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剣士の国  作者: quo
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王都の日々

見上げるほどに高い城壁どこまでも続いている。

やっと見えてきた門は正門ではなく、荷馬車や使用人たちが出入りするように使われる裏口だ。


衛兵の先導で門をくぐると、城下町の裏手に出る。

それでも建物が立ち並び、遠くに城が見える。


いくつもの尖塔が立ち並び、また高い城壁に囲われている。

白く大きな城は鳥が羽をのばした姿の似て南北に広がるように陳是している。


城下町を抜けると、貴族や上級官吏の住む住居区に入った。

ミレイラの屋敷ほどある建物と庭園が広がる。


その一角の屋敷で馬車は止まった

ミレイラは下級貴族が王城に召喚されたときに使われる宿に連れて行かれた。


外出は禁じられ衛兵が常に監視しているが、邸内は自由に歩き回れた。

大きな図書室があり、時間を持て余すことは無い。

一週間ほどは何事もなく、本を読み広間で軽く運動して過ごした。


そして、何の前触れもなく審問官が訪ねてくるとその日から聴取が始まった。

朝の朝食が終わると始まり、昼をはさんで日が暮れるまでが基本だが、時には深夜までそれは行われた。


広めの書斎で審問官と対面で一日のほとんどを過ごす。

一通り聞き終わると担当者は入れ替わり、また同じことを聞かれる。

齟齬があると何度も問いただされる。


声を荒げることは無く、丁寧な言葉で語りかけられるがその言葉に感情は無い。

日に日に精神を削られていくが、審問官の問いに誠実に答える。

それが、今朝、聞かれた事であっても、わざと答えた内容と違うと言われようとも、偽りなく答え続けた。


そんな日々が一か月経とうとしていた。


ミレイラはいつものように重い体を気力でベットからはい出させ、のろのろと身支度を整える。

鏡に映る自分の顔はやつれて精気を失っている。両頬を叩いて気力を無理やり奮い立たせる。

そして背筋を伸ばし食堂に向かった。

いつも変わらないメニューの朝食を取り、味の薄いお茶を飲むと書斎に向かう。


審問官がいる。

いつも無表情で人を人ではないかのように見つめる目。

はじめは嫌悪し正視するのが辛く夢にまで現れたが、もう慣れていしまった。


椅子に座ると審問官が、聞き取りは今日で終了と告げた。

喜びより安堵の気持ち大きく、思わず目を閉じて大きく息をはいたら、体から力が抜けた。


審問官は分厚い本を一冊取り出した。これが聴取内容の全てだと言う。

最後のページに署名をするように言った。


「すべてが正しく記載されているか読んで署名してください」


ミレイラは調書を手に取ると、最後の気力を振り絞り分厚いそれのページをめくり始めた。


深夜、少しの休憩をはさみながらも調書の全てを読み終えたミレイラは、最後のページに署名をした。

署名が終わると、調書を審問官に渡した。

審問官もずっとミレイラと一緒にいた。彼らの精神は鋼か何かで出来ているのか。


審問官は調書を鞄にしまいながら言った。

ほとんどの人は聴取を途中で放棄し、即、嫌疑有りとして告発される。

最後まで聴取に答えても、調書を読まずに署名する。そして、言い間違いに気付かずに十分に疑いを晴らすことが出来ずに告発される者が多い。

最後まで誠実に取り調べに応じ、最後まで調書を確認したミレイラと母上殿に敬意を表したいと。


ミレイラは母も同じように耐えていたのだ。

それを誇らしく思い、そして会いたくなった。

会って抱きしめられたい。


ミレイラは聴取が終わった安堵から気が緩んでいたのか、涙があふれ出した。


審問官は立ち上がり、聴取が全て終わった事を宣言して部屋を出ようとした。

ミレイラは立ち上がり審問官に頭を下げて言った。

「これまでありがとうございました」


審問官は軽く会釈して部屋を出て行った。

ミレイラには、審問官にほんの少しだが人間味のある表情を見たような気がした。


それからは調書により告発されるか否かの結果を待つことになった。

告発されるだろう。どんな罪で告発されるのか。弁明の機会は与えられるのか。

ミレイラは自分の事より、母の事が気になってしょうがなかった。


自分をかばうような事を審問官に言っていないか。

出来る事なら、自分が全ての責任を背負いたい。審問官にも答えた通りだ。

契約の名の下にルカ達を巻き込んで、勝手に行動したのは私だ。


ミレイラはそう思いながら、通知が来るのを待った。


聴取が終わった後は、庭に出る事を許された。

衛兵も巡回する程度で、常に監視することは無くなった。

食事も質素ではあるが、日々メニューが変わった。


しかし、手紙のやり取りや人と会う事は許されなかった。


みんなどうしているのだろうか。

ここに来てから騎士達は追い返された。無事にローレイラに帰れただろうか。

母は王都のどこかにいる。一目でいいから会いたい。


リリスにガーランド、カイン。

私の行いに巻き込んでしまった。官憲に捕まっていないか。彼らの国で罰せられていないか。


ミストラ、アリア、ナタリア。

彼らの国で罪人として扱われていないか。


そしてルカ。ハンカチを手に取る。

馬車から見てすぐに消えてしまった。

私はこれからどうなるか分からない。もう会えないのだろうか。


窓辺に腰かけ外を見る。空は見えるが壁しか見えない。


風が吹く。

最近では日が差していても空気が冷たくなってきている。

少しずつ季節が移り変わろうとしている。


ミレイラは扉を閉めるとテーブルに腰かけ、本を手にして広げた。

本のページはいつまでも、めくられなかった。


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