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剣士の国  作者: quo
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二つの罠

カインは、運ばれてきた酒に口をつけた。

辺りを見渡すと、女の給仕に高い酒を運ばせていた男が目についた。


服は薄汚れた古着を着ていた。無精ひげに髪は手入れをしていない。

荷物はない。土地の者か。しかし、その風体とは裏腹に、不釣り合いな金の指輪をしていた。


酒場の主人に聞くと、この界隈を縄張りにする連中の下っ端らしい。今日は大金が入ったと、昼間から酒を食らっているそうだ。

怪しいと思ったが、前金を払ったので、飲ませてやっている。どうせロクでもない事をして得た金だろうと言うと、蔑みの目で男を見た。


カインは主人に、一番いい酒を頼むと、その男のテーブルに向かった。

カインは男に、高い酒をくれてやった。そして「あんたの前途を祝して」と言うと、テーブルに座った。


男は警戒した。カインは、自分は流れ者で、誰かの下について仕事をしたいと言って、男の事を「いい波に乗っている」と称賛した。

「幹部候補だろ」と言うと、その指輪で分かると言った。本当に頭が回る人間は、指輪を身に着ける。いざと言うときに金に換えられるから。指輪を見ながら言った。


男は酔っている。訳の分からない理屈だが、機嫌がよくなりさえいい。男が酒に手を付ける前に、女の給仕に一番安い酒を頼んだ。そして、カインはテーブルに銀貨一枚を置いた。全財産だが、自分の分は払うから迷惑はかけない、だから成り上がる秘訣を教えてくれと、男に頼んだ。


男はカインを気にったのか、給仕にカインが頼んだ安酒ではなく、同じ高級な酒を持ってこさせるように言うと、機嫌よく自分の歩んできた人生と、組織と幹部への愚痴を話をし始めた。


カインが指輪の話をすると、小声になった。ある男から、ある宿の監視を頼まれた。内容は秘密だが、舎弟を使ってやらせている。その男は、宿のある客を連れてくれば大金を支払うと言ってきた。舎弟に、仲間と役に立ちそうな人間を集めさせている。武器はその男が用意する。

資金と言って金をくれた金で、その金の指輪を買ったそうだ。


そこまで言うと、カインに「お前は見込みがある。舎弟のところに行って、兵隊になれ」と。そして、男はその金で、この町でのし上がると付け加えた。

カインは場所を聞くと、酒浸りの男に礼を言い、酒場を後にした。


場所を確認するのと、舎弟が何人、集めているかが問題だ。出来るなら舎弟を生け捕りにしたい。ほかの計画がある可能性がある。

ルカかガーランドを連れて行きたいが、万が一の事を考え、動かしたくない。

あと、騎士の老人に、早まった行動をとるなとも言いたい。


カインは、組織の幹部に、指輪の男の事をはなして、後で情報を金で買えばいいと考えた。

状況は複雑で対処が難しいが、高級な酒がタダで飲めたことだけが救いだと思った。




リリスは男と慎重に「親父」の部屋に進んだ。途中、何人かの男をやりすがした。

仮に見つかっても、鉄の針はまだ足りる。


二階の大部屋に着くと、部屋の気配を伺った。少なくとも一人。男が居る。リリスはフードを目深に被り、布で口元を追おうと、男にノックをさせた。

誰だと若い男の声がした。男にし指示して、外でもめ事が起きていると言わせた。


入れと言われ、中から鍵が開けられた音がした瞬間、男の首に深々と鉄の針を押し込むと、鍵を開けた若い男にあて身を食らわせた。鉄の針を押し込まれた男の襟をつかんで、部屋に引きずり込んで扉に鍵をかけた。


うずくまる男を飛び越えると、大きな絵画を背に座っていた老人の首に、短い剣を突き付けた。

二刀流の剣のうち、短い方だ。


老人の首は、たっぷり脂肪を蓄え、顎と喉の境界線が、かろうじてわかった。


男はリリスに「ヴォルデの奴に雇われたのか」と言った。「ヴォルデ」。町を二分する勢力の片方だったはず。

リリスは老人の問いに答えずに、手元に武器がないのを確認すると、剣を収めた。

そして、「誰に頼まれた」とだけ言った。


老人は、なんのことだと言った。


どうやら知らないようだ。こっちはハズレか。カインは当てただろうか。

リリスがそう思っていると、老人が「ヴォルデの手下が人を集めている事か」と言った。


リリスが、続けろと言うと「よそ者を攫うらしい」

「うちは、こっちを襲う準備とみていたが、違った。だれか知らんが、手下に金をくれてやって、やる気を出させている。こっちは知ったこっちゃない。」


リリスが、なぜそれが分かったと尋ねると、お前みたいな奴を雇った。最近は情報を上げてこない。消されたかもなと言った。どこでも傭兵は消耗品だ。


リリスは、あの晩の事を思い出していた。「馬車に乗っていたか」と言うと、使いの男しか見ていない。馬車で移動している様だが、見てはいないとらしい」と言った。


そこまで聞くと、リリスは窓を飛びでた。雨どいに足をかけ、勢いを緩めて地上に降り立った。

庭を駆け裏門に鍵縄をかけると、易々と乗り越え、路地から走り去った。


後ろで怒号が聞こえていた。


カインは指輪の男が言った場所に着いた。


町の郊外の廃屋だ。ここに舎弟がいる。そして、面接でもして武器を渡しているのか。

しかし、人のいる気配はない。


馬車の出る時間は、とっくに過ぎている。異常を察知し、作戦を変更したのか。

建物の陰から様子をうかがっていると、背後に人の気配を感じた。


剣を抜きながら、後ろを振り返った。リリスだ。

リリスは手短に集めた情報を話した。カインの得た情報と一致する。


とりあえず、廃屋に慎重に近づくと、中をのぞいた。やはり誰もいない。


中に入って物色すると、争った形跡がある。仲間割れか。それとも別の集団に襲われたのか。しかし、血痕が見当たらない。


リリスは、足跡から少なくとも二十名が居たとカインに言った。

あのまま行けば、二十名を相手にしていたのか。横転した馬車を守りながら。


そして、少なくとも、その二十名は、こちらを襲う機会をうかがっているはず。

ここに集まっていれば、こちらがすでに対抗策を準備していると思わせ、牽制はできたはずだ。


足跡を見ていたリリスは、立ち上がるとカインに言った。ほとんどの人間は、は思い思いの方向へ散っている。規則性はない。

しかし、五人ほどが、まとまって移動している。土の渇き具合から、そう時間は経っていない。


少数だけ残った連中は、宿を襲うつもりか。カインとリリスは、宿へ急いだ。

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