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剣士の国  作者: quo
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召還

ここ一週間、ナタリアはミレイラの私室へ通っていた。

彼女の傷を診るためだ。

専属の医師がいるはずだが、ミレイラがナタリアを指名した。


一度は治療したので経過観察はしたかったが、気が進まないのが本音だ。


何しろ、騎士の出番を奪って、その剣士の兵団は未だに剣士達は駐留している。

気を使ってかなり後方には下がっているが、他国の兵が自分たちの土地に居るのは決していい気持ちはしない。

城の門をくぐり私室に入るまでに、いったい何人の騎士から冷たい目線を浴びせかかられるのか。

帰りもそうだ。気が滅入る。


私室に入る前にシエルが、持ち物と体の検査をする。

いつも、謝りながら。


ミレイラの私室に入ると、いつもお茶が淹れてある。

「今日もお願いします」

いつもは平服だったが、今日のいでたちは騎士の正装だった。

体の線が出るほどにあつらえた服に、同じく白く金の装飾の付いた上着を羽織っている。


「お願いします」

いつは「今日もお願いします」と言うのだが、まるで今日が最後の様だ。

いつもの他愛話はなく、傷を診終わると包帯はもう巻かなくていいと言った。


ナタリアが傷を診終わて部屋を出ようとすると、ミレイラから引き留められた。

「王都に召喚されました。この後に発ちます」

「ルカにごめんなさいと伝えてください」


今回の一件はほとんど処理された。皆、言わないだけで最後に残っていることがある。

ミレイラ達の取扱いだ。


最悪、彼女はもう会えない所に行ってしまう。永遠に。

ルカに最後まで言わなかったのは、余計な心配をかけさせなくなかったからだろう。

ミレイラはナタリアに伝言を託す日を待っていたのかもしれない。

いつ、召喚状が届くのか分からないから。


ナタリアは、分かりましたと言うと部屋を出た。



戻ったナタリアは近くの剣士にルカの居場所を尋ねた。

剣士は分からないと言う。

いつもなら、参謀のウルクラとクヴァルド、アリアとの定例会議に出ているはずだ。


ナタリアは兵団に急ごうとしたが、すでに知っている可能性があると思った。

流れてくる情報をもとに、どう動くか準備する。

その情報の中に、ミレイラの召喚もあるはず。


ナタリアが兵団の参謀がいる天幕に向かっていると、いつも付き従っている剣士が鎧を磨いている。

ルカは仮にも兵団長だ。従卒として二人の剣士をあてがわれている。

剣士にルカの居場所を尋ねると、散歩に行くと言って馬に乗ってどこかへ行ったそうだ。

残された彼ら従卒はそれ以上言わないし、不満があるようではなかった。


彼らルカから何かを感じ取ったようだ。

ナタリアはルカを追う事はやめて、まだ診ないといけない剣士達がいる天幕へ向かった。



出立の準備が整った。


護衛の騎士達も正装に、磨き上げられた甲冑に身を包んでいる。

身の回りの世話をするために同行するシエラは、馬車の脇に立ってミレイラを待っている。


ミレイラは留守のペレスに、よろしくと言うと馬車に乗り込んだ。

シエルが馬車の扉を閉め、騎乗するとペレスの合図で馬車が動き出す。


最後にルカに会いたかった。

ガレスを討った後、自らが直接、矢を雨を降らよせるように号令をかけたそうだ。

それは皆が倒れるまでずっと。人に任せることなく。


あの時は憤った。大勢の人を巻き込まない為に一騎打ちをした。

しかし、ああすることで戦争を回避できた。それをルカが一身に背負ったのだ。


ほんとは面と向かって謝りたかった。

私は戦場でルカの名を叫び続けた。心の中で「なんでこんなことをするの」と憤りながら。


私は愚か者だ。


ミレイラは涙をにじませうなだれた。

私はこれからどうなるか分からない。今や反乱の首謀者の娘だ。

母も王都に向かっている。


誰も言わないが、ルカの兵団は名目上は私たちの監視を王から委任されてる。

そんな中で唯一、会えることが出来たのはナタリアだけだった。

ナタリアに伝言を伝えるなど、自分の身勝手さにも悔いた。


馬車のが止まった。

少し前を覗くと遠くにリリスが馬を降りて立っている。


騎士の一人が駆け出すより早く、シエルがリリスの下へ駆け出した。

そしてリリスの前に立つと何事かを話している。


リリスは馬に乗ると、街道を離れ丘の向こうへ消えていった。


シエルが戻って来た。馬を降りるとミレイラに渡したいものがあると言う。

ミレイラが馬車の扉を開ける事を許すと、一枚のハンカチを差し出した。

「リリス様よりミレイラ様へとルカ様の贈り物との事です」

「渡すのが遅れて申し訳ないとの事です」


ルカと一緒のハンカチ。


絹に若草の金の刺繍が縁どられている。

シエルにありがとうと言って扉を閉める。

ふと見ると、丘にルカとリリスが馬に乗ってこちらを見ている。


ルカ。


一瞬だった。目が合ったと思った。

ルカもリリスもすぐに丘の向こうに走り去った。


ミレイラは場馬車を降りてルカに向かって走り出したい衝動をこらえていた。

今は監視役の兵団長と反逆者の娘だ。

その一線は超えてはいけない。


ミレイラは贈られたハンカチに両手を添えた。


シエルに下がるように命じると、御者に進むように指示した。

馬車がゆっくりと動き出す。


ミレイラはルカが居た丘を見つめていた。



「ひやひやしたぞ」

リリスがルカに言った。


リリスが城に戻る途中、街道沿いをうろうろしているルカに出会った。

アウロラの仕立てたハンカチをルカとミレイラへの贈り物だと渡すや否や、ハンカチを持って駆けだした。


今、ミレイラと会ってはいけない。

そうリリスが叫ぶといきなり止まった。馬は危うく転倒しそうになった。


「私が渡してくる。遠くから見る分にはいいだろう」

そして、リリスが街道に出てミレイラ達を待つことになった。


ルカは丘からミレイラを見ていたが、リリスが帰ってくるとすぐに丘から降りた。

それからは城へゆっくり馬を歩かせている。

リリスはルカの後をついて行く。


ルカは貰ったハンカチを見つめてながら、ゆっくりと馬を歩かせていた。



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