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剣士の国  作者: quo
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闇への道

日が沈みかけている。

木々の影が長く伸びて、道を黒く染めている。


ルカは馬で駆けていた。

街道を行く人々は少なく、闇夜を避けるために宿場や町へ急いでいた。


詰所から奥に入り込んだところにある廃村。

そこに剣士が居る。


ルカは、詰所が見えてくると、森に目をやった。

ゆっくり進むと、草が踏みつぶされているところがあった。

木に隠れているが、廃道が見える。


馬を慎重に進めると、轍あった。頻繁ではないが馬車が通っている。

人の通った後もある。廃村への道だろう。


ルカは、道をたどりながら、ゆっくり森の中に入っていった。


森の中には、もはや日の光は入ってこず、一足早く闇夜となっていた。

ルカは、途中で馬から降りると、森に入り、道を追いながら奥へと進んだ。


罠に気を付けながら、慎重に進んでいくと、血の匂いがした。

辺りを見渡すと、何か引きずられた跡がある。

近づくと、息絶えた衛兵が二人いた。


二人とも背後から薄い刃物で心臓を貫かれている。鎧ごと。


剣士か。


ルカは森を進んでいく。空は雲に覆われ、時折、月明かりが雲間から差し込んでくる。

月明りが廃村の入り口を照らした。かろうじて立つ丸太には、文字が刻まれていたが朽ちて読めなかった。


入り口を迂回して、茂みに潜んで村の中を覗うと、大きな屋敷があった、

リリスが言ったとおりだ。

馬車が無い。誰もいないのか。


ルカは剣の柄に手をかけると、姿勢を低くしたまま物陰に潜んだまま屋敷に近づいて行った、

屋敷まであと少し。もう、身を隠すところはない。


ルカは屋敷に早足で近づくと、屋敷の入り口に立った。

居る。剣士の独特な気配。

ルカは多くの剣士を斬ってきたが、皆、暗く底が見えない沼に潜む獣のような気配を感じていた。


床の軋む音。

ルカは後方へ飛び下がると、一人の男が現れた。


髪はなく、浅黒い肌。身は細く、肉がやっと骨に巻き付いているような体をしている。

そして、顔は口から裂けた傷を荒く縫った跡がある。

浅黒い肌に、暗闇の稲妻を模したように浮き上げっている。


「執行人が狩にきて来ていると聞いた。」


男はそう言うと。剣を抜いた。両刃の直刀だが、紙のように薄い。そして、先端にいくにつれ細くなっている。

衛兵を斬ったのは、この男か。


ルカは剣の柄に手を添えたままだ。


男は続ける。

「ここは私の安住の地だ。お前も一緒に暮らすか。気楽でいい。」

そして、新しい王は寛大だと。


ルカには意味が分からなった。国の命に逆らった者の言いぐさではない。

そして、新しい王とはなんだ。


ルカの意識に揺らぎをみた男は、一気に間合いを詰めて剣を放った。

ルカはすぐに剣に集中して、剣を抜いて男の一撃を受け止めた。


男の剣は、ルカが受け流すより早くすり抜けると、ルカの右足に浅い傷をつけた。

すぐに男の剣がルカの喉元に食いつくと、間合いを大きくとって、剣で弾き飛ばした.


男の剣はたわんでルカの剣をすり抜けると、首元に飛び込んだ。

ルカは体ごと回転して地に伏せ、また間合いをとった。


男の剣は、間断なくルカを襲う。


あの剣のしなりが、ルカが斬る隙を与えない。わずかにしなることで、剣をすり抜け、また攻撃に移る。

ルカは剣を放てないまま、剣で受け、弾いてはそれをバネにした剣に襲われていた。


一撃でも剣を振りたい。


その焦りが、ルカの隙となったなった。

男のが放った心臓への突きを剣でかわすと、軌道を変えたた剣を避けきれなかった。

ルカの右腕に刃が、深い切れ目を作った。


骨まで斬れていない。

相手の剣は速さを増す。傷は開き血が止まらない。

そして、首にも浅く切れ目を入れられた。


「斬られるんだ」


ルカの心の中が、自分が息絶える瞬間で一杯になっていく。そして、それは期待と興奮になった。

ゆっくりと、そう、そうだ。次は左手を。

辺りの草も木も、空も消えていく。ルカだけの空間になっていく。


ルカは斬られゆく自分に吞まれていった。

集会場と同じだった。

男の太刀筋から、受け流した後の軌道が分かる。もっと速く。見切れなく迄、速く。


ルカの目は大きく見開かれ、襲いかかる剣に映る自分を見ていた。



男は冷静だった。次第に剣の軌道が読まれているのが分かった。

これほど打てば、分かり始めるだろう。ほとんどの剣士は、軌道を読む前に斬ったが。


最後だ。


男は連撃の隙をつき、ルカの剣をはじき上げた。そして、深く腰を落とすと、ルカの下から首元へ剣を突き上げた。


ルカは男の剣が迫るのを見ていた。時間がゆっくり進んでいく。

そうだ。それが本当のお前の剣技だ。


じわりと剣が喉元に這い上がってくる。そして、ルカの剣が振り下ろされる。

ルカは、這い上がる剣が自分の首を貫き、同時に自分の剣が男の首を落とす瞬間を待っていた。


それは、同時にきらめき合う命のやり取り。

ルカは、その瞬間を、ゆっくり進む時間の中で待っていた。


「ルカ」


ルカは、ゆっくり進む時間の中で、後ろから腕をつかまれた。

振り返るとミレイラが立っている。ミレイラのが何か言った。


そうだ。私は「行ってきます」と言った。帰らないと。


その瞬間、ルカの空間は裂けた。

突き上げられた剣を飛び下がり避けると、更に下がった。

男のルカの踏み込みも遠く届かない。


男は、剣を完全に見切られたことに動揺した。

この距離で仕切り直し。しかも、手の内は明かしてしまった。


ミレイラがつかんだ腕の感覚が残っている。剣に呑まれる前に、連れ戻してくれた。


ルカは懐から出した面を被った。誰でもない。一人の剣士になる。

落ち着く。これまで、一人であることの恐怖を隠すための面。


でも、ミレイラが見てくれている。余計なことは考えない。一振りの剣になる。


男は目の前の剣士の気配が変わったのを感じた。静かだ。


面を被った剣士は、抜刀したまま、まっすぐにこちらへ向かってくる。

男は呼吸を整えると、大きく踏みこみ、剣士の首元に一閃を放った。

剣士は剣で受けることなく、身をさばいて避けた。


剣士は男の胴に斬り込んだ、男は剣のたわみを使って、剣士を大きく懐に誘い込もうとした。

しかし、剣士の剣は、吸い付くように男の剣を追う。まるで磁石で吸い付くように剣が離れない。


男は飛びのくと、体を立て直した。

見えているのか。さっきの動きと違う。


男の剣は、剣士を何度打っても同じように、剣のたわみに以上に深く切り込まれる。

そして、剣士の剣が反動を利用して男に襲い掛かる。


男は、最後が近いと感じた。

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