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剣士の国  作者: quo
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剣士達

カインとガーランドは、ガレスの屋敷が見渡せる小高い山へ分け入った。

木々がうっそうと茂り、日が昇っても、夜の暗さを保っていた。


ティファニアの屋敷より、二回りほど小さい。

住居と個人的な客を招き入れる程度の大きさで、執務は主にティファニアの屋敷で行われる。


相当に大きな領主ではないと、城など持てない。

ローレリア領に小さく古いとはいえ、城があるのは稀だ。


ガレスは頭がよく、古くは王朝貴族の血を受け継ぐ名家の出で、その人脈は貴重で戦乱の終息からローレリア領の発展に大きな役を果たしたと言う。

自信の血筋に誇りをもち、慈悲は無いが誠実であるガレスを、エルンストは参謀として傍らに置き、信頼をしていた。

彼自身も、信頼に応えるために、誠意をもって執務を行ってた。



そのガレスは、甥の訃報で寝込んでいるとの事だ。

執務は屋敷でやっていて、必要な決済だけをティファニアの屋敷に届けているそうだ。


ティファニアが言うには、甥とは特別に親しい間柄ではなく、過去に甥の不祥事を揉み消したことがあったが、ガレスの一族を守るためだったと言っていた。

ガレスは人を寄せ付けず、冷酷で厳格すぎる。無能と思えば身内でも遠ざける男で、賄賂を贈ろうものなら、すぐに刑台に送るほどの男だ。


それだけに、甥の不祥事を揉み消そうとしたのは、自身でも不本意だったはず。

その甥の訃報に寝込んでいるとは、思えない。


何かある。それほどの男なら、甥の訃報をしても、ティファニアの元を訪れるだろう。

そして何より、謀反など考えられない。


カインとガーランドは、交代で屋敷を見張ることにした。

昼間と夜の人の出入りを、一日分は見ておきたい。


しかし、ガレスに付いていた協力者がいないのが痛い。

そして、どのあたりまで接近していたのか、定期的な報告などをティファニアは明かさない。

例の商館長あたりが、支援したのだろうが。


カインは、どうせ剣士が来るなら、夜にでも仕掛けてやろうと思った。



ミストラはベットの上で目を覚ました。

あれからの記憶がない。疲労と出血で倒れ込んだのだろうか。

騎士たちが、見殺しにしれくれなくて、感謝だ。


腕と首に、包帯が巻かれている。

日は高く上り、暑くはなっているが、窓が開け放たれて風が良く通る。

薄いカーテンが日差しを遮って、部屋は涼しい。


首の傷は軟膏で、傷は閉じる。しかし、腕の傷は残るだろうか。

切り落とされるよりましか。


そういえば、傷の丸薬を飲んでいない。

この国の医療技術は高くない。早く飲んでおかないと、膿んでしまうかもしれない。


ミストラは起き上がると、自分の荷物が無いことに気付いた。

そもそも、この部屋は一体、どこなのだろう。


窓から外を覗こうとすると、部屋の扉が開いた。

あの騎士の女。シエルか。水の桶と包帯を持ったまま、無言で立っている。


ミストラが、ここは何処かと尋ねると、騎士専用の病室だと言う。

ティファニアの屋敷内でよかった。剣士が再度、襲ってくる可能性は否定できない。


もしかすると、カイン達が斬られて、ついでとばかりに、こちらへ向かっている可能性もある。

今度こそ、騎士に守ってもらわないと困る。


ミストラはシエルに、自分の荷物を知らないかと尋ねると、シエルは取ってきますと言って、水桶と包帯を部屋に置くと、どこかに走っていった。

ミストラは、水桶を取ると、自分で慎重に包帯を取った。


信じられない。縫い方が雑過ぎる。絶対に傷跡は残る。

私でも上手く縫える。医者が下手なのか、この国の医療はどうなっているのか。

しかも、なんとなく傷口が色が悪いような気がする。


剣じゃなくて、藪医者に腕を持っていかれるのか。


シエルが荷物を持ってきた。

ミストラは、荷物の中から道具入れを出すと、丸薬を急いで飲み込んだ。

首の傷に、軟膏をいつもの倍の量を塗りつつけると、腕の傷に、小さな瓶の酒で傷口を洗った。


ミストラは、おちおち怪我もしていられないのかと、ため息をついた。

気付くと、傷をみてシエルが立ちすくんでいる。


文官といえども、監査役の応援をしていた身。これくらいは出来る。

顔を背けて逃げないよりましかと、思っていると、シエルが新しい包帯を手に取った。


「私が巻きます」と言って、包帯を巻き始めた。

傷に当たらないように巻こうとしているのか、緩すぎてたたるんでしまう。

ミストラが、もっと強めにと言うと、少しだけ力を入れただけで、まだ緩む。


仕方がないので、ミストラはシエルから包帯を取り上げると、自分で巻き始めた。

シエルはじっと見ている。

ミストラは「この傷を縫ったのは誰?」と聞くと、「領主付きのお医者様です。ローレリアでも指折りのお医者様です」


だったら、国の剣士の半分は名医だ。


シエラは「傷は痛みませんか」と聞いてきた。ミストラは、包帯を巻きながら「痛いですよ」と答えた。

丁寧な口ぶりだ。私の首根っこを掴んで振り回してくれた彼女は、どこに行ったのだろうか。


シエラは、酒を持ってくると言った。痛み止めにか。しかし、それは戦場のでの急場しのぎだ。後方のベッドでやる事ではない。

知らない事、教えない事は罪だ。ペレス叔父さんは酷な事をする。

ミストラは、思考が鈍るからいらないと、断った。


包帯を巻き終わって、顔を上げると、シエラがうつむいて、声もなく泣いている。大粒の涙が、膝の上で握った手を濡らしていた。

何もできない自分が情けないんだろう。


ミストラは、自分も含めて国の人間は、こんな感情などなく、まして涙なんて流さないであろうと思った。

そんな暇なく、訓練だの修行だのを、子供のころからやってきた。


この国と私の国。どちらが異常なのか。


ミストラは、「おなかが減ったんだけど、何か食べるものを持ってきて」と、シエラに言った。

シエラは涙を拭うと、元気よく返事をした、部屋を出て行った。

要らぬことを考える隙が生まれないように、色々と命じてやろう。


「しかし」


ミストラはそう、呟いてベッドに寝転んだ。

行方知れずの剣士のリストを、頭の中で開く。

五年。ルカが斬った剣士も、五年前に失踪している。


もし、五年を境に何かが動いているとしたら。


ミストラは、リストの中の人物を五年前後で区切ってみた。

五年以前より多くなってる。

追われることになった理由に、共通点があるのか。


人数は二十人程度。その殆どは、国ではただの剣士だが、この国に来れば十人分の働きをする。

今日のはただの剣士だったが、斬れたのは、偶然だ。


この事は、グリンデルに報告しておく。

ルカのところに行きたいが、カイン達が不在なのが痛い。

ティファニアが、余計な行動をする可能性がある。


ルカには、すでに私が剣士に襲われた事と、三人とも戻れと伝える。

一緒の方が、対処しやすい。


また、鳩に頑張ってもらおう。


シエラが食事を持ってきた。バターが付いていないので、取に行かせると、窓に印をつけた。

手早く二枚の手紙を書いて、それぞれを丸い小さな筒に入れ込んで、それを封筒に入れると、印をつけて丸めた。


シエラがバターを持ってくると、丸めた封筒を渡して、裏のごみ箱に捨てに行かせた。

これで、封筒を監査役が回収して、間者に渡す。

今日の夕方までにはルカに情報が伝わるだろう。


あとは、グリンデルが、何かを掴んでくれるのを期待したい。

少しでも、相手の行動の先を行きたい。


シエラが汗だくで帰ってきた。

ミストラは、冷たいお茶が飲みたいと言った。



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