作戦
アリア達は小隊長二人を交えてローレイラのティファニアの屋敷の攻略の作戦について話し合った。
珍しく、間者の首領と名乗る男がいる。
肌はやけ、黒目がちで農夫の格好をしている。農具を積んだ荷馬車に乗っていても分からない。
アリア達と行動を共にする。そう言いながら、当たり前のように屋敷に入ってきた。
農夫の男は、こちらが動かない限り補給線は維持される。
だから、気付かれない程度に補給を多めに発注して備蓄していると言った。
動けば、真っ先に軍が補給を止めるだろう。
グリンデルが先手を打って指示をしている様だ。
ミストラとルカが滞在していたので、建物の間取りは分かっている。
問題は何処にミレイラがいるか。そして、敵の数。
農夫の男によれば、ミレイラを最後に見たのは屋敷らしいが、守りが硬く安易に近づく事が出来ないそうだ。
屋敷には十五人程度。交代で周囲を見張っている。対して出城には三十名ほどが常駐している。
合戦同様に上階には見張りと弓兵がいる。橋も堀もないことだ。
正面の門は堅牢だが、わざわざそこを通る必要はない。
こちらは六十名になる。平野の合戦ではない。屋内戦となると話が違ってくる。
エド達に五人は裂きたいので、剣士の練度が高いと言えど劣勢は否めない。
そして、厄介のは出城だ。そこに籠城されると落とすのが難しくなる。
もし、出城にミレイラがいたなら。
攻城戦用に間者たちが爆薬の準備をしている。
ミレイラに危機が及ばないか。
農夫の男は自分たちの人数を明かさないが、屋敷と出城に同数は裂けないと言った。
剣士達の進行に気付かれる前に強硬侵入。
ミレイラを確保して小隊が突入する。
時間との勝負だ。
アリアが農夫の男にエンデオの軍の動きについて聞いた。
一個大隊が編成されているが、動きを見せているのは一個中隊だけだそうだ。
もう一個中隊は各領主からかき集めている。日和見しているようで動きは緩慢だと言う。
ローレリア領の委任統治で、どれくらいのうま味が引き出せるのか。
どうせなら、正面には出ずに後方で出方を窺った方が良いだろう。
それでも、こちらが損耗が無くローレイアに籠城できても、二百人程度は相手をしなくてはならない。
しかも、国からは応援ではなく、反乱部隊の鎮圧を名目に大隊が押し寄せる。
東国もさすがに軍を動員するだろう。
イーゼルが言った
「アリア。確か五分五分ッて言ったよな。ミレイラさんを連れて逃避行か」
アリアは、
「時間を稼いで。後は上がうまい具合にする」
イーゼルはアリアの言葉に、了解とだけ言った。
ワイズはルカをみて言った。
「いかがいたしますかな。わが小隊は」
ルカは、
「ワイズはイーゼルの後方に付いて。後方と側面を防御」
「何人か選抜してください。弓、屋内戦、攪乱に長けた者で。間者と先行してがミレイラの位置出来次第、救出にあたるから」
ワイズは早速、志願者を募りに行った。
ルカはアリアを見ている。
アリアは、
「上出来じゃない」と言った。ルカがミレイラの担当だ。
しかし、考える時間もなく答えるとは驚きだ。老練なワイズ殿が意見しない。
中隊ぐらいなら楽に扱えるかもしれない。
ルカが国を建てるならどんな国だ。パンと果物、少しの木の実しか売っていない。
アリアは、そう考えると背筋に冷たいものが流れた気がした。
ミストラは壁にもたれ掛かって作戦を聞いていた。
国からの大隊到着とエンデオの兵の到着が同時なのが理想だろう。
国の軍はグリンデルあたりが何か仕掛けて、こちらを攻撃しないようになっている。
しかし、茶番にしては危険すぎる。
しかも、私の事は完全に頭数には入っていない。
止めに入ったルカが声をかけると思いきや、あの老剣士と仲良くなっている。
威勢よく帰らないとは言ったものの、活躍の場は無さそうだ。
補給部の手伝いでもしようか。兵站を舐めちゃいけないよ。
そうして、ため息をついているとナタリアが声をかけてきて。
「剣と鎧を準備されては?瞬時にこの世からいなくなりますよ」
確かにそうだと思いながら、ナタリアに何をするのか問いかけた。
「私は半分は間者たちの指揮下にあります。爆薬作りのお手伝いですね」
「後は皆さんの手当て係です。各小隊と合わせて三人なので、手が回らないかもしれませんが」
「その時は申し訳ありません」
ミストラは、そうですかと言うと補給部へ向かった。
補給部の建屋に着くと、在庫を確認している男に声をかけた。
「剣と鎧をちょうだい」
男はいぶかし気にミストラを見た。明らかに文官が何の用だと見ている。
ミストラは説明するのがめんどくさかったので、何も言わなかった。
男はついて来いと言うと建屋の奥に入っていった。
「火気厳禁」の札と水の入った樽が至る所に置いてある。
途中で木箱を慎重に運ぶ男とすれ違った。気のせいか、冷や汗をかいているように見えた。
換気の窓は閉められている。ランプの光は最低限だ。
ランプの光の周りに蛾が飛び回っている。
湿度の調整に火の管理。補給部には補給部の苦労がある。
男が鍵の付いた棚を開けると、色々な剣が立てかけてある。
全部、装飾が無い。単純に剣が折れたときの代用だ。
主に幅広の直刀が多い。剣士の基本だからだろう。
男はミストラを値踏みするように、上から下へ体つきをみた。
それが終わると、細身で両刃の剣をミストラに渡した。
意外に重たいが、触れなくもない。
「それは突きに特化している。あんたじゃ、大剣を振り回せないだろう」
「ちゃんと鎧の隙間を狙えよ」
十分に分かっております。
ミストラは何回か突く動作をした。
手当てした腕が痛む。出来れば傷が癒えてから使いたい。
そして、短剣にチェーンメイルに保護板。鉄の板で補強された皮と木で出来た兜と、小さな盾を投げてよこした。
「甲冑じゃ動けないだろう。それが一番軽い。横着せずに全部着けるんだぞ」
本当はもっと欲しいんですけど。
男は出入り口にあるカウンターで書類を書けと言ってきた。
事務仕事をしているときには気付かなかったが、書く方にまわると面倒なものだ。
書き終わると今度は、
「あんたは文官だろう。部署が違うから補充じゃない。貸し出しになる」
そう言って、追加で三枚の紙を投げて渡した。
何とも横柄な。しかし、私もこんな感じだったのだろうか。
帰ることが出来たらもっと優しくなることが出来かもしれない。
書類を書き終えると、男は紙を棚にしまい込んだ。
「俺たちも、あんたらに付くことにした。この紙は国に届くか分からん」
「だが、在庫の数に間違いがあってはならん。ちゃんと返却の手続きをしろよ」
ミストラは、男に必ず返すと言った。そして、
「この保護板の付け方が分からないんですけど」
男は説明書きをミストラに投げて渡した。