契約と警告
ミレイラとティファニアの捨て身の作戦のため、皆が動き出した。
先ずは、移動手段の確保だ。
早速、ティファニアは呼び鈴を鳴らすと、リロワがとんできた。
ティファニアは、馬車と馬を調達が出来ないか相談した。馬車は出来れば二台。
それなりの馬車に乗っていれば、ティファニアもミレイラも、怪しまれずにすむ。
さすがに、領主夫人が馬にまたがって通るとなると、怪しまれるのは必至だ。
リロワは、馬は使用人に用意させる。町には荷馬車位しかないが、得意先の夫人に当たってみると言った。
陶器の工廠と職人たちを有し、金持ちや貴族に納めている。
ここから馬で半時のところの森に邸宅を構えている。遊ぶところがないので、この町には、よく来ているそうだ。そして、この屋根裏を愛用していると。
リロワが早速、夫人の邸宅に向かった。
ルカとリリス、ミレイラは床に地図を広げていた。
ローレリア、エンデオ領、ダモクレス王都
ローレリアはこのまま進む。エンデオ領はローレリアを通過するか、迂回して直接入る。王都はエンデオ領から。あとの二つの領地を通過してもいいが、内部の状況が分からない。
地図では、王都を中心に、ほぼ均等に三領地がある。
確かに、互いが監視し合って、拮抗している。
昔の三領主が王朝を中心に、分割しあったそうだ。
ミレイラは迂回を選択した。リリアは、妥当な選択だと思った。
ローレリアを突っ切ると、ミレイラが父のもとに向かっているとばれる。
出来るなら、ティファニアと城に籠城していると思わせたい。
しかし、エンデオ領にどうやって入るのか。
ローレリアの令嬢が、裏口から入る理由がない。それに、ティファニアの籠城の話が伝わっていれば、最悪、拘束されかねない。
ミレイラは、あの商人を通じて、父のところまでの道を確保してもらうと言った。
リリスは、目を閉じでため息をついた。そして、床に寝転んでしまった。
相変わらず雑な計画だ。それに、あの商人の力にも限界があるだろう。私一人なら何とかなりそうだが、ミレイラを連れて行くのは、荷が重い。
いざと言うときのために、ルカを連れて行く。そもそも、ルカとミレイラは離れることは無い。
カインとガーランドがティファニアと籠城で。私とルカで、敵地の中をミレイラを連れて父親の下へ。
どっちもどっちか。
リリスが目を開けると、ミレイラが自分の顔を覗き込んでいる。
申し訳なさそうにしている。無理のない。所詮は金持ちのお嬢さん。
「でも、それでいい。」リリスはそう思うと、起き上がった。
ミレイラを見て、何とかなるといった。
彼女には、人を引き付ける魅力がある。
屋根裏部屋で、リロワを待つ間、ミレイラは下の物置で目を光に慣れさせていた。
ルカは寝ている。休めるときには、休んでおく。
リリスが外を見張っていると、あの女が見えた。しかも、こっちを見ている。
リリスが気付いたのが分かったのか、道を歩き始めた。
リリスは、ルカに交代を頼んだ。
カイン達の様子を見てくると言うと、裏口から外へ出た。
表に出ると、少しだけ後ろ姿が見えた。後をつけると市場で、何か物色し始めた。
この女は、何を考えているんだ。リリスは思った。
リリスが見ていると、露店で生地を買った。そして、生地をもったまま、リリスに近寄ってきた。
「どうですか?この生地。掘り出し物ですよ。」
そう言うと、一緒に歩き始めた。リリスが何の用か尋ねた。
「あなたが、勝手に付いてきたのでしょう。私は、市場で買い物がしたかっただけです」
嘘だ。こっちを見ていた。幾つかあるのぞき穴の中で、リリスの物だけを見ていた。
「でも、せっかくなので、情報交換と行きましょう」
「陶器工廠のご婦人は信頼できます。ただ調達できるのは、予備の馬車一台だけです。宿の衛兵は、最低限の人数をおいて詰所に帰りました」
「ローレリアに直行ですか?」
リリスは、そうだと答えた。
すると女は「ローレリアにせよ、エンデオにせよ、進むと丘に詰所が見えてきます。丘に建てられていて、眺めがいいんです。街道が良く見渡せます。」
「その奥に廃村があります。村の真ん中に川が流れていて、花も咲いています。きれいですよ」
「でも。良くないですね。衛兵は仕事をすっぽかして見回っていませんから、良くない人が居ついてしまっていました。馬車もありましたね」
リリスは、ならず者を集めていた男を思い出した。
衛兵が巡回していない。かくまっていると言う事か。
女は立ち止まり、リリスの方をむいていった。
「剣士がいます。必ずあなた方を斬りに来ます。」「その剣士を相手に出来るのはルカだけです。」
その表情に、笑みはなく、とぼけた物言いは無かった。
リリスは女に言った。ルカには手を出さないはずではと。
女は表情を無くしていた。
「ルカには手を出しません。しかし、ルカは剣士を斬るでしょう。斬らなければ、あなた方は無事では済ませれません」
「ルカにこのことを伝え、剣士を斬らせる。それが、あなたたちの安全につながる」
表情もなく、淡々と無慈悲な選択を迫る。それが、この女の本当の姿だ。
女は「契約違反には当たりません」そう言うと、市場の人込みに消えていった。
リリスは屋根裏部屋の裏口に帰ってきた。
夜を待って、森に潜む剣士とやらを排除しよう。
矢で狙い撃つ。新月の夜に、城壁の見張りを何人も射抜いた。
自分たちの安全のために、ルカを盾にするわけにはいかない。
そう、考え込んでいると、裏口の扉が開いた。ルカが中から開けたのだ。一瞬、驚いたが周囲を見渡し、扉を閉じた。
ルカに合図が無いのに開けたことを注意しようとすると、ルカが声もなくしゃべりかけてきた。
「剣士を斬れと言われたな」口元から、そう読めた。
いつものルカとは違う口調。全く別人のようだ。
「国の者だろう。彼らは嘘は言わないから安心して良い」
「剣士の居場所を教えてくれ」
リリスは答えた。ルカ一人に押し付けたくないと。
するとルカは「一人で何人も斬った。今度も一人で斬る」
何人も。そして一人で。それは、自分の日常を語るような口ぶりだった。剣士の国の連中は、皆、そうなのか。
リリスはあの女の言った場所を、ルカに教えた