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剣士の国  作者: quo
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議会

女は山手の道に入ると茂みに入った。


「馬を捨ててください」

女が言う通りに馬を降りると茂みの中を進み始めた。


さらに獣道に出て進むと村が見えてきた。

廃村を住めるようにした様だ。


五、六人の男女がいる。

振り向くと弓の男とフロドがいない。


「どういうことだ」ガーランドは女に言った。

女はフロドを救った礼を言って、ガーランドに金を渡した。


これで忘れろと言う事か。


「その男はローレリアの情報を持っているかもしれない。返してもらおうか」

そう言うと、ガーランドは女の目の前に槍を突きつけた。

女は微動だにしない。


男が近づいてきて女に耳打ちをする。

「アリア殿をご存じか」

ミストラが紹介した西の国から来た女だ。子供は元気だろうか。


ガーランドがミストラから紹介を受けたと言うと、女はしばらく待つように言って、小屋で一休みするように勧めた。

小屋に入ると外観とは違って、修繕され快適そのものだ。

椅子に座ると男がお茶を出してきた。弓の男だ。


ガーランドがリリスの弓の腕前の事を話すが、何の反応もない。

フロドの行方についてきてもそうだ。

ここに居る全員がそのような雰囲気を醸し出している。


仕方ないので腹が減ったと言うと、あの携行食が出てきた。フロドと同じ地方のなのか。


女が戻って来た。「お泊りだった宿がある町までいらして下さい。そこで彼の事をお話ししましょう」

そう言って新しい馬を連れてくるように部下と思われる男に指示した。


ガーランドはフロドの行方を尋ねると、もう町に向かっていると言う。

女は村から出る道を教えると、ガーランドはまっしぐらに馬に乗って乗り走りだした。

その背中を見送った女は、もう一つの小屋に入った。


入ると気を失っているフロドがいる。

女はけだるそうに言った。「さて、仕事をするか」




議会場は静けさにつつまれていた。


テーブルは重厚な木の円卓でとても数百年も前から存在しているとは思えない。

千年生きた木の切り株で作られているそうだ。

幾重にも漆を塗られた円卓はまるで地の底の入り口のように鎮座している。


議長の背後には王の席があるが空席になっている。

代わりなのか一人の女性が立っている。絹のローブを身にまとい、金の文様で縁取られた白い面を着けている。


会議は早朝から行われた。

東国でのティートス一味の活動に対する国の対応についてだ。

関係する機関の長が集められている。

政務相、軍務相、財務相、外交相、法務相


出席者の目の前には報告書の束が置かれている。


「ディートスの活動は少なくとも五年から十年の昔から行われている」

「諜報体制に不備があるのでは」

軍務相が切り出した。そして、

「彼らは東国に城を持つ準備を整えている。一か月以内に奴の国が出来上がるそうじゃないか」

軍務相は政務相に問いただした。


重要情報管理を行う政務相は渋い顔をしていった。

「一か月以内と言うのは軍務相殿の主観でしょう。情報は鋭意収集している」

軍務相はディートスの今後の動きについても問いtだした。

「東国の兵を従えて、我が国まで兵を進める可能性はあるでは?奴の目的はなんだ」

政務相は同じく調査中と言った。


「現在、エンデオ領と他の領主が仕えるダモクレス王朝との国交を樹立し、対応を協議するように特使が対応中であります」

「要らぬ行動は差し控えられた方が良いのでは」

外務相はが暗に軍が動くことを牽制した。


「報告書では足がかりが出来た程度としか載っていないが」

軍務相はそう言うと、政務相に言った。

「例の機関は遊んでいるのか。わが軍より二個小隊を出せと言ったわりに、ディートスを見つけるどころかローレリア領で足踏みしているでないか」

執行人や監査役は名目上は政務相の一機関だ。


「王の専権事項である。内容は報告書通りだ」

「貴殿は軍の情報機関を使っていると聞くが本当かね。情報を統括する者としては気になるところだ」


軍は専従の機関を持っている。

「国の防衛に関する情報を集めて何が悪い。派遣対象国にも常駐させている」


軍務相が言うと、法務相が割って入った。相手国との合意で配置してあると。

「王の相手国との承認に基づいている。全員議会で上奏されない以上は認められない」

議会をないがしろにするなと釘を刺した。

軍務相は

「ならば早く外務相は国交とやらを結んでもらいたい。膠着状態ならいざ知らず、相手は動き続けている」


そして、話は財務に及んだ。


財務相は

「二個小隊派遣費用と駐留維持が長期化すれば財政を圧迫しかねますな」

「対外要素を除外しますが、期間の見えない支出は問題ありと判断いたします」

財務相は言い切る。


外務相は、財務相が軍務相を支持している。一気に状況を終了させるきだと思った。

互いの利益が一致したか。


外務相は

「今ここで軍を進めて一気に処理できますかね。戦争の長期化にはならないと言う保証は?」

その外務相の言葉に軍務相が答える。

「確かにそれはありますな。ですから、政務相に預けております二個小隊は大隊と合流させて、ディートスに時間を与えずに処理する。終了後は速やかに後退させるのが、今のところのわが軍の方針であります」


軍務相は国内に引き上げるとまでは言っていない。東国への駐留の可能性を否定していない。

その場の全員が思った。


「わが方としてはあらゆる状況に即した実演習を行う。わが予算で賄うなら問題ないですな」

軍務相は法務相に言った。

「国内なら演習内容を明確にすれば結構。しかし、国境から出る場合は王か議会の承認が必要だ」


軍務相は法務相に、それもできないような切迫した事態になった場合に尋ねた。

「事後報告で可能である。しかし、今は状況を常に監視できる体制にある。慎重に考えてもらいたい」

軍務相は続けて尋ねた

「では、相手国の先制攻撃、またはその兆候が顕著な場合、反撃は事後報告ですな」

「我々剣士達は異国の地で危険にさらされているのです。相手が迫りくるのに決議を待つのは現実的ではないでしょう」

法務相は暫し考えて言った。現状において反撃を妨げる法は無いと。


東国領内に二個小隊いる。危険すぎる状況に皆が気付いた。軍はやる気だ。

かの地の兵たちが餌となっている。


そして軍務相が反撃時に使用した予算の補填について財務相に尋ねようとしたとき、外務相が言った。

「先制攻撃をしてよいと法にあるわけでもない。先制攻撃の兆候についての判断基準は軍に一存で決めるべきではない。外務としては軍との情報共有を求める」


軍務相はこれまで通りに情報共有すると言った。



議長が話を締める。

「今後は王の専権事項以外の情報は各機関におかれましては開示願いたい。外交は王が認めて特使を送っている。結果は必ず出してもらいたい」

「軍に関しては権限と予算の範囲内で動くのは良いが、法的な手順は守っていただきたい」

「政務相は緊急処置として軍から借りている二個小隊の取扱いに関して、今後も相互に調整いただきたい」


議長は最後に法務相に言った。

「現状における先制攻撃を受けた場合又は、その兆候が顕著である場合の反撃対応の法的基準について、早急に研究し結果を提出していただきたい」


議長は、詳細はそれぞれの事務官で詰めるようにと言うと、会議を解散とした。


議長は一人、議会室で椅子にもたれ掛かると天井を見上げた。

天窓から青空が見える。窓を開け放ち、この場のよどんだ空気を入れ替え、新鮮な空気を吸いたい。


軍が突出しすぎている。この国の法は戦争について明確な行動基準を定めていない。

戦争を想定していないのだ。軍は国を乱すつもりなのか。


議長は溜め息をついた。


背後に立つ女から労をねぎらう言葉がかけられた。そして、出来るだけ時間を引き延ばすように言うと、議会場の奥へ下がった。


議長は静かに目を閉じている。


会議の議事録を書記官が議長の前に差し出した。

議長はそれに署名すると書記官は一礼してそれを持って議会場を出た。


そして、深いため息をつくと、どうしたものかとつぶやいた。

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