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剣士の国  作者: quo
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思い出と騎士

ミレイラは衛兵たちに囲まれて出城への道を進んでいた。

両手が塞がれ馬を御しがたい。


森に隠れた迂回する道を選んでいる。

手入れが行き届かなく走るのに難儀な道だ。

だが、見つかりにくいし、森へ入れば隠れる事も出来る。


ミレイラはこの先に猟師が使う獣道がある。馬一頭がやっと通ることしかできない狭い道。

幼い頃に道に迷いこんで迷って、ペレス達が大捜索をする騒ぎになった道。

見つかった時に、母が涙を流して抱きしめてくれた。



悪路のせいで隊列が乱れている。

このまま、おめおめと出城に連れて行かれることは出来ない。


あの男を見たときに確信した。

集会場でルカと対峙した男と同じ。

ガレスは領民の事を何とも思っていない。ただ、恐ろしい者達の住処を与えたいだけだ。


このまま人形になってはいけない。


ミレイラは衛兵たちの隙を見て馬を駆け出させた。

気付いた衛兵が前に出ようとした瞬間、手綱を目一杯引き上げた。

大きな嘶きをあげて馬は倒れて、ミレイラは投げ出された。

後続の衛兵たちの馬は、避ける為に混乱し迷走している。


ミレイラは手を縛られ、満足に受け身を取ることが出来ずに地面に叩きつけつけられた。

頭だけは守ったが、わき腹に激痛が走る。


肋骨が折れたか。


息をする度に痛みが走る。右足の痺れが痛みに変わっていく。

ミレイラは浅く呼吸しながら、右足をかばって立ち上がる。

体中が痛い。


振りかると衛兵たちの混乱が収まっている様だ。

すぐに追いつかれる。


ミレイラは呼吸もままならないまま、右足を引きずりながら枝道へ分け入っていった。

暗くて足元が見えない。頭がぼんやりとする。


ミレイラは子供のころを思い出した。

近道をしようとこの道に分け入った。道はいくつにも分かれ自分がどこにいつかも分からなくなった。

うす暗い森の中。知らない鳥の鳴き声。茂みの中を何かが動いている。


怖くてうずくまって泣いてしまった。


ミレイラは痛みで朦朧として、森の中で倒れ込んだ。



リリスはミレイラを追っていた。

出城への分岐で、馬の足跡の欺瞞にかかってしまった。

彼らの中でも精鋭なのだろう。リリスは侮った自分を恥じていた。


道は悪路で馬が思うように進まない。それは、あちらも同じはず。

この道を向けると平地が続く。抜け出し、一気に走られたら出城に入るのを阻止するのは難しくなる。

せめて、出口付近に誰かが進んでいてくれればいいが。


リリスが遠目に人影を見た。

衛兵たちだ。止まっている。

何人かが倒れ、手当てを受けている。そして、残りが森に入っていく。


ミレイラは逃げ出したか。


リリスは矢をつがえると、一気に三射した。

馬上から、しかも暗闇で悪路を進む馬上から放たれた矢は、一人の肩に突き刺さり、残りはこめかみを貫いた。

剣士達も矢を放つ。


衛兵たちも矢で応戦する。距離が詰められない。


後ろの剣士が言った。

「場所を知らせます。一時、目をお閉じください」

そう言うと、一本の矢を取り出し弓につがえると空に向けて放った。


放った瞬間から眩い光を放ちながら上空へ消えてゆく。


「ここにミレイラがいる」


おそらく、この場に居る全員がその光をみて、そう思っただろう。

しかし、西の国の連中は、やたらと光らせたがる。


リリスは一時、目が眩んでしまった。

これが逆の立場だったら危なかった。敵には回したくない。


衛兵たちも目が眩んだらしく、矢が放たれてくるのが止まった。

リリスと剣士達は、一気に間合いを詰める。


何か衛兵たちが混乱している様だ。

彼らの背後から兵が襲ってきている様だ。

アリア達か。


よく見ると夜盗の集団かと思えるほど、それぞれに武器は違い甲冑を着ていないものもいる。

しかし、あの甲冑は騎士の物ではないか。


リリスが叫ぶ。

「ペレスか!」

一人の騎士が振り返る。兜しか被っていないがペレスだ。


「リリスか!ミレイラ様は何処だ!」

リリスが近寄ると夜盗に見える騎士団が、衛兵をあらかた斬ったところだ。


「森に何人か入った。森に逃げ込んだんだろう」

リリスが言い終わらないうちに、ペレスが馬を飛び降り森に走り込む。

「この道だ!続け!」

十人以上いる血走った集団が森の中に分け入る。

リリスたちは外で警戒することにした。


剣士の一人が言った。

「追わないのですか」

森の中から剣が交わる音と悲鳴が聞こえた。


そして、ペレスと他の騎士たちのミレイラを探す声だけになった。

「彼女の騎士だ。騎士としての役割を果たすさ」

リリスはそう言うと、周りの警戒にあたった。



ミレイラは朦朧とする意識の中でペレスの声を聞いた。

あの時もそうだった。ペレスが助けに来てくれた。

涙を流していた。


足音が近づいてくる。逃げなければ。


ミレイラは朦朧とする意識のなかで、力を振り立ち上がろうとするが、足を曲げようとするたびに激痛が走る。


しっかりしなくては。またペレスの声がする。

眩暈がして目を閉じそうになる。今度はペレスの顔が浮かんできた。


「ミレイラ様!」

気を失う寸前、ミレイラは耳をつんざく程の大きな声で名前を呼ばれた。

我に返ると、ペレスが涙を浮かべている顔が目の前にあった。


あの時と同じだ。

まわりには騎士たちがいる。それぞれに私の名前を呼んでいる。


「大丈夫です」

そして、

「よく来てくれました」


ペレスも騎士たちも大声で泣いた。


それはリリス達にも聞こえてきた。


雲が晴れ月の灯りが、倒れた衛兵たちを照らし出す。

剣士の一人が衛兵たちを見て言った。

「命を賭すにふさわしい人がいないのは悲しいものだ」

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