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剣士の国  作者: quo
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取引と裏切り

ランプの灯が消えそうだ。油を足さねば、この部屋は闇に包まれる。

この老人と暗闇で二人っきりになるのは嫌だ。


老人は言った。

「アウロラよ。王に報告をちゃんと上げているそうではないか。」

「昔は、好き嫌いが多すぎて、本当に困ったよ。」


アウロラは、老人の話を黙って聞いている。

「真面目に仕事をしているね。でも、また、好き嫌いでが出ているね。」

「アウロラを失うのは、心が痛む。だから、こうして私は来たんだ。」


アウロラは、剣士が来るのか、国の間者が来るのか分からなった。

何よりも、目の前の老人が、いま、誰の元に居るのかも分からなかった。


「ルカを追っているね。好きなんだね。彼女の事が。」

「実は、ルカとカイン、ガーランド、あとはリリス。国の事務方が来ているが、その者も、邪魔なのだよ。」


意味が分からない。何を言っているのか。


「ルカの事は、王に報告すると良い。斬られたなら、それはそれでいいだろう。それが、お前の仕事だから。」

「しかし、ついでだ。彼らの動向を教えてくれないかな。出来れば、私たちの方も手伝ってほしい」


「教える」「私たち」「手伝う」。情報を漏らせと言っている。この国に、まだ誰かいるのか。

いずれにせよ、私は王の名のもとに追われる身になる。


「その代わり、アウロラ。お前の安全は保障するよ。」


アウロラは、目の前が歪み、そのまま崩れ落ちそうな気分になった。

選択肢はない。老人に分かりましたと言うと、ルカたちの居場所を教えてくれと、言われた。


この人は知っている。ルカの居場所など探すのに苦労をしない。この部屋をやすやすと探し当てている。

試されている。


アウロラは、協力者のところに行くと言うと、部屋を出る前に、ランプに油をなみなみと注ぎ込んだ。



三人は携行食を食べた後、何も言わずに動かずにいた。

夜の番は、リリスとルカが交代ですると言うと、ミレイラは今度は大人しく受け入れた。


リリスはミレイラをみて、学ぶべきことが多いと思った。

はじめは、騎士道も、人を率いる力も、生き残る術を知っておかなければならないと思った。


しかし、求すでにミレイラは多くのものを背負い込んでいる。

いつもそばに居て、支えてくれる者。多くの建国物語に出てくる、優秀な側近。


ルカに目をやると、さすがに痛かったのか、ミレイラが噛んだ痕に軟膏を塗りつけていた。

ミレイラは、あれから一度もルカを見ない。

ルカでは駄目なのか。


ルカが、目を慣らすためと言って、ランプの灯りを消そうとしたとき、一階から悲鳴が聞こえた。

あの老夫婦だ。

その声が聞こえた瞬間、ルカは「火だ!」と叫んだ。


リリスは、油が焼ける匂いを嗅いだ。

ランプ用の油は、どこの宿にでも置いてある。


リリスが窓から外の様子を見ようとすると、ルカは短刀を抜いて部屋の扉をけ破った。

誰もいない事を確認すると、ミレイラの腕を引いて、向かいの空室に飛び込んだ。


「リリス!」

リリスは、窓から離れてルカに続いた。


ルカは「人数が分からない。やり過ごして、こちらから追う」

そう言うと、空室の窓をわずかに開けて外の様子を覗った。

野次馬が集まってくる様子が見える。


一階では、まだ火事騒ぎが収まっていない。

剣士が何人いるか分からない。


リリスは、空室の闇に徐々に目が慣れてきた。

部屋で迎え撃つなら、部屋の入り口一つだ。少しは屋内での優位性が生かせる。


暗闇の中で、息を潜める。

リリスは、暗闇なれた来た目でルカのを見ると、わずかに口動かすのが分かった。

「廊下に一人。隣の家の空き部屋に一人。」


リリスは、頷くと、扉の外に意識を集中させると、確かに、静かだか廊下を移動する者がいる。

部屋の扉の前で止まったようだ。しばらくすると、扉を開けて部屋に入っていったようだ。


剣を抜いて、ルカに目をやると、外の男を見張っている。


集中して気配を探っても、部屋から出た感じはない。もう、立ち去ったのか。

扉に近づいた瞬間、油の匂いがした。ランプの油ではない。攻城戦で使う、火力が強い油だ。


宿ごと焼き払う気か。


ルカも気付き、立ち上がろうした瞬間、窓を突き破って矢が飛び込んできた。

外の男は射手だ。


ルカはミレイラに覆いかぶさっている。


部屋に入った男に油をまきに来た男、それに空き家の窓に一人。

火を放たれる前に脱出するには、空き家の男を黙らせる必要がある。

それには部屋に置いてある弓矢が必要だ。


リリスが、部屋を飛び出て、外の剣士を斬ろうとした瞬間、部屋の扉から剣が突き出てきた。

突き出た刃が、リリスの肩を切り裂く。


リリスが後ずさりして身をかわした。

ルカが扉に飛びつき、剣を深々と突き刺すと、男の悲鳴が聞こえた。


ルカは扉をそのまま押し破ると、右手に剣を振りかぶっている男の姿が目に入った。

ルカは自身の剣から手を離すと、左に飛んで男の剣をかわした。

遅れて、矢が二本、壁に突き刺さる。


男は踏み込み、二撃目を打ち込んだ。ルカはかろうじて短剣で受け流す。


入り口を狙われている。しかも、二射がほぼ同時に放たれている。

一射目を外しても、すぐに未来位置に二射目が放たれる。厄介な相手だ、


また放たれた二連射で窓は完全に枠から落ち、視界を遮るものがなくなった。


ミレイラに、伏せて動かないように言った。

ルカと男の剣の交わる音が聞こえる。ルカが劣勢のようだ。

扉越しに剣を突き立てた男は、まだ息がある。扉越しでは浅かったか。


頭を上げれば矢がとんでくる。しかも、射手の腕前はいいようだ。

二連射。さっきは窓が邪魔をしていたが、今度は当てられるだろう。


リリスが伏せていると、床に血が付いている。リリスの血だ。リリスが肩に触ると、もう血は止まりかけている。


ルカの劣勢は変わらない。きっかけが欲しい。二射。かわせるか。

部屋に戻れば、自分の弓矢がある。

ふとミレイラに目をやると、こちらを見つめて、立ち上がろうとしている。


「囮になる」

ミレイラはそう言った。その瞳は決意に満ちていた。

リリスはミレイラに窓際に立つように言うと、少し顔を出したら、部屋の奥に飛びのくように言った。

動きを読まれると、第二射が襲ってくる。


ミレイラが窓際に立つ。緊張しているのが分かる。

だが、彼女は背伸びや、我がままでこうして窓際に立っているわけではない。

状況を把握し、自分が出来る最良の事を考え出した。


皆で、ここを出よう。


ミレイラは呼吸を整えている。ミレイラに合図した。

ミレイラが一瞬、窓の外を覗き見ると、そのまま部屋の奥に飛びのいた。

矢がミレイラの後頭部をかすめる。


二射目がミレイラの未来位置に向けて放たれる瞬間、リリスが廊下に飛び出した。

そののまま、廊下に転がり出ると第二射がリリスの肩をかすめる。

空き家の男の一瞬の躊躇いで、部屋の外に出ることが出来た。ミレイラも無事なようだ。


ルカに剣を打ち込む男は、一瞬、背後の気配に気を取られた。

ルカは、それを見逃さなかった。


男が気付くと、懐に誰かいる。目の前にいた女だ。

女がこちらを見上げている。吸い込まれそうな、底の見えない暗い瞳。

男は恐怖で声を上げようとしたが、深々と刺さった短剣がそれを阻んだ。


男は何かを叫ぶように口を動かしながら、崩れ落ちた。


ルカは、短剣を抜くと、壁にもたれかかって、目をつぶると深く息をはいた。

リリスが隙を作ってくれたようだった。


まただ。


剣を振るう度に、何かに支配されてゆく。違う自分が出てくる。いや、本当の自分か。

斬り合いを楽しんでいた。一瞬、リリアの姿が見えて、引き戻された。

こんなに時間をかけずに、相手を斬れたはずだ。みんなを危険にさらしている。


リリスが部屋から弓矢を持って出ると、男は倒れていた。そして、ルカが壁にもたれかかって、虚空を見つめている。

声をかけると、リリスに向き直って言った

「二階窓。左から三番目」


リリスは「前に、矢の二本は剣で落とせるって言ったな。本当か?」とルカに問うた。

「二本までならやったことがある。それ以上、矢を放たれたことはない」


リリスは、思わず小さく笑ってしまった。嘘か誠か。試してみるか。


「お前の剣で、二射、落としてくれ。そのうちに私が相手を射る」


リリスは、矢を指の間に三本つかみ込むと、一本目を指につがえた。

目を閉じて深呼吸した。目を開けると、ルカに合図した。


ルカが剣に手をかけた瞬間。矢が放たれた。剣を引き抜くと、その勢いで一射目を、そして、剣を斬り返し、二射目を弾いた。


リリスはルカと同時に部屋の入り口に立った。

「二階窓。左から三番目」

部屋は窓の片方を全開にしている。次の矢をつがえようとする指だけが見えた。


リリスが矢を放つ。一射目が男の親指を射抜く。二射目は窓の少し右。そして最後は、それから少し上。

リリスは、すぐに次の矢をつがえると、そのまま構えた。

動きはない。やったようだ。

生きていても、指は潰した。矢を射ることは出来ないだろう。


リリスは、弓を降ろすと、窓を避けながらミレイラに近づき、無事を確認した。

一階の騒ぎは、前よりおさまっている。あと、何人剣士がいて襲われるか分からない。


そして、まだ息のあった男から、何か聞きださないといけない。

こちらを狙っているのは、何人だ。


振り返ると、ルカが男に剣を突き立て、止めを刺していた。

リリスは、ルカを睨んだ。

大事な情報源になんてことを。


ルカは、リリスの視線を感じつつも、男の目をそっと閉ざしてやった。


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