした。
母と別れて、エンデオに向かうときに言った、「剣に誓って」とは、何だったのか。
ミレイラの部屋の扉ががノックされた。
開けると執務官が立っている。執務官はミレイラに至急、執務室に来るように言われた。
部屋には、ティファニアとミレイラ、執務官、ペレスが集まった。
テーブルの上に、開けられた手紙が置いてある。
封緘には、太陽と麦の穂がかたどられている。ティファニアの生まれた家の家紋だ。
ティファニアと執務官は、沈黙している。
ミレイラが手紙を取って中身を読むと、震えが止まらなくなった。
そんな馬鹿な。
ティファニアの父から、家に戻るようにと書いてある。
エルンストとは、離縁して。
そして、ミレイラが領主となり、エンデオから摂政が派遣される。
その理由をガレスが謁見に来た際に言う。それを、その場で受け入れよと。
ミレイラはティファニアに嚙みついていった。
「どういう事ですか!」
ティファニアにも分からいと言う。とにかく、早馬を出したと言う。
エルンストにもだ。
執務官は、ティファニアを排除し、傀儡をすることで、ローレイラ領をエンデオ領の支配下におくものと説明した。
ミレイラは、その言葉に「そんなことなど分かっている!」激高した。
父エルンストは、と聞くと、執務官は首を横に振る。
ミレイラは「早く連絡をつけなさい!」と、声を荒げて言った。
そもそも、執務官が理由が分からい事に腹を立て、なじり始めた。
「おやめなさい!」
ティファニアがミレイラをたしなめた。執務官はよくやっていると。
ミレイラは、自分が感情に歯止めが利かなくなっているのを分かっていた。
だが、我慢ならない。
領地を、領民を捨て、母を追いやり、人形になれと。
ミレイラは、ガレスに問いだしてくると、部屋を出てようとした。
ペレスが立ちはだかる。「おやめください」。
静かに言った。その顔は苦渋に満ちている。
子供のころ、騎士道を説いたペレスの顔。いつも凛と騎士の模範を示してきた顔が、感情でゆがんでいる。
ミレイラは、落ち着きを取りもどすと、椅子に腰かけた。
執務官がお茶を出したが、手を出す気になれなかった。
見れば、テーブルにある、他のお茶もそうだった
沈黙の中で、お茶がさめていく。
執務官がガレスに使いを出していると言った。
理由はガレスしか知らない。母への手紙にも書かれていない。
まわりで何かがが、知らないうちに動いている。それは、おそらく悪意そのものだ。
ミレイラは、理由の如何にかかわらず、城に入り徹底抗戦をするべきと言ったが、誰も何も言わない。
執政官は、エンデオとローレイラの力の差は歴然としている。と言った。
そして、理由如何では、中央。王朝に対する反乱とみなされれば、賊軍として、ティファニアの親族にも害が及ぶと。
その通りだ。どうしようもない。
ティファニアが、ガレスを待ちましょうと言うと、扉がノックされた。
執務官が扉を開けると、ガレスに送った使者からの報告だ。
執務官は言った。ガレスが、一週間の後にティファニアに、報告をしに参上すると。
一週間。それはその間に荷物をまとめておけと言うのか。
ミレイラは、血が出るほどに、拳を握りしめた。
アウロラはエンデオの町の隠れ家にいた。
そして、あの老人がいる。
アウロラは、この町にいた間者を消したと、老人に報告した。
ルカ達がローレリアに戻ったと報告したことを伝えた。
老人は、良くやれている。育ての親として誇らしいと言った。
間者は泳がせていたが、この町で軍が動き始めた情報を握った。
要らぬ事をしてくれた。おかげで、私は一生涯、国から追われる身になった。
私の店は、何事も起こっていないように偽るために開けておくが、いずれ失うだろう。
老人は、事が済めば、ここに店を開くといいと言った。
気休めだ。この老人は知っている。もはや国は東国内に人を送り込むことに躊躇しなくなった。
「ここは、当面は大丈夫だ。ルカの動向を報告するのだろう。お行きなさい」
老人は、「愛し子よ」と言うと、部屋を出て行った。
もうランプの灯をともす時間だ。最近はランプを消さないで床につく。
老人は、安住の地を手に入れると言った。
老人の幻想に付き合ってはいられない。どうにか逃げないと。
アウロラは膝を抱えて、座り込んだ。
気の早い家々が、ランプに灯りをともし始めた。