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剣士の国  作者: quo
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刺繍

リリスはガーランドと町の食堂にいた。

ガーランドは旅の途中、ろくに食べていなかっと言ってリリスと会うなり食堂に駆け込んだ。


よく食うやつだ。


リリスは酒を少し口に運びながら思った。

一気に皿に盛られた肉がなくなってい行く。

ナタリアの料理が出てきたら、どうなる事やら。


ガーランドが一息ついたところで、リリスはカインのもたらした情報を伝えた。

「とにかく、金が流れている。西の国からもだ。エルンストの懐に入っていく」

「金で取り巻きを買収しているんだろう」


ガーランドは「確かに」と言った。


ローレイラの反乱の予兆だけで軍を動かすことは難しい。

何か大義名分が欲しいはずだ。


ガーランドは思い出したようにリリスに情報源を聞いてきた。

リリスはカインの事、そして、いずれ伝えなければならない、自身がミストラ達と行動していることを伝えたん。

ガーランドは意外にも、ミストラ達と行動を共にするのは当たり前だと言った。

問題はカインの方だと言う。


「金融網ってのは分かる。だが、相手も馬鹿じゃないんだろう」

「カインの家を潰しにかかるか、偽の情報をつかまされるんじゃないか」


リリスは意外な盲点を突かれた。

巨躯に似合わず、繊細な判断をする。


「ミストラのところにカインの情報を持ち込んで、向こうの持っている情報と合わせて真偽を判断できないか」

リリスがガーランドに言った。


ガーラーンドは、それが最善と言った。しかし、カインはいい気分はしないだろうと言った。

「だが、カインは太極を見誤る男ではない。事が済んだら俺が酒を奢ってやらなければならんがな」


リリスは、そんなことで片付く問題ではないと思ったが、ガーラーンドらしいと思った。


「ミストラ達の拠点に案内する。途中で剣士に詰問されるかもしれんが、大人しくしておけよ」

リリスが言うと、ガーランドは分かったと言った。


少し心配だ。剣士達が。


リリスは、腹が満足ったら行くぞと言った。

ガーランド分かったと言うと、給仕を呼びつけると大皿を追加した。



アウロラは男と会っていた。

普通の顔をして普通の服を着た男。いや、そうなろうとしている男。

市中で買った情報屋は頑張ってはいるが、それなりだ。


大きな仕事、そして大金。嬉々としていたが、気が張っているのか不審者そのものだ。

落ち着きがない。それがいい。この仕事に適任だ。


出来の悪い「愛し子」が悪あがきをしている。

ディートスは、そろそろ私の居場所を突き止め、目的に気付くだろう。


「エンデオの商家が金を操っている。フォルト家を牽制している」

「王の血族に気付いている者がいる。静かにしている」


アウロラはご苦労様と言うと、男に金の入った金を渡した。

男はアウロラの目の前で袋を開けると、約束通りの金が入っていることを確かめて去っていった。


「夜中に不審な男を見た自警団はどうしますかね」

「彼が無事に帰りつけると良いのですが」


アウロラは、ため息交じりに言いながら青年宛ての手紙を書いた。

手紙を封筒に入れると、その隣に金の入った袋を添えて引き出しにしまった。

ナイフを取り出し引き出しの取っ手に傷をつけた。


「早く寝なさい。私は夜風に当たってきます。明日も早いですよ」

「おやすみなさい」


隣の部屋で聞き耳を立てている青年にそう言うと店を出て行った。


外に出ると夜の町は湿気をはらんだ空気で満たされている。

ここに来てから、夜風なんて当たったことが無い。

茶と同じでどこかで売ってないだろうか。


アウロラは広場を通り過ぎると、あまり良いくない人たちが住んでいる場所へ足を運んだ。

そこへと通じる道は狭く、なお湿気をはらんでいる。


「聞いての通りですよ。カインですか。知らせてあげてください」

「それと、特使によろしくと。あなたの進む方向は間違っていない」


アウロラは暗闇に向かって話しかけた。

返事は帰ってこない。


アウロラは広場へ帰ると長椅子に腰かけて空を見上げた。

風があるのか雲の流れが速い。

今夜は満月だ。アウロラは満月に手を伸ばした。

伸ばした手の袖に満月の光がほつれた跡を照らし出す。


「これなら糸は銀色がいいですね」


このまま、背後から口と鼻を押さえらえて首をナイフでかき切られる。

大量の血が噴き出す前に下がる。喉が潰されているか声が出ない。

一気に血を失った頭は、すぐに考える事が出来なくなって崩れ落ちる。


私がエンデオで間者にしたことだ。

見知らないが同じ国の者に手をかけた。

私も同じことになる。遅からず。


酔狂で拾ったあの青年。

商人町に残した私の店。針子たちはどうしているだろうか。

青年が訪ねて行って、迎え入れてくれるだろうか。


「涙がこぼれます」


アウロラは満月を見上げながら、あふれる涙を拭わずに言った。

最近の彼女の日課を終えると、古着屋に向かって歩き始めた。

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