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剣士の国  作者: quo
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文官の矜持

アリアはルカに大事な話があると言うと、拠点の屋敷にはいった。


広間にはナタリアとミストラがいた。

ナタリアがミストラの腕に湿布を張り終わったとこだった。


ミストラはアリアを一瞥しするが何も言わない。


アリアとルカが席に着く。

辺りが気まずい空気で包まれる。


ルカが大事な話しがあると言い出した。

アリアとミストラは、思わず吹き出してしまった。

どう考えてもこの流れは、アリアが言うべき台詞だろう。


少し空気が和んだ。

「話は淹れながら聞きます」そう言ってナタリアは茶を淹れに厨房へ向かった。


アリアが話を始めた。

「軍は東国へ進攻する。目的はローレイラ付近と推測されるわ。小隊はここで餌になっている。エドもそうだわ」

「軍の特務が動いて火種を起こそうとしている。実際、エドが襲われている。ルカが排除したけど、特務の連中が土地の者に化けていた見たい」


話を聞いたミストラはアリアの方へ向き直った。

唖然としている。そして言った。何でと。


アリアは分からないと言いながらも、国の内部の強硬派が拡張路線に走り出していると言った。


ミストラは、

「全員議会か王の承認が無いと無理よ。王が許したの?」

アリアは

「小隊か特使が襲われる事を待っている。法では緊急に防衛の為に、軍務相の裁量の範囲で軍を動かすことを禁じていない」

「王と議会には事後承認でいい。問題は何をもって緊急なのか、どのくらい軍を動かすことが出来るのかよ」

「法が規則を定めていないから、実質無制限ね。法務相が慌てて法の制定と規則の準備をしているけど間に合わないでしょうね」


ミストラは考え込んでしまった。事態は東国と国と同時に動き始めている。

ふと、この事態の筋書きは両国の戦争を含んでいるのではないのか。


アリアを見つめるが、何の反応も示さない。


ナタリアがお茶を運んできていった。

「先手を打つんですか?」


アリアは、

「ここに居る小隊は同意した。エドに、特使に張り付いている小隊は確認中だ」

そして、

「覚悟のある者を率いてでローレリアに駐留するエンデオの小部隊排除。進攻準備中のエンデオの軍と国の軍の間に入る」

「ローレリア領に入って中立地帯にして、両国の緩衝地帯にする」


「馬鹿な!」ミストラが叫んだ。

「それこそ軍に進攻の口実を与えるだけじゃないの。エンデオにもよ。そもそもローレイラのティファニアがそれを受け入れるかどうかも分からないのに」


アリアは暫しの沈黙のあと言った。

「ロワイスとエルントスは失脚する。時間を稼がなければならない」

「だから、くさびを打ち込む」

そして、時間を浪費すれば自分たちは命が無いと言った。


アリアがルカをみて言った。

「ミレイラは一緒に戦うだろうか」

ルカはアリアの目を見つめて言った。

「私たちがミレイラの下で戦う。彼女の戦争だから」


アリアは思った。その通りだ。

国の闇を引きずり出す。これは私たちの事情だ。

私たちがすることは、ミレイラの下で戦いミレイラの望む結末を切り開くこと。


アリアはルカに、ありがとうと言った。

この少女に諭される日が来るとは思いもしなかった。


アリアはミストラに、今のうちに帰還するように言った。

「文官の出る幕じゃない。いまなら反逆者の汚名を被る事もない」


ミストラは震えた声でいった。

「足手まといって事?ふざけないでよ。文官だからって舐めてんじゃないわよ」


アリアは何も言わない。


ミストラはアリアの胸ぐらを掴もうと手を伸ばすと、あっさりとアリアに手を握られ動けなくなった。

「なによ。放しなさいよ」

アリアは「今度からは手が回らなくなる」と言った。


ミストラは思った。確かにその通りだ。この場に居る人間。それにカイン達のなかで最弱だと思う。

でも、国の剣士の端くれだ。


ミストラは事務室での日々を思い出す。


蔑んだ目で紙に何か書きさえすればいいと、机に何も言わずに置いて行く連中。

文官が支えになっているのを知らない。経費のに資金のやりくり。そして、身分証の偽造の段取り。

人で不足で私を飛ばしておいて、命ある時に下がっていろ。勝手な事を言う。


文官も武官も同じだ。命は無駄にしたくない。でも、任務を放り投げる事はしない。ここで帰るわけにはいけない。


ミストラはアリアの胸元に手を伸ばし続ける。

びくともしない。ミストラの手の色が赤くなってゆく。


ナタリアが、

「そのうち血が止まりますよ」と言った。


それでもミストラは手を伸ばすのをやめない。アリアの手に力が入る。

アリアの指先がミストラの肌に食い込む。

やがて血が滲んできた。


ナタリアが治療道具を取ってくると言って席を立った。


ミストラはまだ止めようとしない。今度は骨の軋む音が聞こえだした。


ナタリアが道具を持ってくると、

「そろそろ骨にひびが入りますよ」そう言いながら、道具を広げ始めた。


ミストラは歯を食いしばって、脂汗をかきながらも止めようとしない。

ナタリアが仕方なさそうに止めに入ろうとしたとき、ルカがアリアの手を取り締め上げた。


「もう止めて」


アリアが手を離すとミストラを突き飛ばした。

よろけたミストラをナタリアが受けとる。


アリアはルカの行動に一瞬戸惑ったが、一呼吸して言った。

「放しなさい」

ルカは手を離した。そして、

「行きたいんじゃなくて、行くって言ってる」

「守ってくれとは言ってない。それに、ミストラは剣士を前にしてひるまない」


アリアはルカに、また諭されたと思った。

私も同じ立場だったら、這ってでも行く。


アリアはミストラに「悪かった」と言って、もうすぐしたら会議をすると言って、外に出て行った。


ミストラはナタリアから包帯を巻かれている。

「傷には軟膏で十分でしょう。骨には異常無さそうですが、二、三日は腫れるので湿布をまめに変えてください」

ナタリアは、お大事にと言って治療毒具を戻しに行った。



ルカがミストラに痛くないか言った。

ミストラは、疲れた顔をして言った。


「もうちょっと早めに止めてもらえたらよかったんだけど」


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