表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣士の国  作者: quo
73/144

国の技術

カインとガーランドはティファニアの屋敷についた。

正面に三人の騎士が立哨してる。屋敷の周りを二名で巡回しているそうだ。


騎士たちによれば、ルカ達は戻っていないそうだ。


中に入ると、指南役のペレスが出迎えた。

カイン達が屋敷を出て間もなく、姪の騎士の女が剣士を斬ったそうだ。

にわかに信じがたかったが、満面の笑みでそういうのだから、信じてやろう。


ミストラは剣士に追われ、怪我を負って手当を受けていると、ペレスが言った。

本当だとすれば、少なくとも敵ではなさそうだ。

しかし、こちらを襲った者、あの女の騎士が斬った者。本当に剣士なのか。


そして、この外套と針金の出所が気になる。


ミストラは何かを隠している。

カインは、ミストラが手当てを受けている部屋に向かった。



ミストラは、半裸になり、自慢の美しい赤い髪をたくし上げ、シエラに背中を拭いてもらっていた。

正確には拭かせていた。


あれから、間断なく指示をしているが、シエラはよく応えてくれている。

迷いを抱く時間など無いだろう。そう、そして、立派な剣士が生まれるのだ。


傷口を見ると、出血は止まっている。後は、一日様子を見て化膿していないか確認せねばならない。

あの丸薬は、何個も飲めばいいという物ではない。傷を負ったら、出来るだけ早く飲まないと効果が出ない。


人の気配がする。カインとガーランドがノックをしないで部屋に入ってきた。

シエラは「無礼な!」と、言うと、ミストラに頭からシーツを被せた。


「ノックって知ってます?」


カインは、ミストラに聞きたいことがあると言った。

ミストラは、またかと思った。この男は疑り深い。首筋に剣を突き付けるつもりか。


ミストラは、シーツから出ると、カイン達に向き直った。

呆然としているシエラの傍らで、肌着と上着を着ると髪をおろした。


おろした髪は、絡まることなく、流れるように落ちてゆく。私の髪は美しい。


ミストラはシエラの様子をみて、思い出した。

この国。というよりも、この地方の者は、肌を見せることに抵抗を感じるようだ。


国では、あまり感じない。戦場に出ることになれば、関係ない。

しかし、私もそうだが、髪の美しさには敏感だ。民族性の違いだろうか。

ルカの真直ぐな黒髪も、アリアの緩やかに波打つ黒髪も、戦場では邪魔なばかりなのに。


そう考えていると、カインは、あきれた顔で、こちらを見ているのに気付いた。

仕方あるまい。


ガーランドは、深刻な顔で、もっと肉付きの良い体がいい。もっと食えと注文を付けている。

これは個人の好みだろう。



ミストラが、カインに無事を喜ぶ言葉をかけると、黒い外套と針金を投げてよこした。

雑だ。


ガレスの屋敷で一人斬ったそうだ。そして、これらはその者が身に着けていたものだと言う。

ミストラはシエラに外すように言った。


針金は、この前と同様に模造品のようだ。細さが断然に違う。

あとは黒の外套だ。特殊な染料で染められ、光をほとんど反射しない。

暗がりにいれば、夜目が利くものでも見つけにくい。


しかし、針金同様にお蔵入りになった品だ。

漆黒になる分、薄く明るい場所で黒く浮き上がる。

ランプの光をわずかに受けてもそうだ。そして、剣を持てば、黒く加工をした剣でも目立ってまう。

結局は、条件の合う場所で、監視をするために被っていたが、都合よくそんな機会はなく、返品が相次いだ。


装具所が会計検査を受けたきっかけを作った、いわくつきの品だ。


カインに、これの持ち主が、どうやって襲ってきたのかを聞いた。

明るいところには出ず、一番溶け込みやすい暗がりから、位置を特定されないようにしている。

使い方次第か。


しかし、この二つは実用的ではないが、この国には無い冶金技術と染料技術で作られている。

国の技術が持ち出されている。

ミストラは、国に持ち帰るべく、外套と針金を荷物入れにしまい込んだ。


カインはミストラに「それについて、詳しく説明してほしいんだが。それを持っていた者に関しても」と、言った。

ミストラは「こちらの事です。それに、私の立場では答えられないので」

「襲ってきた連中は、剣士ではないでしょう。しかし、深く関係しているのは間違いないでしょうね」

「向こうの手数は分かっていません。まだ襲撃される可能性があります。ガレスの屋敷での動きを教えてください」


カインは不審の眼差しで、ミストラを見ている。


ミストラは、いつもの癖で、指に髪を絡ませて遊んでいた。

カインの考えていることはもっとだ、私が来た途端に、次々と不審なことが起こり始めている。

しかし、これは、偶然の流れでしかない。どちらかといえば、助けているくらいだ。


カインが剣の柄に手を添えた。東国にきて首筋に刃を突きつけられるのは、これで四回目になる。

これも民族性なのか。


ミストラが、軟膏の残りがどれ位だったか思い出そうとしたとき、カインの剣がミストラの目の前をかすめた。

数本の赤い髪が、ゆっくりと床に落ちてゆく。


「言わねば、その自慢の髪を、」

カインが、その続きを言う前にミストラの悲鳴が屋敷中に響き渡った。


それを聞きつけたシエラが、部屋に飛び込んできた。

「助けて!」ミストラが叫ぶと、シエラは一瞬、ガーランドとカインをみると、カインに狙いを定め体当たりを仕掛けた。良い判断だ。


カインが難なくかわすと、床を転がりミストラとカインの間に躍り出ると、カインに向かって抜刀した。

シエラを育てた甲斐があった。


悲鳴を聞きつけた騎士団が駆ける。

ペレスは姪のシエラが剣をカインに剣を向けているのを見て、「貴様!」と、叫ぶとカインに向いて抜刀した。

騎士達もペレスにならって、全員がカインに向かって抜刀する。


カインは思った。目の前の女は、短時間で騎士団を操るまでに浸透した。

何か、大きな企ての中で重要な役割をしている。


ガーランドに目をやると、険しい顔でこちらを睨みつけている。

お前もか。


カインは剣を収めると、両手を上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ