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剣士の国  作者: quo
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城と騎士

ミストラは鏡に前にいた。背後に黒髪の女がいる。

黒髪の女は、ミストラの髪をつかむと、肩の前で銀の髪留めで束ね、残った髪は緩く結って、体の前に垂らした。


束ねた髪の中に、薄く細いナイフと仕込み、髪留めの裏に小さな工具類を張り付けた。

それが終わると、無言で部屋を出た。


ミストラは思った。こんなはずではなかったと。


グリンデルに、剣に自信がないと言った結果がこれだ。

この赤い髪は、何もせずに真直ぐに流すだけでよかった。

さっきの女に、抵抗しようとしたが、ハサミを持ち出されたので止めざるを得なかった。


ミストラは、深いため息をついた。

傍らには、装具所から送られてきた、武具と旅用具一式があった。

これを見るのは、子供のころに野営訓練をして以来だ。文官の全員が、そうだと思う。



ミストラは、グリンデルに条件を出していた。

任務は完遂する。そのために、資料所の自由使用の特権を与えてもらう。

グリンデルは、承諾した。


資料所はミストラの憧れだった。

彼女の無限の知識欲に、際限なく答えれくれる場所。それが資料所。

古今東西の歴史、民俗学、地政学、戦争記録、科学、建築、語学。


剣士の国は、戦いに関することに貪欲だ。情報と知識についてもだ。

資料所に勤務する者は文官は、序列にはいる剣士と同格だ。


私の武器は知識と情報量だ。

きっと生きて帰る。そして資料所に異動させてもらう。


ミストラは資料室に籠った。

グリンデルは、出発延期を一日しか認めなかった。

おかげで、監査役が作った経由地で、馬を変えながら休みなく駆ける羽目になった。


しかし、ミストラは、それでも東国に関する情報が欲しかった。


東国とは交流がほとんどない。国境を隔てる山のせいだ。

そして、交易を促す、魅力的な産物が両国にない。

要するに、互いに無関心。


東国と行き交う数少ない商人から得る、情報の記録がある。

確かに最近、代替わりでの胡散臭い権力争いの噂が、民衆の間にあるようだが、剣士がかかわっていそうな斬り合いの噂は無い。


監査役の報告書をめくる。


ルカは、東国の紛争に巻き込まれ、その一派について行っている。

そこで、剣士に出会って斬っている。

ルカが誘い出されたような記録だが、「だれが誘い出した」の記述がない。


それからは、王の直轄の女の話が多い。

邪魔をされていると言うより、来てみたら居た。

そんな感じだ。


そして、ルカはまた剣士を斬っている。「どうして」の記述がない。

「庇護者」と、あと何人か分からないが、剣士がいるという。


そもそも、報告書はルカの監視の報告書だ。今更でできた、行方知れずの剣士については、深追いしていない。


ミストラは報告書を閉じた。

これは、共助の精神が欠如し、生け捕りと言う概念のない無慈悲な人々の物語だと思った。


情報が足りない。


王の直轄の女とに会って、情報をもらう。駄目ならそれで仕方がない。

その他は、移動も含めて監査役の張った網を使わせてもらう。

ルカと、ルカが付いて回っている人たちにも接触する。


疑問はたくさんある。でも、今は、頭の中の本棚をいっぱいにしよう。

そう思うと、ミストラは三領主の家系図を取り出した。



カイン達は、ローレリアの城へ向かっていた。

すでに領内なので、先頭は騎士の老人が務めている。


先ずは屋敷に向かい、城へ移動する。

さほど遠くはないが、屋敷で色々と準備する必要があるそうだ。


先ずは、執務官に視察が早く終わった事を伝えなばならない。

そして、領内の状況の把握。


カイン達は、ローレリアの領主の屋敷に着いた。

中央貴族の屋敷と遜色ない威厳を放ち、広さも村一つ分はある。敷地内には別棟がいくつかある。

しかも、ほとんど城と言ってよい作りだ。


高い石の壁に、見張りの塔。今は埋め立てられているが、堀の後と機能していない跳ね橋。

遠くに見える城が、おもちゃに見える。

カインはもう、ここでいいんじゃないのかと思った。


そもそも、ローレリアは街道が交わる位置にある。

この地域の政治の中心がエンデオなら、ローレリアが商業の中心。正確にはそれを守護している。


商業の町は、エンデオ中心に近い。戦乱期に軍が通る街道を警護していたのがローレリア。

屋敷は当時の本丸跡に建てたもので、遠くに見える城は出城だそうだ。


主な収入源は通行関税だ。

ローレリアの領主は街道を整備し、衛兵を巡回させることで、商人や旅人の安全を確保している。

関税も安くすることで、通行量を確保している。


ティファニアの旦那は、頭がいい。だから。狙われもする。


カイン達が屋敷に着くと、使用人たちが慌ただしくティファニアを迎えた。

当然だ。主人が帰ってくる予定は、まだ先だった。

執務官は知っていたのか、落ち着いている。執務官はこちら側の人間だそうだ。



騎士の老人は、騎士隊長の出迎えを受けている。騎士隊長は走って来たのか、汗だくになっている。

あの老人は偉いのか。

衛兵が見守る中、ティファニアは屋敷へ入っていった。


執務室にティファニアが入ると、早速、執務官がティファニアの留守中の事について、報告を行った。


いつもより、王の近辺の異動がおおい。名誉職がほとんどなので、今回の件と関連性は分からない。

特段、ガレスたちに動きは見られず、夫のエルンストに身の回りにも異常はないとの事であった。


しかし、近隣の詰所が襲われ、火が放たれた。衛兵が斬られ、賊を追った衛兵は矢で射抜かれたという。

執務官は、詰所の隊長はガレスの甥で、賊を追っている最中に矢で射抜かれてしまった。ガレスはそれを知って、寝込んでいるそうだ。

騎士団が衛兵を伴って、原因を調べている。


ティファニアは、気の毒にと言うと、執務官に哀悼の手紙を送るように指示をした。


カインは、なんとなくリリスとルカの事を思い浮かべた。


カインとガードランドは、宿に置き去りにした衛兵に顔を見られている。

そして、衛兵は手紙の事を知っている。内容も宛先も知らないようだったが、その手紙の行方が気になる。


もし、手紙の内容がティファニア達の事に及んでいれば、計画を前倒しにする可能性がある。

そして、カインはティファニアを完全に信じているわけではない。まだ明かしていない情報を持っている可能性がある。

ミレイラと契約したが、ティファニアを守るために、命は張れない。


ティファニアが執務官に、城の件を切り出した。

執務官は、いきなりの入城は、領民に不安を与えるから、今は控えてほしい、そして、機能するようにするのに、一月はかかると言った。


まだ先だが、建国記念日の準備と称して、いつでも入城出来るようにするのがいいと進言した。

ティファニアは、これを了承した。


問題は、カインとガードランドの扱いと、ティファニアが巡視を切り上げて帰ってきた理由。

そして、ミレイラの所在だ。


カインとガードランドは、名家当主の子弟で、ティファニアの護衛のために自ら志願したことにした。

客人扱いにすることで、ある程度、領地と屋敷内の自由が確保できた。

ミレイラは、武を重んじる地方貴族の家で、騎士として先方の騎士団と交流するために留まっていることにした。


ティファニアの早期の帰国の理由は体調不良とし、引き続き、執務官が前面に出ることとした。


一応の体裁は整ったが、襲った方は逃げ込まれたと分かっているはず。

そして、ティファニアを監視し、夫のエルンストとの連絡を妨害するだろう。

屋敷内に人が多すぎる。ここに、反エルンストの息がかかった者がいるのは、否定できないと執務官も言っていた。


やはり、出来るだけ信頼をおける者で固めて、小さな、あの城に入った方が安全かもしれない。


四六時中、ティファニアについておきたいが、カインとガードランドが側にいるのはまずい。


そう考えていると、一人の女の騎士があられた。

ティファニアの前に膝をつくと、巡察からの帰還を喜んだ。


そして、振り返ると、カインとガードランドに言った。

「客人といえど、頭が高い。騎士指南役ペレス様より、直々にティファニア様のお側での警護を命じられた。客人は別室に下がっていただこう。」


執務官曰はく、騎士の老人の姪だそうだ。

カインは、また騎士の老人と一緒にいる気分で、憂鬱になった。


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