企み
白面の剣士は、領主と領主の執務室にいた。
名をネリアという。
大柄な女性で、亜麻色の髪を長く伸ばしていた。つややかでよく手入れされていた。
もう少し小柄で眉間の皺がなければ、結婚を申し入れる男性は多かったに違いない。
彼女の持つ仮面には文様があった。精緻な文様が仮面の渕に彫られていた。頬のあたりに銀翼の鷹があしらわれている。
剣士の国では、強さに階級があった。強さの順に意匠が変わる。彼女は序列二位に立場にあった。国でも10人程度しかいない。並みの兵士相手なら二十人程度を一人で斬って捨てられる。指揮能力も高く戦術眼も持ち合わせている。努力で到達できる地位ではなかった。
二人は机に広げられた地図を見ていた。そこには、王の居城と評議会堂のある中央国。国を構成する領主たちの土地。そして隣国が描かれていた。
「評議会派の兵力は問題ない。地理的にも遠い。われは中央国を囲むようある。」
領主がそういうとネリアは、「あんたらの根回しってのは大丈夫なのかい。足並みをそろえてもらわないと、勝てる戦も勝てないんだよ」
2年前の評議会選で、王権派の多くが議席を失った。王権派と評議会派は拮抗していたが、国王が病に倒れるとその力を大きくそがれた。発言権は縮小し、供出金の割合は多くなってきている。議題に王を廃位にすとことを挙げるとも噂されれている。そろそろ我慢も限界だ。
王権派の一部は決起して、武力で直接王政を復活させようとしていた。
幸い、王権派は武と忠義を重んじる武門の領主が多い。建国の父を追い落とそうとする評議会派に反感をいだいている。現在、王権派で決起に同意した領主たちの兵力は合わせて2万。高い金を払って雇った剣士達ははよく働いてくれいる。中央国と近隣の評議会派の領地に潜り、内部で混乱を起こす準備を進めている。中央国にある兵力は3万だが、そのほとんどを、国境や街道の警備に当てている。さらに、近年の隣国との不和で、国境に手厚く配置している。
中央国を迅速に制圧すれば、文官中心の評議会派の連中が立ち上がる前に守りを固め、分断させて各個撃破できる。
ネリアが言った。「我々は祖国を敵に回すことになる。失敗しないでくれよな。約束通り、留守は預かる。背後の穏健派の連中は気にするな。」
「君の姿があれば兵士の士気は高まる。君が駆ければ、わが兵たちは地獄にでもにも駆け込もう。」
「そして、ほかの二人は中央国に潜んで内部で混乱を起こす。そして騎士団長は行方知れず。指揮官のいない兵団など敵ではない。」
話が終わると、ネリアは執務室を後にした。官舎に戻りあてがわれた私室に戻った。従卒は湯の準備がが終わっていることを伝えた。ネリアは浴場へ赴き、用意された湯につかって埃を落とした。一人用の浴槽で、香油が落とされた花の香りのする湯につかれるのは、裕福な領主や貴族、大商人だけだった。
部屋に戻ると寝酒に蒸留酒を飲んだ。適度な強さとほんのりと蜂蜜の香りのする酒だ。
そして清潔なシーツが張られたベットにもぐりこんだ。
清貧を旨とした白面の剣士。雇い主からの金は国に送られ、給金は国から渡される。装備に衣類は雇用主に合わせた一流のものが送られてくる。剣も名工が鍛えた一級品が与えられる。しかし、自由になる金は少ない。
割に合わない。
この計画が成功した暁には、領主から身を引き受けてもらい、専用の屋敷、贅沢な暮らしを約束されている。
ネリアは昔を思い出していた。子供このころから、栄養だけを追求した食事をとり、朝から晩まで剣技の練習。そして夜は夜襲の訓練。敵から追われても生き残るために、山にこもって地を這い、雨水をすすりり、森に隠れる。あらゆる試練を乗り越えて、得たものはなんだ。
あと2か月ほど。準備は怠りはないか。そして眠りについた。