混乱
老騎士ペレスは十人の騎士たちと蝋燭を囲んでいた。
皆が眉間に皺を刻んでいる。
装備は没収され、詰所に十人程度ずつ部屋に分けられている。
食事も食堂で時間をづらして摂らされている。
互いに連携をして反乱を起こすのを防ぐためだ。
敵の情報は使用人が来るときに、世間話に織り交ぜられる程度だ。
外の巡回に屋敷の巡回。ミレイラ様は定期的に部屋を移る。
没収された武器や敵の人数など、使用人に探らせるのは危険すぎる。
ペレスはあらゆる事態に備える事を怠ったことを悔いた。
互いの連絡方法も向け道もない。
これが平和がもたらす負の一面だ。
しかし、突然、使用人からの情報量が増えだした。
出入りする使用人が武器の在処、衛兵の巡回の時間。大まかな人数。
古くからいる使用人だ。嘘をついているとは思えない。
「好機です。いま打って出なければガレスの率いる兵で身動きが取れなくなります」
「敵が寡兵であるうちに行動しましょう。別の部屋の者どもも、騒ぎに乗じて動き出すでしょう」
ペレスは思った。これは罠だ。
ガレスはしびれを切らした我々を討伐すると言う名目が欲しいのではないか。
それが無ければ、ただ、委任統治で我々騎士団を内包することになる。
綺麗にしておきたいのが道理だ。
「ご決断を」
騎士は十人すべてが決起する事を望んでいる。
ペレスが止めても無駄だろう。
一か八かやるしかないのか。
ペレスはふと、ルカ達の事を思い出した。
もう外に待機しているのではないか。
ペレスは首を横に振った。何にすがろうとしているのだ。
これは、我々の仕事だ。
ルカとリリスは屋敷の森に潜んでいた。
すでに待機していた間者から、巡回の衛兵は二名一組だが時間帯を不定期にしている。
しかし、横着になったのか、概ね三種類になっていると言った。
そして、ミレイラは部屋を定期的に変えられているが、三部屋まで絞れ込めていると言った。
屋敷に潜り込ませたが居るが、まだ連絡が無いそうだ。
過去に入り込んだ間者は、連絡が無く、森に中に打ち捨てられていたと言う事だった。
優秀な猫がいるらしい。
どう攻めるか考えていたところに伝令が来た。
「国から正体不明な一群が出発。後方の小隊は進攻速度を上げた」
伝令はそう言いうと森に消えた。
リリスはルカに、
「本体と合流前にミレイラを押さえる段取りだ。急ぐぞ」
ルカも同意して剣士と間者に言った。
「時間が無い。道を開いてくくれたら前に出る」
「余計な者は皆斬るから、ミレイラの確保をお願い」
そして、リリスを見ると。
「援護をお願いします」
リリスは今のルカには、人を率いる力があると思った。
急な状況変化に対応する冷静なルカをみて、援護して彼女に指一本触れさせまい。
間者たちも意見することなく、静かに動き出した。
間者たちは十本ほどの細い筒を持ち出してきた。
「中に爆薬を収めてあります。塀までつなげて爆破します」
「外回りは罠だらけです。時間が無いので吹き飛ばします」
ルカは、分かったと言ったが、リリスには理解できない作戦だった。
利にはかなっているかもしれないが、こんなところで爆薬など。
城を囲んだ時にしか見たことが無い。
間者は、そんなリリスを横目にルカに手に入るくらいの筒を渡した。
リリスが何に使うのかと聞くと、部屋に入る前に入れると一瞬、閃光がはしって人の動きが止まる。
まともに見れば、十数える数える位は止められるから、二十二人はいけると言った。
そして、万が一ミレイラがいても、傷つくことは無いそうだ。
リリスは分かったと言ったが、貰った特殊な矢を置いて行こかと思った。
爆薬の準備が整った。
ルカと剣士達は慣れているのかは耳を塞いで待機している。リリスも真似をした。
全員が耳を塞いだのを確認して爆薬に火がつけられた。一瞬おいて立て続けに、爆竹を十本束ねたくらいの音が弾けわたる。
まだ煙が立ち上っている爆破の後を駆けだす。
落とし穴の形跡に、隠されていたであろうトラばさみが作動し、露出している。
これを一つずつ取り除いては、敵に射られるのが関の山だ。
ルカとリリスは一気に塀に取り付く。
何事かと集まる衛兵に、剣士が襲い掛かり間者たちが弓を射る。
ルカが塀に鉤爪で上りあがると眼下に衛兵が二人いる。
ルカは気にせず一人を頭から切り裂くと、もう一人の首をはねて広間に走った。
「やるね」
リリスは塀から取り降りざまに、正面に立哨をしていた二名の衛兵に矢を放った。
二人は崩れ落ちると動かなくなった。
屋敷の影から足音が聞こえる。三人だ。
一瞬、雲間から差し込んだ月の灯りに照らされた衛兵たち。
リリスは三本の矢を指に挟んでつがえると、三人の衛兵に向けて次々に放った。
次に月の灯りに照らし出された衛兵たちは、地に倒れて動かなくなっていた。
リリスは周囲を見渡したが、庭に立っている衛兵どもいなかった。
屋根から人が落ちてきた。矢が突き刺さっている。
どうやら、上の方も片付いたらしい。
剣士達が屋敷の扉をけ破ると、ルカの持っていた筒を投げ込んだ。
強力な閃光と音が鳴りびく。
そして、一気に剣士と間者が飛び込んでいく。
驚いた中の衛兵は何が起こったのか分からずに斬られただろう。
しかし、使うときには一言かけて欲しい。耳が痛い。
ルカを見ると貴賓室の扉に張り付いて、中の様子を覗っている。
リリスは駆け寄ってルカの背後について。
お互いに目線で合図する。
ルカが窓を剣で突き破り筒を投げ込んだ。
ルカが部屋に飛び込むと同時に、リリスも後をおった。
中にいた衛兵は一人。すでに首を斬られて転がっている。
隣には腰を抜かした使用人がいた。確かに滞在中に見た顔だ。
リリスが、
「ミレイラを助けに来た。どこにいる」
と聞くと、使用人は衛兵に連れ出されたと言う。
不味い。城に連れてい行かれると厄介だ。
「追うぞ!」リリスがルカに叫んだが動かない。
部屋の外。広間から剣が交わる音がする。
「広間に誰かいる。剣士達を連れてミレイラを探して」
「私がそいつを処分する」
例の逃げた剣士がここに居るのか。
間者を斬って森に投げすてたのはこいつか。
ルカとリリスが広間に行くと、一人の男がいる。
すでに剣士が一人、倒れている。後の剣士が距離を取って構えているが動けないでいる。
リリスは離れていても圧迫感を感じた。
昔、ルカに追い詰められ斬られた男とは格が違う。
男も剣士達もルカの気配に気づいたのか、剣士は倒れた仲間を連れて表に出た。
男は追う気配もなくルカを見ている。
ルカは剣を振って付いた血を払った。