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剣士の国  作者: quo
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準備と休養

ルカたちは、ティファニアと別れた後、エンデオの北の門前町に行くことにした。

途中の町を考えていたが、あまり痕跡を残したくない。小さな町では目立ってしまう。


到着は野営をはさんで、昼頃に入ることにした。

三領主の門前町だ。衛兵が多いだろう。深夜や未明に入れば怪しまれる。


大きな町ほど、人の出入りが多い。紛れるのに好都合だ。

そして、概ね、情報屋や偽造屋がいるものだ。通行証や身分証明書を手に入れたい。


リリスは、数か月かけて準備することを、数日でやらなければならないと考えると、頭が痛くなってきた。


昼も過ぎた頃、リリスは、ミレイラに野営に入ると言った。

ミレイラは、まだ明るいとから進みたいと言ったが断わった。

野営の準備が、如何に大変か教えて差し上げねば。


リリアは、地図から近くの山道を見つけ出し、河原へ向かった。

運よく、野営するには快適な場所だった。


リリスは荷物を置くと、森に入り辺りを見て回った。

熊やオオカミの足跡は無かった。香草をちぎってくると、手持ちの粉と混ぜ合わせて、水で溶かし周りに撒いて行った。

ミレイラが興味深そうに見ている。害獣除けだと言って、鼻の近くで嗅がせてみると、目から涙を流して咳き込んだ。

リリスが、いい勉強になっただろうと言うと、涙目でリリスを睨んだ。


ルカは木を集めると、ナイフで適当な長さに切り分けた。

木をナイフで薄く切って、火口を作った。


ナイフの柄の中から石の棒を取り出すと、ナイフの背でたたいた。

白く大きな火花が飛んで火口に火が付いた。


後は、火種を消さないように、木を重ねていくと、焚火が完成した。


ミレイラとリリスは、興味深そうにみていた。


リリスは、ナイフから出した石の棒について聞いた。

ルカの国で作られているもので、金属で打つと、雨が降っていても大きな火花が散るそうだ。

本来は、爆薬の導火線に火をつける物だそうだ。


傷の丸薬に、導火線に手早く火をつけられる道具。

西の国は、毎日、戦争しているのか。


後は、水を沸かして終わりだ。


ミレイラは、一人で野営するとしたら、準備にだけで深夜になると思った。

野営の準備は、日の高いうちから始める。知らない事だらけだ。


リリス楽し気に、ミレイラに晩飯は、肉が魚のどっちがいいか聞いてきた。

ミレイラは、リリスが何かを企んでいるのが分かった。


リリスが森に入っていくと、ミレイラがルカに魚を突いてみたいと言い出した。

ルカは、木の棒にナイフを括り付け、銛にしてミレイラに渡した。


ミレイラが狙いを定めて銛をついても、魚に一向に当たらない。

意外に難しい。


ミレイラの苦戦を横目に、ルカは大きな石を持ってきた。

ミレイラは何をするかとみていると、川の中の石に、思いっきりぶつけた。


すると、魚が浮いてきた。

ミレイラはナイフの付いた棒を持ったまま、浮かんだ魚を見つめていた。


ルカたちが魚を回収していると、リリスが戻って来た。

その手にはウサギが握られていた。リリスはミレイラに優しく微笑んでいる。



日が暮れた。

目を背けながらもさばいたウサギと魚が、今日の晩餐だった。

ウサギの肉は固く、血の匂いがした。魚は味が無い。

ミレイラがから、表情が消えていた。


リリアは、今日は豪勢な方だと言った。雨の中、追って来る敵怯えながら洞穴で空腹に耐える。

そして「ミレイラにそうしてくれとは言わないが、それが戦場での日常だ」と言った。


皆と一緒にいるだけで、学ぶことが多いと思う。

世間知らず。それを認めるのがつらい。


ふと見ると、ルカが何か小瓶に詰めた粉をかけて、ウサギの肉を食べていた。

美味しくなると言って、ミレイラとリリスに渡した。

確かに、臭みが消えてうま味がでた。味があるというだけで、こんなにもうれしいものなのか。


リリスは、これも剣士の国で作られているのかと思った。



後は寝るだけになった。


食べた後の物は、穴を掘り、害獣除けの粉を撒いて埋めた。

熊やオオカミを寄せ付けないようにするためと言う。


火は絶やさない。

ルカとリリスとで交代で番をする。ミレイラも番をすると言ったが、リリスに無理だと言われた。

火は害獣避けになるが、山賊を引き寄せかなえない。


まわりを警戒しながら、何か起こる前にすぐに皆に知らせる。

リリスに休むのも勉強と言われた。




ミレイラは無理をしようとている。

リリスは、昔を思い出した。


自分が駆け出しのころ、火の番をしていたのに寝入ってしまって、オオカミの群れに襲われた事があった。

命を落とした者はいなかったが、多くの怪我人を出してしまった。部隊は後退した。

当然、報酬は得られなかった。そして、部隊から追い出され。自分を入れてくれる部隊は無かった。


みじめだった。


しかし、命拾いをしたから、火の番が、夜の森がどんなに危険か身をもって学んだ。

学ぶことが出来なかった傭兵はいなくなるだけ。


ミレイラに教えたいことは、たくさんある。

しかし、命がけで身に身に着けたことを、教える術を知らない。

リリアは、自分の事をもどかしく思った。



ミレイラは寝付かれなかった。

緊張感と焦り、自分が何もできない事へのみじめさ。

色々なことが混ざり合って、頭がいっぱいになっていた。


薪が弾ける音がした。見るとルカが火の番をしていた。

焚火の光で、浮かび上がるルカ。静かに炎を見つめていた。


ミレイラは起きだして、ルカの隣に座った。

ルカは横目でミレイラを見ると、また炎に目を向けると薪をくべた。


沈黙の時間が長ければ長いほど、負の感情が心を覆う。

みんなは、私を迷惑に思っている。

私は、みんなの足を引っ張ている。


心が重くなっていく。


ルカの腕の傷。

ミレイラには、何もできなかった。


ミレイラは「ごめんなさい」と、ルカに言った。

「ルカの傷をみて、怖くなって、目をつぶってしまった」

「おかえりなさいって言えなかった。誰よりも、私が一番に言わないといけなかった」

そしてまた「ごめんなさい」と、言った。


ルカはミレイラに振り向くと、

「リリスに、傷口を縫うのが下手って言うの忘れてた。」

「それと、ただいま」

「今日は言い忘れたことが沢山あった日だ」


ミレイラは「そうだね」と言いうと、少し心が軽くなったのを感じた。



ルカが、「早く寝て」そして、「明日の朝、起きたら剣の稽古をしよう」と、言うと、ミレイラは頷き、寝床へ帰っていった。


リリスは浅い眠りの中、二人の会話を聞いて少し安心した。


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