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剣士の国  作者: quo
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ルカの剣士達

アリアは外に出ると溜息をついた。


情けない。


自分の中で余裕が無いのは分かっている。だが、ミストラの誇りを傷つけてたのは自分の慢心だ。

そして、それに気付かされたのがルカだ。


アリアは息子の事を思う。

いつかは成長して、私に色々と言って来るんだろう。それは間違っているとか。

これは何かの予行演習だろうか。


一瞬、ルカを養子に取ろうかと思ったが止めた。

絶対に息子に悪影響がでる。

いや、息子と一緒にさせるか。しかし、生まれてくる子供がどちらに似るかで家の命運が変わってくる。

それもだめだ。危険すぎるし息子はとは歳が離れすぎている。


ただ、アリアはルカを側に置いてやりたいと思った。

それは情ではない。母性がそうさせているのだろう。


アリアのところにルカがやって来た。

ルカは隣に立つとアリアに何か言いたそうにしている。


「なによ」とアリアが言うと、夕飯をどうするのか聞いてきた。

日が傾いている。そろそろ、そんな時間か。

「みんなで一緒に食べるでしょ」とルカが言う。


アリアは分かったと言うと、隣の小隊長の分も用意するように言った。

ナタリアの料理で栄養を着けてもらいたい。

イーゼルは気に入るだろうか。


アリアは優しい表情をしている。

ルカは何となくだが、小隊長とやらがかわいそうに思えた。



夕食の準備が整うと小隊長と料理を囲むことになった。


イーゼルは料理には手を付けているが、なにか、あえて話題にしようとしないように努めている様だ。

それだけに、会話が進まない。

やはり、食事は栄養補給だけじゃない。しかし、ルカは別だ。黙々と食べている。


イーゼルは、今回の作戦の事について話した。

概ね、アリアの言っている事と同じだが、ローレイラ攻略に言及したときに大きな被害が出るかもしれないと言った。


「間者が潜れていない。正確な人数に配置が分からない。陽動後に間者が入って要所を押さえる」

「特にミレイラの保護を最優先にするが、万が一の事を考えなければならない」


分かり切っている事だ。急でしかも寡兵で臨むのだ。みんな沈黙している。


イーゼルが場の空気を和らげようと、アリアと旦那の恋物語でもしようかと言うと、アリアがイーゼルから結婚を申し込まれたときの話と、どっちがいいと言い出した。

イーゼルはいきなり話をずらした。


「ルカ君だっけ。うちの連中が手合わせしたいって言ってたな。向こうの小隊の連中から聞いたよ。強いんだってね」

「アリア先生とどっちが強い」


イーゼルはアリアの前て茶化して見せた。

ルカはアリアを見ると、「五分五分」と答えた。

イーゼルは笑ってみせたが、他の者は押し黙っている。


俺は触れてはいけないことに触れたのか。


イーゼル達は黙々と食事をした。

ナタリアだけが、その様子をみて微笑んでいる。



食事か終わるとルカは屋敷の縁側に立った。

見上げると満月が天中にある。

屋敷を取り囲む木々が満月の光を集めて、庭に注ぎ入れている。


ルカは懐から手紙を出して読んでいた。


アリアが出てくると、ルカは振り返りはしたが、また手紙に目を落とした。

手紙は何度も繰り返し取り出され、色褪せ縁は切れ文字は滲んでいる。


嵐の夜に隠れて読んでいた手紙だ。

昔なら取り上げて読んでしまっていただろう。


そんな面影が、徐々に薄れていく。ルカは変わったのか。成長したのか


ルカがアリアに振り返って手紙を差し出した。

「私はミレイラに下に行く。そして助け出す。一緒にいたいから」

「強欲って言うの?」


アリアは手紙を受け取って読んだ。そして、

「強欲だね」

そう言って手紙をルカに返した。


ルカは懐に手紙をしまいこんでいると、馬が駆け込んでくる音が聞こえてきた。

四騎いる。エドの村に張り付いている小隊の剣士達の様だ。


そのうちの一騎がルカの方へ馬を寄せた。

乗っている剣士が馬上から言った。

「あんたかい。うちらが欲しいってのは?」


剣士は白髪で肌は日に焼け、顔には深い皺が多い。

月の灯りの下で見ても、高齢であるのが分かる。

もう一つの小隊長。ワイズだ。


ワイズは馬から降りると、少女の目の前に立った。

彼の娘より年下に見える。その少女の黒い瞳は濁ることなく、月の灯りを受けてなお深く黒い。


悪が無い。


それは多くの戦場を経験したワイズが初めて見る瞳だった。

似た瞳をした者は多くいた。しかしこの少女の瞳は静かさを湛えて、見る者を虜にする何かがある。


ワイズは我に返る。

この爺が小娘に魅了されたのか。剣も交えずに。心まで老いたのか。


歳はとりたくないものだ。そう思いながらワイズは言った。

「うちの連中から聞いたよ。あんたの指揮下に入れって事かい。イーゼル殿は何処にいる」


奥からイーゼルが出てきた。

「ワイズ小隊長殿。中に入って話を聞いて下さいませんか。ちょっと国を二国ほど相手にしたい」

「人手が足りなくて、困っております」

イーゼルはワイズに言った。


ワイズはイーゼルを見ると、ルカに向き直った。

そんな話は部下から、大体は聞いている。


もう退官する間際に召集されて僻地に向かわされた。何かあると思えばこんな事か。

話に乗るのは当たり前だ。一国だろうが二国だろうが相手にしてやる。


だが、部下が皆、目の前の少女の事を口々に、後ろについてもよいと言う。

少女が賊を斬ったところを見た部下が言い出したことだった。


ワイズは馬鹿げた話だと思った。

賊を見つけた瞬間にナイフを投げて一人、走りながら矢を弾いて、ひるむことなく走り抜けた。

そして相手の剣が空を斬り、三振りで三人の首を斬り抜く。

本当であれば喝采すべき。しかし、その程度の剣士は何処にでもいる。


だが、来てみれば、ワイズの目の前に立つ少女の静かさに魅かれた。

賊を斬った時にも、そうだったのか。

賊を斬るのはたやすいこと。しかし、斬ってなお、こんなにも静かに佇む様だったのか。


ワイズは少女に言った。

「お嬢ちゃんは、何人切った」

少女は沢山と答えた。

「斬っちゃいけない奴は居たかい」

少女は目を閉じて、しばらく考え込んで言った。

「多分、みんなそうだと思う」


ワイズはさらに少女に問う。

「じゃあ、これから先は剣は抜いちゃけないな。違うかい?」

少女は答えた。

「私は強欲だから、また剣を抜いて、また人を斬る」

ワイズは最後にと言いながら少女に問うた。

「俺らは何をすればいいんだい」

ルカは言った。

「私が前に出る。後ろを守ってほしい」


少女は、自らが斬った人間は斬るべきではなかったと言う。そして、自分を強欲と言って大義を語らず、目の前の老剣士について来いと言う。


少女の駆ける先に何がある。


ワイズには、少女が百騎の剣士を目の前にしても、同じことを言うだろうと思った。

そして、ワイズ同様に、百騎の剣士が少女の後ろについて彼女の背後を守り、彼女の駆ける先を共に見たいと思うだろうと。


退官間際の老剣士に、何たる僥倖か。


ワイズは少女に名前を聞くと、ルカだと言った。

ワイズはイーゼルに向き直ると、

「ルカ殿が言うなら、手を貸してやらんでもない」


ルカの軍隊。

アリアはそのうち、国でも建てるのではないかと思った。

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