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剣士の国  作者: quo
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軋轢

三人が馬を休みなく駆っている。


夜が白み始める。日の光が本格的な暑さを準備している。

今日は、暑くなるだろう。


後尾を行くリリスは、ルカが気がかりだった。

馬を駆る姿は、遠目に見ても精彩さに欠けている。

若干だが先頭を行くには、走りが遅い。


剣士との斬り合いは見ていないが、その後から様子がおかしい。

ミレイラも気付いているはずだが、並走するわけには行けない。

出来得る限り早く屋敷に戻り、カイン達と合流したい。


日が差す頃、ティファニアの屋敷に着いた。

騎士が立哨している。

巡回の騎士に馬を預けると、ルカは馬を撫でながら、後から行くと言って馬を引いて行った。


ミレイラがルカに近づくと、大丈夫と言った。

リリスは、ルカも気になるが、ティファニアも気になっていた。

ミレイラに、心配させるようなことは言わないように、耳打ちした。


ペレスが歓迎して出迎えたのは、ミレイラに対してだけだった。

ミレイラに、ティファニアが待っていることを告げると、執務官が案内した。


ペレスがリリスに向き直った。

彼が言うには、昨晩から赤い髪の女とカインとの間で、もめ事が起きているとの事だった。


今は、赤い髪の女とカインは、別室で引き離してあるそうだ。

「こんな時な全く」そう、ペレスは毒づくと屋敷の中に入っていった。

余程、ひどい状態だったのだろう。


リリスが振り返ると、ルカがこちらに歩いてくる。

ルカを待って、ペレスから聞いた話をした。

顔色はよくなっているが、リリスと目を合わそうとしない。


とりあえず、カインのところに行こうとすると、屋敷の廊下で赤い髪の女と出会った。

背後に騎士の女がいる。屋敷の中でも監視されているのか。


「私はミストラ。手紙のやり取りで知っていると思うけど。あなたがリリスね」

ミストラは、よろしくと言うとリリスに握手を求めた。

「リリスだ。ガーランドにくっついてきた。それだけだ」


ミストラはリリスと握手するときに、手首の入れ墨を見た。

どこかで見たことがある。暇を見て調べておこう。


ミストラはルカを見ると、「久しぶり。覚えているかな」

そう言って歩み寄ると、ルカはミストラに抱きつく様に倒れ込んだ。


ミストラはルカに手の傷口を握られたが、構わすルカを受け止めた。

ルカをそっと、床に寝かせると、シエラに人を呼ぶように言った。



ルカはベッドで寝ている。ミストラは傍らに座って、ルカを扇子であおいでいる。

倒れ込んだ時には驚いた。


騎士達に抱き抱えられて、この部屋に運び込まれえた。

リリスから状況を聞くと、毒を疑ったが、ミストラの知る限りの症状は出ていない。

傷も問題なさそうだ。


安らかな顔で、静かに寝ている。


国を出てからのルカは、報告書を見る限り、剣士を含めると二十人近く斬っている。

剣士に至っては、この短期間で三人を斬っている。

執行人でも、そんな人間はいない。剣士を斬るなんて、年に一人、二人がいいところだ。


異国の地で、人を守りながら傷を負い、いつ襲われるか分からない緊張の中にいた。

まだ、十七歳だったか。過酷だ。同じ国の者をみて、緊張の糸が切れたのだろう。


微熱があったが、もう下がっている。暫くは養生させてやるのがいい。


ミストラは、久しぶりにノックの音を聞いた。


扉を開けると。銀髪の娘が立っている。青い瞳は憂いに満ちている。

この娘がミレイラか。ルカと行動を共にしている。


ミレイラがルカの容態を聞いてきたが、疲れがたまっていただけで、今は寝ていると伝えた。

そばに居たいと言ったが、今は駄目だと言って追い返した。


心配なのは分かる。今までルカが倒れなかったのは、ミレイラの存在が大きい。

しかし、それが負担であったのも事実だ。


「ミレイラを守って敵を斬る。それが剣士であっても」

それを何回繰り返した。私には無理だ。今は、何もかも忘れて休んで欲しい。



リリスはルカが、大事無いと分かると、カインの居る部屋に向かった。

ノックして入ると、カインがテーブルに突っ伏している。


カインは、他人事のように振る舞うが、内心は色々と背負い込んでしまう性格だ。

ミストラと言う女を用心しながら、皆を守るために走り回る。疲れているのだろう。


リリスは、把握している状況を手早く説明した。

付きまとっていた女は、ミストラの国の命で切られて、用を成さなくなった事。

剣士が子分を作っている可能性がある事。

軍隊が使う様な油が使われた事。


カインも、剣士以外の存在を確認している。

ガレスは、甥の訃報を聞き体調不良でティファニアと接見していなかったが、裏で誰かと接触していた事。

そして、剣士ではなさそうな女に襲撃された。

しかも、その女は、調理人がもっていた武器らしき物と、同じものを持っていた。


それらは、ミストラの国の物らしい。

リリスはミストラが、こちらの仲間ではないのかと問うと、分からないという。


ルカはミストラの情報で動いている。内容に忠実で、そのまま行動していた。

そして、そのおかげで助かりもした。

しかし、ルカが忠実な駒であれば、ミストラの指示次第で、こちらを躊躇なく襲う事もあり得る。


ルカを信じたい。それには、ミストラの事も知っておく必要がある。

状況からすると、カインは、ミストラと信頼関係を築けていない。


ルカの回復が優先だが、ミストラと話をしなければならない。

そういえば、ペレスの言った揉め事は何だったのか。


カインに聞くと、ミストラの国の武器が出てきたことを問おうとして、脅しに剣を振ったら、髪の毛が二、三本切れた瞬間に、悲鳴をあげられたそうだ。

そして、どうやったのか、ペレスの姪を味方につけていると。


当たり前と言えばそれまでだ。しかし、カインを煙に巻き、あの騎士の老人の姪を味方にしているとは面白い。


リリスは、腹を抱えて笑った。


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