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剣士の国  作者: quo
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知らされなかった事

東国の三領主の一人を支える領主の妻。ティファニア。

商館で見たのと同じく、簡素ではあるが、仕立ての良い白いドレス姿で椅子に腰かけていた。


宿の貴賓室とはいえ、小さな町。商館程の豪華さはなかったが、ティファニアの存在感は部屋を明るく照らすのに十分だった。


ティファニアの隣には、騎士の老人が立っていた。

全員が部屋に運ばれた椅子に、思い思いの場所で腰かけた。


ティファニアは、ミレイラに「あなたも聞くように」と、ティファニアの隣に座るように促された。


ティファニアは、騎士の老人が話をしようとすると、それを制した。自らが話をすると言い、その声は柔らかくも、凛としていた。


「私の夫、エルントスは暗殺の危機にさらされています。」

ミレイラは驚いた様子だったが、傭兵達は静かに聞いていた。


「ご存じかもしれませんが、三領主が協力し、国の中心である王朝を守護しています。そして、夫はその一つのエンデオの領主である弟を支えています。わが夫が、実質的な三領主の一人となっています。しかし、デンデオの正当な後継者である兄の子は、夫を亡き者としようと暗殺を企んでいます。」

そして、ティファニアは続けた。

「その企ての背景には、残りの領主のいずれかがかかわっています。」


ティファニアは、この旅の経緯を話した。他の領主が裏で工作し、王朝を支配しようとしているのを知ると、夫との密議で、近隣の各有力者の協力と結束を呼び掛けて旅をした。視察の名目で。


カインは、あの商館長も、その有力者の一人だろうと思った。


ティファニアは、ローレリアは小さいと言い、信用のおける者を王の周りに置くと、視察の護衛は少なくならざるを得なかった。

そして、万が一、夫が倒れても娘が生きていれば、ローレリアの血筋を残せる。だからミレイラを帯同させたのだと語った。


そこまで聞いたカインはティファニアに、どうして暗殺の企てがわかったかと尋ねた。

ティファニアは沈黙した。情報提供者を守りたいようだ。


ミレイラは黙って話を聞いていた。知らされていなかったのだ。下を向き、足に置かれた拳が、強く握られている。


傭兵達は沈黙している。


リリスは話を聞きながら、退屈していた。ぼんやりと天井を見つめながら、自分がこれまでに請け負った仕事の典型だ。単純な権力争い。

エンデオの正当な後継者を担ぎ上げ、そいつを操る。操っている領主がエンデオと同盟を結び、王朝の実権を握る。しかし、そこにはティファニアの夫がいて、邪魔なわけだ。


話が筋書き通りに進まないと、戦争になるな。


ミレイラの父が亡き後、ミレイラが対抗勢力の御旗になって牽制してもだ。ローレリアは小さいと聞く。どれだけの有力者がついてくる?お家の存続にしても、有力者の下で言いなりになるか。すると、ミレイラは人質になるか、放逐されるか。


いずれにせよ、ミレイラは権力争いの中で駒の一つになる。母上様も酷なことをする。

リリアは「めんどくさい。金はいいから、今度は北にでも行くか」と思い始めていた。


しかし、リリスは隣に座る娘を横目にみた。ルカだ。この子がいれば、話は別だ。この子が、この話から降りるわけがない。ミレイラいるのだ。きっと、この話を面白くしてくれる。


沈黙の中、ティファニアは傭兵達に言った。護衛を続けてほしいと。


カインは、騎士の老人に馬車の状況を尋ねた。馬車は調達できず、職人を見つけたが手が手が回らず、修理に着手するまで最短で三日かかる言った。


カインはさらに、早馬で応援を呼ぶことを提案したが、騎士の老人は首を横に振った。

情報提供者を守るためと、こちらが動いていることが公になれば、事態は加速する。そう言ったところだろう。騎士の老人の心中も、分からんでもない。


カインは、傭兵同士で話し合う旨を伝えると、とりあえず、騎士の老人の部屋を借りて集まった。


傭兵達は部屋に集まると、話し合いを始めた。


カインは、状況は厳しい。馬車が直るまで宿に籠城するとして、こちらを狙っている連中は、一度はこの町で二十人を集めている。道中でも、数が集まれば防ぎきれない。

そして、自分は護衛を継続するが、三人はそれぞれで決めてほしい。契約と解決金の話は、ことらですると言った。


そがーの話が終わるや否や、ガーランドは「戦友をおいて行けん!」と、声を張り上げた。

カインは予想通りと思ったが、同時に改めてガーランドと出会ってよかったと思った。


リリスとルカは沈黙している。しびれを切らしたリリスは、「あんたはどうなんだい?」ルカに言った。

きっとルカは、ミレイラを守ると言うだろう。そうして、私が仕方なく護衛を引き受ける。リリスはそう思いながらルカの返事を待っていた。


すると、意外なことに、ルカは、考える時間が欲しいといった。いつもはミレイラの事になると、無表情ですぐに、答えていたのに。


リリスは驚きを隠せなかった。ほかの二人もそうだ。カインは、分かったとルカに言った。


最後に残ったのはリリスだ。二人の視線が熱い。想定していなかった事態だが、リリスは斥候で培った冷静さと機転を総動員して答えた。


「この辺の組織の連中に手を出してしまった。そいつらが新たな追っ手になるかもしれない。それに、使いの男が、この町で違う動きをしているかもしれない。町の様子を見てから決める。そして、護衛したときの金の話が聞いてみたい。」最後に、命も金も大事なんでと、付け加えた。


二人は納得したようだった。しかし、ルカの心はどうなっているんだと思った。ミレイラは権力闘争の渦の中に居る。ルカの助けが必要だ。

ルカが考えると言った理由。ルカとミレイラが宿に戻った時の様子を思い浮かべた。二人は、何か別の、重大なことを共有している。

二人の娘が、重い何かを背負って、互いに苦悩している。


リリスは、仕事の中で一人で背負いこんだ、どす黒い、自分と他の人間たちの争いから、ようやく逃げ出した自分を、ルカとミレイラに重ね合わせてみていた。


付くならミレイラとルカだ。


そう決心すると、ちょっと散歩してくると言って、部屋を出て行った。


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