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剣士の国  作者: quo
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反する性格

リリスはルカの居る部屋の前に立つと、扉をノックした。

中から返事はなく、扉がゆっくりと開いた。


赤い髪の女が出てきた。ミストラだ。

ミストラは、廊下にでて扉を閉めると、小声で用件を聞いてきた。


リリスはミストラと話そうと来たが、ルカの事が気になって、ミストラに容体を聞いた。

ミストラは、朝から寝ていると言う。そして、疲労がたまっているので、起こさないでおきたいと言った。


リリスは、安心したが、ルカに心労をかけ過ぎたのではないかと思った。

いつも共にミレイラを助け、戦ってきたが、ルカには国の剣士を追う役目も負っていた。

ふと、湯屋に行くと譲らなかった時の事を思いだした。


ミストラはリリスの様子をみて、少し待つように言うと、隣の部屋をノックした。

すると、騎士の女が出てきた。部屋に誰もれないように言うと、リリスに外で話そうと言った。


小さな庭園だが、よく手入れしてある。

日差しは強いが、影に入ると風が冷たくて気持ちいい。


ミストラとリリスは木陰の長椅子に腰かけた。


ミストラは「あなたの質問には答えられない事が多いと思う。だけど、誰かを陥れるために、ここに来たんじゃない」

「国は、ルカより経験深く強い者を送り込みたかったらしいけど、人で不足で私が来るはめになった」

「剣はからっきしでも、頭で補佐出来ると思ったけど、上手くいっていない」

そして「カインと信頼関係が出来ていない」と言うと、カインが髪を切り落としたのが、原因の一つだと言った。


分からんでもない。しかし、原因の一つではない。


リリスは、ミストラの話を聞いて、同情したくなった。異国の地で、人で不足で駆り出された女。

しかし、命の駆け引きが続いている以上、はっきりさせなければならない事がある。


「お前の目的はなんだ」

リリスは「あの女はクビにしたんじゃないのか」と言った。

ミストラは、「貴女に付きまとっていた女。あれからルカを引き離す。そして、ルカは東国の中央へは行かせない」


「そう言われて来た。最初はね」


何か含みのある言い方だ。


「手が出せないから遠ざけることしかできないのよ。命令系統が違う。ただ、何か違う動きをし始めている」

「カインに聞いたでしょ。国の武器の話。それに、剣士じゃない連中に襲われたって。関連があるかもしれない」


「私に出来ることは、報告だけ。後は上が判断するわ」

「判断次第では、最悪、西と東との争いに発展しかねない」

「だから、出来得る限り正確な情報が欲しい。上が間違った判断をしないために」


そして、見返りに、情報伝達網を提供すると言った。

仕組みは教えられないが、最短で二日あれば、西と東とで情報のやり取りが出来る。


リリスは、街でルカが受け取った手紙の事を思い出した。

しかし、「どうしても、そちらの都合としか言いようがない」


「カインの言う通り、完全には信用できない」

そう言って立ち上がると、戦争は誰も幸せにしないと言って、屋敷に戻っていった。


やってしまった。国の機密を口にした。

しかし、リリスと話した感触は良かった。


ミストラは空を見上げた。木漏れ日が痛いほどに目に入ってくる。

屋敷からシエラが走ってくる。


「もう、国の空は拝めない」


ミストラは、立ち上がると、ルカの元へ向かった。



ルカは目を覚ました。

ぼんやりとした意識の中で、ここは何処だろうと考えた。


赤い髪の事務員。名前は知らない。

色々な事を教えてくれて、お茶淹れてもらいお菓子もくれた。最後にお茶の葉もくれた。


あれから、何回かあの部屋に行ったが、会えなかった。

日が暮れると、帰ると聞いた。


顔を見たとき、体の力が抜けてしまって、倒れたところまで覚えている。

そして、今はベッドで横になっている。


体が重い。知らないうちに休息することを忘れてしまったようだ。

女が顔を覗き込んでいる。騎士の女。赤い髪の女の後ろにいた女だ。


騎士の女は、ミストラを呼んでくると言って部屋を出て行った。

喉が渇いた。水差しに手を伸ばそうとすると、力が入らない。

起き上がろうとしても、腕に力が入らずに体が支えられない。


どうしたんだろうか。


ミストラが帰った来た。

「まだ寝てなさい」そう言うと、下がったシーツを肩まで上げてくれた。

喉が渇いたと言うと、水差しでゆっくり水を飲ませてくれた。


「名前」とルカが言うと、「ミストラっていうの。会ったのは一回だけだったね。」

「お茶は美味しかった?お代わりをしたのは、あなただけよ」

ミストラは、国での些細な出来事を、大切な思い出のように言った。


ルカはの目から、涙があふれ出した。なぜだか分からない。

ミストラは、ルカを引き起こすと隣に座り、抱きしめてくれた。

不思議だ。腕に力が入る。


ルカは、ミストラを抱きしめた。


ミストラは、ルカの心の疲れは、まだ癒されていないと感じた。

暫くは、面会謝絶にしてた方が良い。特にミレイラは駄目だ。


ミレイラを見たら、自分の弱い心を押し込んで、剣を持って立ち上がるだろう。


グリンデルの言う通りだ。

もう一人は執行人が欲しい。無理なら剣士でもいい。ルカは疲れ切っている。そして、任務が変わり、更にこの地で動くのであれば、なおさらだ。


今のところは、騎士団とリリスたちがいれば、何とかしのげるか。

来るなら、あの弱い程度の剣士であってほしい。


ミストラはルカの、涙を拭いてやった。まだ、不安と疲れが入り混じった顔に、瞳はうるんでいる。

ミストラは思わず、ルカの頬に額に口付けを何回もした。

挙句に、ルカの髪を撫でながら、ルカの首元に顔を埋めた。


何という可愛さか。


さすがに、ルカは抵抗して、やっとミストラを引きはがした。

そういえば、アリアの子供にもしたが、あの時は、剣の鞘で殴られな。


ミストラは立ち上がると、お粥を作ってくると言うと、部屋を出ようとした。

部屋の隅に立っていたシエラが、後ずさりをする。


大丈夫。お前にはしない。


シエラに、誰も入れるな。ミレイラでもだ。そう言うと部屋を出て行った。

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