珍しい客
街はずれの宿に訪れたのは、少女の剣士。皆が認める白面の剣士。
剣士の国の西方に国があった。
交易で栄えていた。王政であったが交易で庶民の力が強くなると王は退いて、国の領主たちの中央評議会で政治を行っていた。
しかし、王を建国の父として、忠義を示す領主たちがおり、王権派という派閥を作っていた。中央評議会でそれなりの発言権を持っていた。おおむね、議会派と議会派とで拮抗していたので、政治は安定していた。
その領主のなかに、力のある王権派の領主がいた。交易の拠点に近く通行料で潤っていた。二千の兵を有し、一千の兵士を中央評議会下の国軍に供出していた。更に領主は豊富な資金で剣士を100人雇い、領内に配置した。その為、国の中でも指折りの軍事力を持つ事となった。
ある日、領主の街の外れにある宿に客が訪れた。呼び声をきいて、奥にいた宿屋の主人がカウンターに出ると、剣士が立っていました。白い面を被っていた。
長い黒髪の女性の剣士。剣士にしては小柄だった。荷物を背負い、長旅用の外套を着ていいた。外套は繕った場所が、何か所かあり、鎧は見習の兵士が着ているような簡素なものだった。剣の柄と鞘には、意匠も施されていません。
どこかに雇われる剣士は、その雇い主に恥じないように、意匠を凝らした剣と、鎧をまとっていた。雇い主が高貴な人間であるほど、洗練された身なりをしていた。
そして彼女の面には、なんの文様もなかった。ただ、数か所に大きくはないが傷があるのみだった。
剣士たちの面には、階級や強さな順序のかなのかは知られていないが、文様があった。
数本の線で描かれた文様から、小さいけど緻密に描かれた鳥など。
宿屋の主人は珍しい客だと思いながら、「何日お泊りで?」と聞いた。
剣士は、3日分の銀貨をカウンターに置いた。
主人は「白面さんだろ。いい部屋を用意するよ。二階の角部屋を使ってくれ。」
「領主様のところの白面さんが、夜盗狩りをしてくれるんで助かってるんだ。夜でも外を歩けるんだ。治安がいいんで、店を出す人間も旅人も増えている。来て早々、あっという間に山賊を蹴散らしたってよ。」
そう言いながら、主人が宿帳に名前を書いてもらった。彼女は面を外して、共通文字で「ルカ」と書いた。
まだあどけなさが残る少女だった。整った顔立ちに切れ長の黒い瞳の目。そして右ほほに傷があった。長くて細く、一直線だった。まるで絵筆で書いたようなきれいな直線だった。
しかし、無表情で愛嬌の一つもない。傷がなく笑顔だったら、いい寄る男はいいだろうに。主人は、そう思いながら、剣士の顔を見つめるいると、その瞳に吸い込まれそうで、なにか本能的に目をそらした。
「どこかの領主に呼ばれたのかい?」
そう言って、少女の剣士に部屋の鍵を渡した。
彼女はしばらくの沈黙の後、「弱い剣士には声はかからない。」と言った。
宿屋の主人は、まずいことを聞いてしまったと思った。「ああ。修行中なんだね。一人旅の白面さんなんて、初めて見たもんだから。きっと強くなれるさ。領主様のところの白面さんのような暮らしができるよ。」
少女の剣士は、「そう」とそっけなく答えるだけだった。彼女は、ますます気まずくなった主人に、食べ物屋の場所と、旅用の装備を買いたいと、雑貨屋の場所を聞いた。主人は、街にある評判のいい食堂と、質の良いものしか扱わない雑貨屋の場所を教えた。彼女は最後に湯屋はあるかと尋ねた。
湯屋はないが、言ってくれれば部屋に湯を運ばせるよと言った。
ルカは礼を言い、宿に荷物を置いて外出した。