表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣士の国  作者: quo
126/144

ナタリアの憂鬱

闇夜を一筋の光が貫いた。


ナタリアは出城へ一番短い距離を走っていたが、森の方へ進路を変えて更に馬を走らせた。

ルカも剣士達も隊列を乱さず進路を変える。


途中、悪路を通ったが先行した者達の馬の走った後を追うと、意外に早く走ることが出来た。

あの閃光の矢が放たれた場所までもう少し。

ミレイラは発見されだろうが、逃げられている可能性もある。


ナタリアは並走するルカの顔を見たが、平静そのものだった。

もしもミレイラに万一の事があったら、この子はどうなるのだろう。


そう考えながら馬を走らせると人影が見える。

あの姿はウチの手の者だ。


よく見ると二人の男がぐったりとした女を抱えて森から出ようとしていた。


これだから素人は嫌いなんだ。


ナタリアは走る馬から飛び降りると、そのまま地面を転げて立ち上がり走り出した。

「地面にゆっくり置け!そして動かすな!」


ミレイラの手の者と思われる男が立ち塞がろうとしたが剣士達がそれを制する。

剣士達はナタリア達の通り道を作った。


滑り込むナタリアが、ミレイラを運ぼうとしてい騎士に剣を突きつけて言った。

「聞こえなかったのか」


初めてみるナタリアの表情。いつもの飄々とした感じはなく、今にもナタリアが怪我人を製造しそうだ。

リリスがナタリアが仲間で薬士である事を告げ、騎士たちをなだめた。



剣士の一人が外套を地面に敷いた。

ミレイラはその上にゆっくりと慎重に寝かせられた。


「灯りを」


すでにランプに火を入れた剣士がミレイラの上にかざす。

残りの剣士はナタリアとミレイラを囲むように周囲を警戒する。

暗闇でランプの灯は、絶好の的だ。


剣士達の動きに呼応して、騎士たちも周りを固める。


剣士達の一糸乱れぬ動きにリリスは感心した。

ナタリアの部下でもないのに、次を読んでそれぞれが流れるように動く。


剣士全員がそうだ、リリスの動きを邪魔しない。自然過ぎて気付かなかった。

気付けば連携して剣を抜き矢を射る。怪我は自前で処置する。


ルカとアリアが強すぎるから気付かなかっただけだ。

集団となった剣士達は一つの生き物のように見える。

これだけ出来るまで、どれくらいの訓練をしてきたのか。


「剣士達の国。剣士達だけの国。剣士しかいない国」


リリスは郷里の事を思い出す。

仕方ないから戦うだけで、いつもは武具をしまい込んでいる。

彼らはしまい込んでいる武具。その武具がひとりでに動くことは無い。


リリスは彼らの強さよりも、その存在自体に気味が悪くなった。



ナタリアはミレイラの服をナイフで切り裂く。

服がはだけた胸にナタリアは胸に耳を当てる


騎士に助け出した状況を聞いて、ズボンの右足の部分を切り裂いた。

白く美しい肌にあらわになる。

足首から脛のあたりまで腫れて血が滲んでいる。

その様子を騎士らが見守る。


「主人の裸が見れて満足か」


ナタリアは治療をしながら言うと、騎士たちが一斉に下がって視線をそらした。

西の国の者は、男女が肌を見せ合う事にあまり抵抗が無いそうだ。

その国のナタリアがあからさまな嫌味を言う。ナタリアは終始機嫌が悪い。


理由を考えていると、遠くに気配を感じた。


剣に手を添える。よく見るとルカだ。馬上からからこちらを窺っている。

ランプの光にわずかに照らし出さてる姿は血にまみれている。


表情までは分からない。

いつもなら、真っ先にミレイラの下に走ってくるものだろうが。


リリスが声をかけようとすると、出城の方へ馬を走らせた。

剣士が二人馬に駆け寄り後を追った。



ミレイラは朦朧とする意識の中にいた。

目の前にルカがいる。


こちらを見ている。近づこうと一歩踏み出すとルカも一歩後ずさる。

手を伸ばしても後ずさる。

すぐ前なのに近づけないし触れることもできない。


ルカの顔はいつものように表情が無い。

いや、出会った頃の表情に戻っている。


ミレイラがルカの名を言おうとしても声が出ない。

こんなにも近くなのに、ルカを触る事も話をすることもできない。

ミレイラの瞳から涙があふれて止まらない。


胸が締め付けられる。

「私はどうしてあんなことを」


ミレイラはその場に座り込んでしまった。



ミレイラは遠くから聞こえる声を聞いた。

ペレスだ。


目を開けると見慣れない女性がいる。

「まだよ。寝ていてね」

隣でペレスがしきりに声をかけてくる。


女性は私の治療をしている様だ。

全身が痛い。


「肋骨にひびが入っているわ。足は折れていない」

「運がよかったわね」


ミレイラは、指揮をとると言って起き上がろうとした。

「まだちょっと寝ていてね」

それでもよろめき、浅い呼吸で苦痛に耐えながら起き上がった。


ナタリアは、

「そんな状態で指揮はとることは出来ないでしょう」

「痛み止めです。良く効きますよ。判断は鈍りますが」


そう言って、粉薬を差し出した。

ミレイラはそれを無視して立ち上がると、騎士が見守る中、馬に向かいまたがろうとしている。

剣士達はその姿を冷ややかに見ている。


ペレスは、

「懸命に治療してくださった方に失礼です」

そう、強い口調でミレイラを叱責した。

「そのような方に育てた覚えはございません。父君も母君も悲しみます。騎士たちもついて行きますまい」


ペレスはミレイラの父と母の事を、敢えて口にした。

ミレイラはナタリアに向き直ると謝罪した。


そして、また馬にまたがろうとする。

ナタリアはリリスを見た。リリスも同じことを考えている様だ。


「我々はあなた方の後ろを行かせていただきます。すこしお城に用事がありますので」

「倒れられましても、邪魔なのでお助けしませんが」

そう言うとナタリアとリリス。剣士達が騎乗した。


ミレイラは何も言わない。


「ルカが先行しています。アリア達に合流しましょう」


ミレイラはルカの名前が出た瞬間、ナタリアを見ようとしたが止めた。

あんな手紙を書いた私を助けて、何も言わずに前線に向かうルカ。


胸が締め付けられる。そして自分一人では、どうしようもない。

惨めで歯がゆい。


ロペスが言う、

「我ら騎士団はいつもお側に控えております」

「ミレイラ様に寄り添う方々もいらっしゃる」

「あなたお一人ではありません。そのことをどうかお忘れになりませんように」


ミレイラは騎士たちに号令をかける。

「我が城に巣食う賊を駆逐します。騎士団は前へ」

そして、ナタリア達に向き直ると、

「先ほどの私の振る舞いをお許しください」

「城の解放にご助力をお願いいたします」


そう言って頭を深々と下げた。


「契約だ。私は先行する」

「ナタリア。すまないが怪我をしたら治療をしてくれ」


そう言って駆け出した。

そのあとにナタリアが続く。

ナタリアが振り向くと、騎士団はミレイラが馬に乗るのを手助けしている。


「さすがに意固地に効く薬はなりません」


ナタリアはそう呟くと、リリスの後を追った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ