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剣士の国  作者: quo
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給料分の働き

一団は大休止をとる宿場に着いた。昼を少し過ぎていた。


ここで、昼を取って夜には次の町に到着する。それが今日の行程の一部だ。

領主の妻、従者は部屋をとって休み、騎士団が交代で部屋の前で警備をした。

昼の宿場には人はおらず、部屋は空いていた。


騎士の老人は、傭兵達に外で休むように言った。

傭兵は雇い主と同じ建物で休憩はしない。それは、雨の日でもそうだった。

日は高く、風はぬるい。


ルカは宿場の木陰で、休憩を取った。森の木々に冷やされた風が心地よかった。ルカは水筒の水を一口飲んだ。短時間の休憩でも体力を温存し、回復させるのは剣士の教練の一つだった。目を閉じるだけでも体力は回復する。そして、周りの様子を感じて、突然の敵襲に備えることが出来る。静かな場所なら、なおの事だ。


しかし、ルカはリリスの問いが気になっていた。


彼女の姿を探した。少し離れた木陰で、ルカと同じく目を閉じて休憩していた。その近くで、カインとガーランドは、立ち話をしていた。護衛の打ち合わせだろうか。話話が終わったかと思うと、ガーランドがリリスに何か言葉をかけたようだった。リリスは立ち上がると宿場の裏手に消えていった。


何か居るのか。ルカはリリスの後を追った。


宿場の裏手は木々のせいで薄暗く、湿気をはらみつつも ひんやりしていた。木の壁の一部は朽ちて、穴が開いていた。高さは獣の侵入を防ぐ程度の高さだった。ルカなら、易々と飛び越えられる。


ルカはそのまま進むと宿場の表に出た。リリスはいなかった。元居た木陰に戻って来たが、リリスは戻っていない。ルカはとりあえず、休むことにした。リリスの事が気になったが、休憩も仕事の一つと思い、目を閉じた。


騎士たちが休憩を終える前に、ルカたちは移動の準備を始めた。そこにはリリスが居た。いつ戻ったのか分からなかった。

ルカは目を閉じながらも、宿場に出入りする人数や、足音の特徴から、それが男か女かを聞き分けていた。しかし、リリスの気配は全く感じ取れなかった。


一団が移動の準備をしているさなか、カインが歩速を早めるように、騎士の老人に進言した。日が長くなりつつあるとはいえ、外に出ている時間は短いに越したことはない。

騎士の老人は、それを却下した。おそらく馬車の中の人間の負担を考えての事だろう。


一団は移動を始めた。配置はそのままだった。しかし、ルカと同じ後衛だったリリスは、宿場に着く前により後方に付けていた。ルカは時折、肩越しにリリスを見たが、何かを警戒するでもなく、静かな顔で馬に乗っていた。


町には日没前についた。前の町同様に、町に入るとルカたちは後方に下がった。リリスが隣に居る。

今日の事を、今すぐにでも聞きたかったが、宿に着くまで我慢した。


前の宿よりも小さかったが、豪華な作りには変わりなかった。

宿の主人が入り口で領主の妻を迎えて宿に入ると、騎士団も続いた。ミレイラはルカを見て、少し頭を下げた。

ルカたちには、少し離れた場所にある宿が与えられていた。


カインが、ルカに待遇がよくなったことに、礼を言った。

ルカはカインを見つめて、何も言わなかった。ルカには身に覚えのないことだった。


宿は、行商人や旅人用で、簡素な作りだった。水場はなく、近くの町の共有の水場を使う様に案内された。

傭兵達が宿に着くと、部屋は二つしか用意されていなかった。ガーランドとリリスの分だ。

取りあえず、カインとガーランド、ルカとリリスとで分かれることにした。

宿では夕食と朝食は出ないが、隣の食堂に準備してあるとの事だった。カインは満足げだった。


早速、カインとガーランドは食堂に向かった。

ルカとリリスは荷物を降ろし、甲冑を脱ぐと、荷物の中身と武具の点検を始めた。ルカは矢を一本一本丁寧に点検するリリスを見つめていた。


リリスは矢をしまい、剣の点検を始めると「二刀流なの」と言った。傭兵同士は、自分の剣技や得意とすることを、明かすのか。国の剣士達は、仲間に対してすらしない。

そして、「盗賊に襲われたって?」といった。


ルカとは目を合わさずに、剣を磨きながら言う。まるで独り言のようだ。

ルカは、襲われたと言った。そして、傭兵が混ざっていたことを言うと、リリスが「給料分は働かないとね。」とつぶやくように言った。


あの傭兵達は、みんな斬った。商館の町でも、待ち伏せはなかったし、誰かがつけてくる様子も感じなかった。

ルカはリリスに、だれか見たのかと尋ねた。リリスは、手入れの終わった剣を鞘に収めると、ルカに向き直り言った。

「気にならない?傭兵と山賊が、同時に一団を襲った。そして、騎士の連中は、未だに傭兵を付き従えている。領内なのに。騎士や衛兵が迎えに来ていい頃だ。」


褐色の肌が美しい彼女は、屈託のない笑みを浮かべてそう言った


確かにそうだった。傭兵と盗賊が一緒だったのは気になっていたが、ここは騎士たちの領内。もう、傭兵はいらないはず。いや、そもそも、視察の帰りなのに、傭兵を雇っていたこと自体が理解できない。


ルカが、自身が考えている状況と違うかもしれないこと考え始めると、リリスは、剣の短い方だけ持って立ち上がり、散歩の時間というと部屋の扉を開けた。部屋を出るとき。カインとガーランドは夜更けまで帰ってこないと付け加えて、部屋を後にした。


ルカは、一人になった部屋で、小雨の中、自身を馬車が追い抜いて行ったとことから、丹念に記憶を掘り起こしていた。




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