深い眠り
アリアは人の寝息を感じて目を覚ました。
雨戸の隙間から、わずかに柔らかな光が差し込もうとしていた。
アリアが、寝息のほうへ目をやると、ルカが床に寝転んで剣を抱いて丸くなっていた。
執行人は敵が多い。いつも剣を抱いて、壁に寄りかかって寝る。寝込みを襲われてもすぐに対処できるように訓練されている。
しかし、今のルカは、無防備に静かに眠っていた。
私に心の内の、その片りんだけでもを打ち明けて、緊張の糸が緩んだのだろうか。
息を殺して近づいても、起きる気配はない。
柔らかな寝顔。アリアはそのまま寝かせてあげようと思って、自分がいたところへ戻ろうとした。
すると、ルカは弾かれたように飛び起きた。目を大きく開けてアリアを見つめた。
おはよう。そうアリアが声をかけた。
ルカは、深呼吸して少し落ち着いてから、小さな声で、おはようと返した。
アリアは、朝食を調達してきた。朝一で宿を回る行商人から、焼きたてのパンと、暖かい野菜のシチューを買った。そして新鮮な果物を一つ。これには追加料金を払って甘いものを選んでもらった。
甘くなかったら、あの行商人の髪の毛を全部、むしり取ろう。
部屋に帰ると、ルカと一緒に朝食を食べた。彼女はパンを小さくちぎって口に運んだ。シチューは音を立てずに飲んだ。
ルカは無防備な寝姿を見られたのが恥ずかしかったのか、終始、アリアと目を合わさなかった。
食事の最後に、アリアが果物をナイフで半分に切った。黄色い果皮から爽やかな香りが。果肉からは薄く赤みがかった果汁がしたたり落ちた。
半分をルカに渡した。ルカがナイフで小さくカットしようとしたとき、アリアはそのまま、皮ごとかじりついた。
アリアの手から果汁が滴り落ち、果皮の爽やかな香りが部屋中に広がる。果皮の香りと甘さを際立たせるわずかな苦み、果肉一粒一粒が弾けて出てくる果汁の味と食感を楽しんだ後は、手に口付けするように、果汁を舐めとった。
そして、いきなり立ち上がると、「商人の髪の毛に幸あれ」と、高らかに叫んだ。
ルカはアリアのその姿を、じっと見つめた。美味しいことが確認できたので、ナイフで果物をカットして口に運ぶと、ゆっくりと果物の甘さと爽やかさ楽しんだ。
アリアが、甘くておいしいね、と言うと、ルカはアリアを見つめてうなずいた。