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剣士の国  作者: quo
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先手

出発の時間は、とうに過ぎていた。

太陽が大地を焼き始めている。鼠どもは、陰に潜んで寝ている時刻だ。


カインは、一団を襲うための人間が潜伏しているはずと言うと、リリスは自分と手分けして探すように指示した。

人数は多いはずだ。探しようはある。


リリスはカインから、金をもらっている。断ることは出来ない。

分かったとだけ言った。内心は、ルカの発想に賭けてみたかった。


カインはルカとガーランドに宿の人間を警護するように指示した。


リリスは、ガーランドに領主の妻の部屋の前に陣取るように指示し、賊は生け捕りにしろと言った。

ガーランドは力強く、任せろと答えた。


槍使いは屋内戦に弱いとされるが、ガーランドは違った。

空間を把握し、持ち手を動かし自在に相手との間合いを変化させる。

そして、あの体躯から放たれる拳に蹴りは凄まじい威力だ。


リリスは何回か見たことがある。拳で肋骨を砕かれ吹き飛んだ者や、蹴りで足があらぬ方向にへし折られた者。槍で一突きにされた者の方が、幸せに思えた。


騎士の老人が広間に出てくると、カインは宿の警護を申し出た。

すると以外にも、騎士の老人は「そうしてくれ」と言った。


状況は深刻なようだ。


カインの一声で、皆が散った。


ガーランドが領主の妻の部屋に行くと、すでに警護の騎士が立っていた。

ガーランドは、騎士の隣に座り込むと。何もしゃべらない騎士に、自分の武勇伝を語り始めた。


ルカは少し離れたミレイラの部屋の前に着くと、扉をノックした。

中からミレイラが、誰かと問うてきたので、ルカだと答えると、すぐに扉が開いた。

ミレイラはルカの姿を見ると、その深く青い瞳でルカを見つめた。


ルカが、入室の許可を求めると、散らかっていますがと言いながら招き入れた。

部屋に入ると、ルカはミレイラに「あなたを守る」と言った。ミレイラの顔は紅潮した。


カインとリリアは、宿を出ると二手に分かれた。


リリアはこの手の仕事に慣れていた。自身も逆の立場で仕事をこなしていた。相手の事は、おおよそ見当がつく。

リリアは町に着くごとに、地図を購入して記憶していた。


町の外れの貧民街。そこに行けば、何かしら出てくる。惜しいが金を使うことになる。

途中で古着屋で、古びた外套を買うとフードを被り、酒屋に立ち寄ると、高級な酒を一本買った。


カインは、昼間から開いている酒場に入った。カインは町に着くごとに酒場の位置を、宿の主人に確認していた。

職がない者、小金があって暇つぶしに飲んでいる者、夜の仕事上がりの者。色々な人間がいる。カインはカウンターに行くと、主人に酒を頼んだ。酒が出てくるまでの時間、分相応以上に羽振り良く飲んでいる男を探した。


リリアは貧民街に着くと、ある物乞いに目をつけた。ほかの物乞いと比べて、やせ細ってはいない。

その物乞いに銀貨を渡した。物乞いは黙って受け取った。リリスは、「あんたらの親父に会いたい」と言った

物乞いは沈黙していた。銀貨をもう一枚渡す。すると立ち上がって路地裏に向かって歩き出した。


下水がたれ流れ、汚泥が流れきれずに溜まっていた。昼間でも薄暗く、腐臭漂う路地。

何回か曲がり、歩かされると、その先は細くなっていた。おそらく先は袋小路だろう。

男が振り返ると、たまに、こういうカモが来ると言った。背後に二人ほどの男の気配がした。


身元の分からない骸が、どぶ川に浮いていても、だれも気にしないだろう。


男が近づくと、フードに手を伸ばした。女の口が笑っているように見えた。

女は男のみぞおちににあて身を食らわすと、身をかがめ翻った。男が二人。

一人の男の足の甲をかかとで踏み割ると、崩れた男の脊髄に肘を入れた。


一瞬で二人の男が倒れた。


残った男が震える手で、腰の短剣を抜こうとしたが中身がなかった。

見るとフードの女が自分の腰にあったはずの短剣を、太ももに深々と差していた。

男が悲鳴を上げる前に、口をふさいだ。男は激痛と恐怖に震えながら、涙を流し始めた。


フードの女は、男の耳元でささやいた。「静かに。傷口をしっかり手で押さえて。」女は短剣を引きつくと、男は短剣が抜かれた太ももに手を押し付けた。女はゆっくり口から手を離した。

男はうめき、痛みに耐えながら、座り込んで震えた。


フードの女は、肘を入れた男を足であおむけにした。気絶している。

みぞおちを押さえ、座り込んでうめいている男の前に立つと、短剣を片手に見下ろし言った。「あんたらの親父に会いたいの」



貧民街でも、ましな通りに大きな家が建っていた。つくりは古かったが、よく手入れされていた。

柵で囲われ、入り口には男が二人立っていた。

男は路地裏から家を指すと、親父の家と言う。親父の名前を聞くと、親父だとしか答えなかった。


男に家の中まで案内を頼むと、震えながら許してくれと懇願した。金も返すと言ってきた。

リリスは、かなりの下っ端を引いたかと思ったが、ここまでこれたことは上出来と思った。


リリアは、男に肘を入れると、気を失った。男を近くのごみ箱に入れ込んだ。銀貨二枚は彼のお駄賃に変わりがない。そのままにしておいた。


夜を待つか。リリスはそう思ったが、騎士の老人が馬車を早々に見つけて出発しかねない。

入念に準備して、家の間取り、護衛の人数、人の出入りと、情報は欲しいが時間がない。


面倒くさい。そう思いながら通りを横切り、家の裏手に回った。

案の定、使われている入り口は、裏口だ。


一人の男が、暇そうに、座り込んでいた。

リリスは男に近づくと、酒瓶を出して、届けに来たと言った。


男はリリアを見上げた。リリアはフードを上げ、顔を見せて優しい笑顔を男にさらした。男は下がっていろとと言うと、扉の向こうの男を呼んだ。

中の男が、リリスの顔を確認しようと、少しだけ扉を開けた。


その瞬間、リリスは駆け出すと、外の男と扉の向こうの男に、それぞれ太い鉄の針を放った。手の平に隠せる長さの鉄の針は、それぞれの眉間に深く突き刺さった。

扉に着くと、わずかに開いた扉から鎖が見えた。中の男の眉間に突きさっさた鉄の針を抜くと、鎖と扉のつなぎ目に突き刺し、ねじ込むと難なく鎖が外れた。


扉を開けると中の男が、扉にもたれかかりながら、崩れ落ちてきた。

音が出ないように、男を床に寝かせると、中で呆然と立っている男が動き始める一瞬前に、口を塞ぐと背後に回り、男の首に鉄の針を突き立てた。

そして男の耳元で、「親父はどこにいる」そう言うと。鉄の針はゆっくり、男の首の中に入り込んでいった。


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