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剣士の国  作者: quo
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任務

宿へ戻ると、料理は出来ていた。自室に持ち込むのは自分たちだ。


スープだけ温めなおしてもらい、後はアリアの部屋に運び込んだ。

スープと魚の焼き物と包み焼、燻製と骨の揚げ物。山もりだった。


十匹は多すぎた。別料金で肉とか野菜が頼めたはずだったが、ルカは何も言わなかった。

アリアも何も言わなかった。


部屋で料理を食べた。料理人の腕がいいのか、全部美味しかった。爽やかな野菜とソースがが添えられ、一緒に食べると、さらに美味しかった。

二人は黙々と食べたが、アリアは残さないように、骨を取ってあげ、よく噛んでと世話を焼いた。


全てたいらげ、二人は満腹だった。食器を厨房に下げると、お茶を煎れてもらい、アリアの部屋で飲んだ。

窓を開けると、ひんやりとした空気が入ってきた。


どのくらいの時間だろう。とうにお茶はなくなり、テーブルをはさんで座った二人に会話はなかった。


アリアは言った。「湯に浸かり、満腹で、運動する」

ルカは、目を伏せて黙り込んだ。


アリアは立って、背伸びをすると「やりますか」と言って、剣を取った。

ルカも立って、自分の剣を取った。


二人は主人に散歩に行ってくると告げて宿を出た。昼間に釣りをした河原に向かった。

満月で周りはよく見えた。


河原に着くと、川のせせらぎと虫の音が優しく響いていた。満月はより一層、明るく周りを照らしている。

アリアは剣を抜くと言った「何のために私を斬る」

ルカは、命令とだけ答えた。

アリアは続けた。「私には、あなたを斬る理由がない」


ルカは何も言わなかった。ただ沈黙するだけだった。

アリアはさらに続けた。見逃してほしいと。


ルカは何も答えない。


アリアは一気にルカの懐に飛び込み、ルカの右手をめがけて剣を振るった。

しまった。ルカは構えていなかった。後ろに下がってかわすのが精一杯だった。


剣を抜こうとする前に、次々と刃が襲い掛かってくる。頭、右足、左手、首に胴体。連撃はやまない。

かわし損ねて、衣服を斬りととられいく。

ルカは地に伏せ、近くの岩陰に転がり込んだ。


そしてまた、一気に後ろに飛びつつ剣を抜いたが、構える前にアリアが追いつき、連撃が続く。防戦一方だった。

こうなると、ルカの剣技は実力を発揮できない。一撃が重い。薄い刃が、アリアの一撃を防ぐ度に欠けていく。すり抜けた一撃がルカの体に傷をつけてゆく。


ルカの剣術は、相手に正対し呼吸を同期させ、相手が動く瞬間に懐に飛び込んで一閃を放つ。捨て身の剣術。

それがアリアの言葉に動揺して、瓦解していた。これからは相手が隙を見せるまで打ち合いとなる。


斬られる。ルカはそう思った。大好きなアリアに斬られる。防御を止めれば、手足に胴に、アリアの大剣が食い込むだろう。アリアが葬った剣士たちのように、痛みに悶えなが息絶えるのか。


避け切れなかった手に足に傷が増えてゆく。剣も限界に近付いている。

人はいつかは死ぬ。アリアに斬られるなら本望だ。でも、切り刻まれて、苦しんで死ぬのかと思うと、涙が出てきた。それで、ももういいかと思った。疲れた。


唐突にアリアの剣が止まった。ルカは座り込んだ。涙が頬をつたう。


アリアは言った。「私が、見逃してくれと言った瞬間が、あなたの一閃を浴びせる瞬間だった。私は苦痛を感じずに斬られていたよ。」

そして、静かな森に向かって大声で叫んだ。「この件は、私の預かりだ!明日、お前らの長がここに着く!お前らは引け!」


あたりの森から、わずかながら人が引いてゆく気配がした。


ルカは、初めて声を上げてなく自分を知った。



ルカを宿に連れ帰ると、ルカの姿に宿の主人は驚いていた。

アリアは、何でもないと言うと、きれいな水汲んで、部屋に届けてくれと、主人の懐に金をねじ込んだ。

ルカを部屋に連れ帰ると、何も言わずに服を脱がせて傷の治療をし始めた。


たらいに満たされた水で、傷を拭いた。小さな傷には軟膏を塗りつけ、深い傷は手慣れた手つきで、縫い合わせていく。最後に包帯を巻いて終わった。


この程度の痛みは耐えられる。何回も経験している。でも、また涙が頬を伝う。理由はわかない。

「飲みなさい」怪我が悪化しないようにする丸薬だ。国でしか作られていない。


丸薬を水で飲みこむと、ルカはをベットに寝かされた。

アリアはルカの隣に横たわると、涙をぬぐってやった。優しく頭を撫でながら、今日は私がずっと隣にいる。ゆっくり眠りなさい。


ルカは深い眠りについた。

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