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剣士の国  作者: quo
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彼女と彼女

その日の夕刻。従卒がネリアの私室のルカを案内してきた。


ネリアは従卒に、仕官食堂に食事の準備をさせるように伝えるように指示すると下がらせた。ネリアは仕官待遇で迎え入れられていた。

個室に仕官食堂。専用の馬。従卒。この領地の兵団長に次ぐ待遇だった。


「食事を準備ができるまで、ゆっくりしていてくれ。私の私室だ。遠慮はいらんよ。」ネリアは言った。

湯をはってある。浸かっていくかと尋ねると、ルカは首を横にふった。


剣士の国は荒野にあるが、温泉は豊富に沸いていた。剣士たちにとっては、他国民と違って、毎日、湯につかるのはあたりまえのことだ。温泉を目当てにくる他国民も居るくらいだ。


そう緊張するなよ。そう言いうと、旅の荷物を預かりお茶を入れて勧めた。新鮮で、柔らかな緑の香りが部屋中に広がる。ルカは少し口を付けると、ちいさな声で美味しいとつぶやいた。

お茶は嗜好品で、庶民は飲む機会はあまりない。


ネリアが、剣を見せてもらっていいかいというと、ルカはうなずいた。

剣をとって鞘から抜いた。薄くわずかに湾曲している片刃刀だ。精密で速さを求めた剣術を使うのか。


分厚い直刀ので打撃と突きを重視するネリアの剣術とは、対極に位置する。


ありがとう。そういうと剣を鞘にしまって返した。


従卒が食事の準備が整ったと伝えに来た。


「仲間との出会いを祝して用意させたよ。よく食べてよく飲んでくれ。」

香草の効い肉料理に、魚の焼き物。薫り高いスープ。旬の果物を砂糖に漬けたもの。

どれも上流階級の食卓に並ぶものだった。


ネリアは食事をしながらルカと話した。年は17歳でネリアより6歳も年下だった。生まれはネリアの住んでいた町からは遠く、小さな田舎町だった。両親はおらず孤児院で育ち、今は官職について給金を得ていること。祖国から1か月歩いて旅をして、ここにたどり着いたこと。そんな話がとぎれとぎれだが続いた。どちらかと言えばネリアが聞いて、それにルカが答えるばかりだった。


ルカはきれいなしぐさで肉を口に運び、スープを飲んだ。剣士達は、いつどこに派遣されてもいいように躾されていた。テーブルマナーもそうだ。


ルカは料理を半分くらい残して、ご馳走様と言った。


ネリアは、口に合わなかったかと尋ねた。

ルカは目を伏せて暫く沈黙したあと、こう言った。

「美味しい物を少し食べ、運動したら湯に浸かって、ゆっくり休む」


ネリアは贅沢だね、と返した。

ネリアは酒をグラスに注ぎ、一気に喉に流し込んだ。ルカにも酒をすすめたが、彼女は首を横に振った。



空のグラスを見つめながらネリアは言った。「監察役かい?」

ルカは首を横に振った。そして、執行人とだけ言った。


「調べはついているってことかい。処分も決定済みと。」そう、ネリアがため息交じりに言うと、

ルカはうなずいた。


ネリアは、持っていたグラスをいきなり、床にたたきつけた。そして、声を荒げて話し始めた。自分の生い立ちと、ここまでの苦労。国の体制批判。顔を上気させ。

堰を切ったように語られるネリアの話を、ルカは黙って聞いていた。そして最後にネリアは言った。私がお前を斬ったならどうなると。


ルカは、自由になれると言った。


それを聞くと、ネリアは大声で笑い始めた。それならお前を斬って自由になってやる。そして自由に生きてやる。そう高らかに叫んだ。

従卒を呼びつけると、教場を開けるように指示をした。従卒は困惑した表情をしたが、ネリアは、ちょっとした運動さ。と従卒に言った。


教場は官舎の隣だ。準備しな。ネリアはそういうと、席を立って食堂を後にした。


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