探す人
ネリアは巡回から戻ると、報告書の作成を従卒に任せて、街へ向かった。
街に出ると、人々は尊敬のまなざしでネリアをみた。皆が軽く会釈をし、大きな声で名前をよぶ子供たちもいた。そんな者たちに手を振って挨拶をした。
しかし、目は黒髪の、頬に傷のある女を探していた。
昼頃になっても見つからなかった。あまり外出が長くなると怪しまれるかもしれないと、兵舎に戻ろうとしたとき、食堂から包み紙をもった黒髪の少女を見つけた。
まだ若い。長い黒髪に白い肌。右ほほに傷。鋭利な刃物で一瞬にしてつけられたような、きれいな一直線の傷だ。白い肌は面をつけている時間が長いせいか。なら、どこかに雇われているわけではないだろう。
少女と目があった。黒い瞳でこちらを見た。切れ長で黒い瞳の目が、じっとこちらを見ている。
ネリアが「あなたがルカ?」と尋ねた。ルカが、「そう」とだけ言うと、沈黙が流れた。
ネリアが紙包みをみて、何を買ったのかを聞くと、パンと果物。あとは少しの木の実と答えた。ここから南に行き牧草地を抜けてると小高い丘がある。そこで食べるのだそうだ。
そう言いうと、ルカは歩き始めた。ネリアに興味がないよう素振りだ。
そんな態度にネリアは、不快さを感じたが、この女が何者なのか、何かの目的があってここいるのかを知らなければならない。計画まで時間がない。
ネリアはルカを呼び止めると、「同郷だろう。今晩、ウチに来なよ。領主の官舎にいる。夕飯を二人で国の話でもしながら食べよう。衛兵にはいっておく。」
ルカはうなずくと、そのまま立ち去った。