表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣士の国  作者: quo
56/144

もう一人

蒸し暑くてかなわない。

窓は大きく放たれていたが、湿気をはらみ、部屋全体を覆ていた。


そういった理由で事務所に来ない者もいる。

此処には、彼の秘書役の女と、グリンデルが立っていた。


秘書役の女は、この国の中では珍しく、緑の瞳と赤い髪をしている。

黒髪を羨ましいと思ったことは無い。子供頃、赤い髪をからかった相手を、剣技の授業で打ちのめした。

それからというもの、より赤い髪を自慢するかのように、背中まで伸ばしている。



部屋の扉が開くと、間者の女が入ってきて、長椅子に座った。

秘書役の女は、ノックもせずに入ってきた。彼女はこの手の来客者に慣れていた。

お茶に口を付けな者もいるが、毎回お茶を出している。


グリンデルは、間者の女の向かいに座った。


「ルカは、剣に呑まれていない。誰かの影響を受けている」

間者の女は、そう言うと、男の顔が転写された紙を、グリンデルに渡した。


「二人目だ。もっといるそうだ。」

そう言うと、グリンデルはある名簿の事を思い出した。


未だに居場所が分からない剣士達。何年経とうが抹消されない。年齢的にもういない者、あるいは病魔に襲われて倒れた者もいるだろう。


「ルカが斬った二人は、東国の誰かに庇護されている。そしてルカを邪魔に思っている」

「最近、痕跡すら残さずに、文字通り消えた剣士名前の中に、二人がいた。」


グリンデルはが、こちらには情報が上がってきてないといった。

そして、王の直轄の女が、部下の邪魔をしていると言った。


間者の女は「王の命には忠実だが、手段を選ばない。」

そして、まさか東国に押し込んでいたのが裏目になるとはと、ため息をついた。


「逃げた剣士を庇護者している者を探そうとしている。そのためなら、東国の争いごとにもに介入しかねない。」


秘書役の女は、話に興味ない素振りで、自慢の赤毛を指に巻いて遊んでいる。


グリンデルは東国への介入するとは、どういうことかと、間者の女に問うた。


間者の女は、「東国が分裂しかかっている。ルカは、その一派の貴族と行動して、東国の中央へ向かっている。」

「その一派は二手に分かれたそうだ。剣士を庇護する連中が、剣士を使って東国分裂の黒幕なら、ルカにも、もう一方にも剣士を遣わせるだろう。」そして、剣士が引き金になって戦争が起きれば、我々も危ない。と付け加えた。


グリンデルも間者の女も「執行人」の増員が必要だと考えた。


グリンデルは、王の意図がつかめずにいた。ルカはもういいのか。勝手な行動をする、あの女の知っていて、敢て眠りから覚ましたのか。


グリンデルは善処すると言いうと、間者の女は部屋から出て行った。

秘書役の女が、冷めたお茶を片付けている。


グリンデルは秘書役に、執行人が張り付いている案件の数と、評価中案件の件数を尋ねた。

秘書役は、茶器を片付けながら、それらの件数をすぐに答えた。


やはり足りないくらいだ。


グリンデルはアリアの所在を聞いた。

秘書役は、「海が見たいと言って、どこかに行ったそうです」


いつもそうだ。人を煙にまいて、自分で直感で、どこかの剣士に張り張り付いている。

捕まえるときは、帰省しているときぐらいだ。



グリンデルは思った。

「執行人」ではなくても、機転が利いて、剣士や、あの女やることに、先回り出来る者でもいいだろう。



秘書役は悪い予感がしていた。この手の話は、人払いするのが絶対だ。なぜ、私がお茶を淹れる必要がある。

彼女は文官だが、それなりに剣術を身に着けている。しかし、応援に行く程度の話だ。

国情調査や剣士の心理分析が本来の仕事だ。あと、お茶を出すことも。


話しからすると、東に行けば帰ってこれない。命も危ない。

グリンデルは窓の外を見ながら思案している。もうすぐ定刻だ。


グリンデルは振り返ると、「ミストラ君」と、秘書役の女の名を呼んだ。

そして、東へ行けとミストラに命じた。


ミストラは「私は執行人ではありませんけど」と、言い、お茶は誰かが淹れないと困りますよねと、食い下がった。

グリンデルの表情は変わらない。


ミストラは定刻出勤の定刻退勤の生活に、別れを告げた。



カイン達は無事に分岐碑に着いた。

東の空が藍色に染まっている。もうすぐ日が昇る。


ティファニアとミレイラは、無言で抱き合っていた。

騎士の老人は、肩を震わせて泣いていた。


二人の間に、もはや言葉は必要なかった。

ティファには、ミレイラに指輪を渡した。


太陽と風に揺れる小麦の穂が描かれた指輪。

ティファニアの生まれた家の家紋だ。


何かの役に立てばと、ミレイラの指にはめてやった。


ティファニア達は、もう必要ないとして、手持ちの金のほとんどをミレイラ達に渡した。

ティファニアはルカを呼んだ、

そして、ルカの手を取ると、ミレイラを守ってと頭を下げた。


ルカも頭を下げると。「私の剣に誓って、ミレイラ様をお守りいたします。必ずティファニア様の下へお送りいたします。」と言った。


ルカとて剣士としてのたしなみを心得ている。

教養として教えれただけだったが、ティファの顔を見たら、心の底から湧き出るように言葉があふれ出した。


「剣に誓って」カインは、もう何十年も言っていない言葉だと思った。


雲は去り、上りゆく太陽が、空を藍色から青に染めようとしていた。

出発の時が来た。


カインは馬車をゆっくりと走らせた。


ミレイラは「行ってきます」と言うと、ルカとリリスと一緒に、エンデオへ向けて駆け出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ