表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣士の国  作者: quo
16/144

説教

アリアは漁師から釣り竿を二本借りると、一本をルカに渡した。そして岩陰に潜む虫を釣針に付けると、お目当ての場所に竿を振って釣針を落とした。


森で敵に追われているときに、悠長に釣りなんてできない。ルカは、仕掛けを使った魚の取り方しか知らない。

アリアのやり方を、見よう見まねで釣り糸を垂らした。

アリアは何も言わない。あたりがないと、引き上げて、別の場所に同じように竿を振った。

ルカも、真似をした。


こういうのもいいでしょう。ゆっくり流れる時間の中、魚が釣れるのを待つ。何も考えずにね。

アリアがそういうと。ルカは心を落ち着かせて、瞑想をするような感覚で、釣り糸を垂れた。


昼を過ぎても、一向に魚は連れない。しかし、ルカは何も考えずに釣り糸を垂れることが好きになっていった。これまでの心の動揺、葛藤が嘘のように消えてゆく。


アリアが釣り糸を戻して、何も言わずに竿を置いた。

河原で何かを探している。木の棒を拾い上げると、ナイフを先に括り付けた。

そうすると、川の中に入り、魚を突き始めた。あっという間に十匹を河原に放り上げた。


今日の晩御飯よ。アリアは笑顔でそう言った。


宿に戻ると、主人に魚を渡して駄賃を渡して、料理してくれるように言った。

調理場と食堂があり、自室でも食べられるそうだ。持ち込んで金を払えば料理してもらえる。


汗かいたね。湯屋に行こう。アリアとルカは宿を出た。


湯屋は町の外れにあった。大きな煙突から煙が勢いよく上がっていた。伐採で出てきた廃材を利用して、近くの豊富な川の水を沸かしているようだった。

アリアが店番に金を渡すと、薄手の衣が渡された。湯屋は町人の共同物らしく、ほか者は木で出来た小さな板を渡すだけだった。


ルカたちの国では裸で湯に浸かるが、多くの国では、薄手の衣を着て湯に浸かった。

洗い場で汗を流すと、二人はゆっくりと湯に浸かった。お互い、何もしゃべらなかった。アリアは長風呂が好きだった。彼女はルカに、右ほほをさする仕草をしながら、先に出てもいいよと言った。

ルカはうなずくと、少し間をおいてから湯から出た。


脱衣所で着替えて待っていると、やっとアリアが出てきた。上機嫌だった。よく体を拭いて着替えると、店番のところに行って飲み物を買ってきた。ほんのり甘く、川の水で冷やされていて、ほてった体に染み入っていった。


湯屋を出ると、夕暮れだった。まだ足元は明るかった。

肌寒く思えたが、火照った体には心地よかった


アリアが前を行っていた。ルカはアリアの背中を見つめながら歩いていた。訊きたいことがたくさんある。ありすぎて何から訊くべきなのか。そもそも訊いてもいいのか。

そう思っていると、アリアが到着が遅かった理由を尋ねた。


ルカは連絡人が夕刻に来た事、街道沿いに馬で進んだこと、連絡人の情報でここまで来たことを話した。

アリアはあきれた声で、「そりゃ、三日もかかるわ」と言った。


アリアはルカを振り返りもせずに、歩きながら話始めた。


あれから街道を進むと、すぐに森に入り連絡役を捲いた。そこから奥に進み、村落にたどり着いた。さらにそこから、険しいが整備された山道で山を越えて、途中、一つ町を経由して、この町に入ったそうだ。山越えした後は、麓の町や村、街道へ抜ける道、東の都市を迂回する街道にでる道と、たくさん分岐がある。連絡役が追って来ても、すぐには此処へはたどり着けない。この町に入ったのは一日前の朝だったそうだ。

立ち寄った町では、宿の主人に金を渡して、嘘の情報を流すようにさせたとも語った。



「反乱分子が目の前にいたんだよ。自分で行動してれば早かったのにね。待つまでもなく、連絡役の方から、ルカの事を追っかけてきたさ。」

「連絡役の追跡能力は低い。雇われている剣士を監視するのが主な任務だからね。追跡専門の連中は所在不明の剣士を探す専門家なの。勘違いしちゃだめよ。」

「連絡人は一般人と目が違うからすぐにわかる。訓練されている証拠ね。合図なんか、もらわなくても分かるものよ。監査役は論外ね。終わってから、のこのこ出てくるだけだから。そう言いうわけで、捲くのは簡単なんだ」

こんな時でも監査役への皮肉は忘れない。


アリアは歩きながら落ちていた小枝を拾い上げると、何気なく振りながら続けた。


「連絡役が来るまでの間で、何回、地図を開いた?馬の世話人に何か聞いた?情報を持っている奴は、目の色が違う。連中の欲しいものは金だよ。刺繡の入ったハンカチじゃない。奴らの目を見なさい。情報を持ってなくても、金を渡せば、情報を持ってくる。それに、あなたみたいに若い子なら、町人や宿の主人にそれとなく、困り顔で近づけば、無下にはしないさ」


手厳しい指摘が飛ぶ。いつものアリアの優しい口調も、褒めて労わる言葉もなかった。


「馬は何頭潰したの?。連絡役が手配した?連中が手配を忘れていたらどうするの?宿の窓から、私が自前で調達したのを見たでしょう。私たちが、まとまった金を持たされているのは、どうしてか分かっている?」


全くその通りだった。何もかも指示がなければ、何もできていなかった。全部、お膳立てされたうえで仕事をしてきた。そんなことに気づかずにいた自分に腹が立った。



全部、自分が悪いって思っているの?


アリアはそういうと。唐突に振り返った。

夕日を背にしたアリアの顔は、悲しみに満ちているようだった。


「あなたは剣を振るう事しか知らない。そして自分を傷つけことしか知らない。」


そういうと、ルカを抱きしめた。

まだ熱を持った躰がふれあい、気持ちよかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ