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剣士の国  作者: quo
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必要だった事

ミレイラはぼんやりと天井を見ていた。

両手には包帯が巻かれ、いたる所にあざが出来ている。


あの後、気付くとベッドに寝かされていた。

一日、寝ていたらしい。

包帯を変えていたシエラが驚き、良かったと泣いてくれた。

ペレスが部屋に飛び込んできて、二人して泣いて喜んでくれた。


落ち着くとペレスから全てを聞いた。

指令書は朝方には届いていたそうだ。

それを知ったペレスはルカに頭を下げ、ガレスとの一騎打ちが終わるまで待ってくれと頼んだ。

ルカは何も言わずにいたそうだが、兵たちは動かなかった。


ローレイラの事は自分たちで決着をつける。

公開はされずともガレスを私が討つ事で面目が保たれたのだ。


ミレイラは包帯に包まれた両手を見たが、その実感は感じられなかった。



城からそう遠くない場所に丘がある。

森を抜けなければならず、人が来ることは滅多にない。

余裕がある人なら、気晴らしに訪れて連なる山々を見に来るかもしれない。

唯一、いいところと言えば山の切れ間から昇る朝日が美しいことだけだ。


その丘の大樹に抱える程度の大きさの石が置かれている。

ミレイラはそれをじっと見ている。

隣にはペレスが黙祷している。


ペレスは言った。

「必要だったのです」

「我々の手で。ミレイラ様の手でガレスを討つ事が」


ミレイラは何も言わすに立ち上がった。

朝日が昇る。彼女は包帯が巻かれて手で目を覆う。

一日の始まりの合図だ。


この地に眠る者にも見えるだろうか。

ローレイラの新しい始まりが。



リリスは森に籠っていた。

森の先にはすたれた町がある。

アウロラのいる町だ。


二つの建物の隙間からアウロラの部屋が見える。

素人なら躊躇する距離だが、ここからなら絶対に外さない。

新月の夜でもそうだ。


城攻めがあった日、アウロラからディートスの暗殺を依頼された。

彼女はディートスの呪縛を解くためだと言った。


「アリアに聞いてみてください。許可は貰っています」

「後は彼がいつ現れるかが問題なだけです」


アリアにアウロラの手伝いに行くと言うと、一瞬だが驚いた表情を見せた。

「アウロラによろしく言っておいて」

その一言だけ聞いて戦場を離れた。


アウロラによれば、今回の事でディートスは後ろ盾と地盤を失い、自分のところに転がり込んでくるだろう。

そして、再建の為に自分を連れて、何か所もある隠れ家に行くだろうと語った。


「隠れ家の全ての位置は知りません。一旦出れば行方は追えません」

「彼を尾行することは困難です」


だから、部屋に入ってきたところを機を見て射抜いてほしいと言った。

アリアが許可を出した位だ。上では了承済みなのだろう。


あれから三日経つ。


アウロラはほとんどを部屋の中で過ごしている。

窓辺でぼんやりして、たまに店に行くのか部屋を出る。

夜は早めにランプに日を灯し、弟子にあれやこれや教えてる。


不思議なのは寝ているはずなのに、ランプは朝までつけている。

暗闇でも射抜けると言っていたのだが、信じていないようだ。


ディートスが現れるのは三日以内だからと言われた。

その程度なら適度に目を閉じ休むだけで体はもつ。

日に一回は部屋を留守にするので、その時を休息の時間にしている。


しかし、不思議な事を言っていた。

ディートスは夜には現れないように言ってある。

昼間の方が人に紛れやすいことは分かるが、言ってあるとはなんだ。

リリスはアウロラの話を鵜吞みにせず、昼夜を問わず監視を続けた。


相変わらず窓辺で外を見ているアウロラがゆっくりと立ち上がる。

誰か来たようだ。聞いたディートスに人相通りだ。


何事かを話している。

アウロラが邪魔で矢が放てない。

リリスは矢を射る時を誤らないように矢をつがえたまま待っていた。



「愛し子よ。こんなところにいたのか。探したよ」

ディートスは言った。

アウロラは何も答えない。


「計画を修正する。お前はここで両国の情報を収集せよ」

「私は残りの者と発つ」


ディートスは苦悶の表情を浮かべている。


「変更ですか。失敗ですよ。貴方の野望は潰えました」

「国にも東国にもあなたの情報を流しました。高値で売れましたよ」

そして、アウロラは立てかけてあった剣を抜いた。

「私は貴方の子ではない。その言い方を止めてくださいますか。腹が立ちます」


ディートスは怒りの表情を受けべて剣を抜いた。

「恩を仇で返すのか。親不孝者が。私に剣で勝てるつもりか」

「お前は私の子らで最も剣が使えなかった」


アウロラは剣を構えて言った。

「相打ち程度なら大丈夫ですよ」


アウロラが剣を振りかぶりディーストに襲いかかるが、剣が胸を貫いた。

ディーストは剣の手ごたえに妙な感じを覚えた。

心臓を一突きした割には軽い。


アウロラは崩れ落ちながら、笑ってみせた。

それを見たディーストはすべてを悟った。アウロラが唯一出来るのは剣を自ら受け止めて動きを封じる事。

急所をわずかに躱すことだけに集中したのか。


ディーストは窓の外。建物のから見える森を見ると、アウロラの体を足蹴にして剣を引き抜いた。

同時に身をよじると一本の矢が頬をかすめる。

引き抜きざまに剣を振り上げると、また一本の矢を弾き飛ばした。

すぐに剣を返すと、最後の矢を弾き落とした。


矢が見えているわけではない。

長年の修練で体が勝手に矢で狙われるであろう場所に剣を振っていく。


危なかった。姑息な真似を。


怒りに任せてアウロラに剣を突き立てようとしたとき、ディートスは体に異変を感じた。

胸に矢が刺さっている。四本目の矢。一体どこから。

ディートスは震える手で矢を握り締め抜こうとしたが抜けない。

手は震える事を止め、力なく垂れ下がり体は力なく崩れ落ちるように床に倒れた。



リリスは隠れていた茂みから飛び出すと、隠しておいた馬に乗って町へ走り始めた。

獣道から山道に出る。嫌がる馬を無理やりは走らせた。


「最後の切り札って持っていますか?」

リリスは部屋で打ち合わせをしているときに、アウロラから問われた。

「あの男は手練れです。国には三本を放つ者は結構いるんです。だから三本を連続して躱す訓練があります」

「でも、それ以上、放つことを出来る者はいませんから、四本躱すまでの訓練はしていません」


リリスは黙っていた。かまをかけるかもしれいないと思った。

四本目の矢は戦場でも国でも見せたことは無い。

使う機会はないし、これは純粋に自分の限界を知るために訓練した結果でしかない。


「私も切り札を使います」

リリスは、アウロラが相手の弱みでも握っていて、それをネタに隙を作るとばかり思っていた。

自らの体で剣を受け止めるなんて想像もしなかった。


町について古着屋に行くと誰かいる。

ミストラとガーランド。そして馬車と数人の男。


リリスは何が起こっているのか理解できずに呆然としていた。


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