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剣士の国  作者: quo
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暗闇の狼

アリアとイーゼル。ワイズは出城を目指していた。


空に一本の閃光が走る。


ミレイラは確保できたか。

迷っている暇はない。アリアは一気に出城を落とすことを決めた。

イーゼルもワイズも何も言わずにアリアについてくる。


出城が見える。伝令の言った通り出城にいた衛兵が出てきている。

相手はこちらの数も実力も過小評価している。

籠城される前に決着をつけたい。


出城からの兵団の手前で、連続して火の手が上がる。

火薬を撒いて足を止めている様だ。


攻城戦用の仕掛けに出ていた間者たちが、手持ちの武器で足止めをしている。

遠目にみて兵力は三倍だ。ミレイラより駐留し続ける事が優先だったのだろう。


イーゼルはアリアに

「先に行くぞ」

と言って、出てきている兵団の後ろに回り込んだ。

ワイズは兵団にめがけて突進する。


アリアはワイズに、

「三人貸して!使い手だけでいい!」

ワイズが後ろをみて、剣士の一人を顎で指した。

差された剣士が二人を伴ってアリアに向かう。


「前方の部隊の後ろにつく!」

アリアが叫ぶと、三人の剣士は無言で後ろについた。


ワイズが合図すると剣士達が矢を放つ。兵たちは倒れ混乱してゆく。


「駆逐する!」ワイズがそれだけ叫ぶと、剣士達は楔形の陣形になり衛兵に襲いかかった。

間者たちが火薬を使っておいていたおかげで、衛兵たちの隊列はすでに乱れていた。

剣士達は無言で突進してくる。剣すら抜いていない。

まるで、そこに誰もいないかのように走り抜けるようとしている。


衛兵たちはその姿に恐怖した。まるで幽鬼の集団が迫るかのようだ。

隊長らしき者がようやく、隊列を整えようとしたときには、最初の衛兵の首が飛んでいた。


自らを鼓舞する叫びも、命令の復唱もない。

ただ、目の前の敵を斬る事しか考えない人形の集団。

これが剣士の軍隊。


イーゼルも剣士達も相手の直前で抜刀し、恐怖に引きつる衛兵を次々に斬ってゆく。

辺りには衛兵の悲鳴だけが聞こえてくる。


まるで闇夜で狼の群れに襲われる小鹿の様だ。



出城から屋敷に出現した救助の敵兵を狩るだけの簡単な仕事だったはずだ。

衛兵の隊長は、突如出現した敵兵が、無言で部下たちに襲いかかってくる光景を見ながら思った。


出撃すれば、あらゆるところで火薬が火を噴き馬が暴れだす。

やっと火薬が切れたのか落ち着くと、このありさまだ。


彼は心の底から城を出たことを後悔していた。

何もない日々に飽きて、ここぞとばかりに屋敷を包囲して敵を追い詰めようとした自分が馬鹿だった。


「隊長殿!」

副長の呼び声に我に返る。

「こいつらには歯が絶ちません。兵たちも浮足立っています」

「まだ士気の高い者達で、出城に向かった連中を叩きましょう」

「駐留している者達と挟撃。後方から抜けたら城に入りましょう」


城の方向を見ると二十名ほどが直進している。


「わかった。後列は城に向かっている敵を討つ」

「後はこの場で持ちこたえよ」


前列はもはや機能していない。号令も聞こえてはいない。

隊長はまだ正気を保っている二十名ほどを連れて城へ走り出した。


隊長も副隊長も、内心は兵を捨て城に逃げ込みたかた。

付いてくる兵たちもそうだ。


雄叫びをあげて、自らを鼓舞して相手を威嚇する。

そんなことはお構いなしに、無言で斬りにくる。

そんな連中の相手などしたくない。


城へ向かっていると、隣にいた副長が後ろに倒れ込んだ。


矢だ。伏兵がいる。


馬を止めることなく兵士達が隊長を囲む。

「足を止めるな!踏みつぶせ!」


しかし、周りの兵は次々に矢にあたって倒れていく。

前方から来るのは四人の兵だけだ。

あの敵と同じく静かに迫ってくる。


四人は散開したかと思うと、兵のまばらなところをに入り込んでくる。

兵たちはさっきの戦いの恐怖で浮足立ち、ばらばらになってしまった。

四人は集団としての力を一気に奪った。失った衛兵たちを各個に斬り捨てていく。


隊長は統率を失った兵を集めようと号令を発する。

気付くと目の前に大剣を振りかぶる女がいた。

「だまれ」

隊長は兜ごと頭を叩き割られた。



アリアは城へ戻ろうとする敵兵を無力化した。

果敢にも斬りかかろうとしてくる兵を一撃で葬りながら辺りを見渡す。


時間がかかっている。

あの爺さんは一兵も逃さないつもりだ。丁寧過ぎる。


付いてきた三人の剣士は次々と敵兵を斬りはらっている。

まだ、数人で集団を組んで抵抗している敵兵がいる。

足は止めて数は少なくしたが、大半が城に逃げ込むことになりそうだ。


さすがに三人では荷が重いか。


遠くに馬に乗った兵が見える。

剣士が二人。先頭に居るのはルカだ。


ルカは手近かな集団を見つけると馬を走らせ斬り込んだ。

密集隊形でいた敵兵を正面から斬ると、そのまま馬から飛び降り後ろにいる敵兵の腕を切り落とした。

ルカに、馬上から次々に剣と槍が振られる。


身を低くし攻撃をかわすと馬の首を斬り、翻るとナイフを放つ。

馬上の敵兵の首に深々と突き刺さり、崩れ落ちるようにして落馬する。


混乱をきたす集団に矢が放たれ、二人の敵兵が頭を射抜かれた。

ルカの後に付いていた剣士だ。

ルカが攪乱させているうちに出来た隙を狙って矢を放ち斬り込む。


瞬く間に六人の集団が壊滅する。

ルカの乗っていた馬を剣士が引いてくると、素早く飛び乗り次の集団に向かう。

アリアに付いていた剣士達も呼応して敵兵を追い立てる。


アリアは遠くからその戦いぶりを見ていた。


早いな。付いてくる剣士もいい。これならイーゼルの後方は安全だ。

ここの敵兵たちが城に逃げ込む余地もない。


ワイズの爺さんの部隊は修羅場をくぐって来た連中ばかりか。

しかし、その剣士達が敢えてルカの補助をするとは。



ルカと剣士達をみた敵兵はおびえている。

ルカはまるで手負いの鹿を狩る狼のように駆け抜けている。


アリアはルカが見せてきた手紙の事を思い出した。

ミレイラに会ったのか。


アリアは空を見上げた。

夜が明けるまで時間が無い。


アリアはルカと剣士達に、集まるように号令をかけた。

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