駆け引き上手
そうきたか!
「き、貴様、卑怯だぞ!」
「あら、デュラハンからもお願いしてくれるのではなかったの?」
お願い? サミアドン? 冷や汗が出る、古過ぎて。
「え、ああ、うううーん」
脳裏にたくさんの金属製鎧の女子が笑いながら駆け巡る。
「無限の魔力を貸すことは、以前にトラブルがあって御法度になった筈ぞよ」
――! やばい、魔王様も揺らいでいらっしゃる。断固として断ることが難しくなっておられる~!
Win-Winが皆を悪い方へと押し流そうとしている――!
「ほんのちょっとだけよ。約束するからさあ」
魔王妃は魔王様に体を密着させておねだりをする。さっきまでのツンとした態度はいったいなんだったのかと問いたい。
「グヌヌヌヌ」
最初っからこれが狙いだったのか――! ワサビ饅頭そっちのけで――!
「デュラハンからも頼んでみてよ」
そうはいかない。と言いたかったのだが、
「お願いしやす。魔王様」
背筋をピンと伸ばしてしっかりお辞儀をした。酒に酔っている状態では正しい判断はできません。テヘペロ。
「仕方ないぞよ。じゃあ、五秒だけぞよ」
「分かったわ」
見えないようにガッツポーズをしたのは内緒だ。誰にも知られてはならない。
「ちゃんと返すのだぞよ」
「うん、分かったわ」
……こうして、「過ち」って昔から何度も何度も繰り返されてきたのだろうなあ。勉強になった。私も成長したものだ。私利私欲のためだけに無限の魔力が次々と持ち主を変え、現在に至っているだけなのかもしれない。
「はい、ありがとう。プハー、お腹いっぱい」
?
「え、もう終わり?」
あれ、無限の魔力を手にしてザマアで、私の願いを叶えてくれるのではなかったの――?
「うん。カツ丼でお腹一杯になりたかったから、それを実行したまでのことよ」
カツ丼って、なに。
「なんだ、それならそれでいつでも予に言ってくれれば、食堂のメニューを毎日でもカツ丼にできるぞよ」
「えー、毎日カツ丼は駄目よ。週5で十分よ。キャッ」
普段のように玉座でイチャイチャし始める二人を、しばらくボーっと眺めていた。何かがおかしくなくて?
「ちょっと待ってください」
カツ丼を、どうしたの。口から食べずにお腹に直接カツ丼を詰め込んで、お腹一杯になっても、意味はあるの? 太るよ。
――いや、そんなことよりも!
「そ、それよりも! 金属製鎧の女子は、どうなったのでしょうか」
聞きにくいことを聞かせるなと言いたい。ちゃんと俺、魔王妃に協力したよね。その見返りは貰える筈ですよね。
「ごめんねデュラハン。さすがに五秒じゃカツ丼五杯食べるのに必死で、他には何もできなかったわ、ゲップ。あら失礼」
たしかにカツ丼の臭いがして、頭の血管がピクピクしてしまう。
「首から上は無いのに、ぞよ」
「先におっしゃらないでください、魔王様」
「ソースカツ丼よ」
「黙って!」
いま、涙をこらえているんだから――。
「はあー」
上を向いて目を閉じ大きくため息をついた。ため息しか出ない。また騙された。性懲りもなく。
これがサッキュバスの言っていた、「鉄板」か。――ガクッ。
まあ、魔王妃が無限の魔力を持ち去ったり、悪事を働いたりしなかったのだから、結果オーライとするか……。
「そうよ、今日一日でデュラハンは成長したじゃない」
「そうぞよ。予に少し追いついたぞよ」
果たして本当にそうだったのでしょうか。むしろ退化したような気持ちでいっぱいです。
「四天王の地位をいいことに、わたしの部屋や他の女の部屋を次々に訪れて昼間から大酒飲んで、最後には無限の魔力を二度と渡さない誓いまでも破らせて魔王様を裏切ったのですものね」
「「――!」」
全部バラさないで。私の体たらくっぷりを――。
「なに、予は初耳ぞよ」
「聞いてよ魔王様。デュラハンったら、自分の私利私欲のためだけに無限の魔力とわたしや魔王様までもを利用しようとしたのよ。これは立派な成長というより、謀反ですわ」
シャーラップ! それ以上は言わないでください。
「お待ちください!」
「うわ、酒臭いぞよ」
しまった。慌てて口を手で塞ぐ。首から上は無いのだが。
「うふふ、冗談よ、冗談」
全部バラした後で冗談と言っても、誰も冗談と思ってくれないじゃあないかあ~! 魔王様が白い目で見ているのが、無茶苦茶応える……。
「デュラハンよ、見損なったぞよ」
「お待ちください、魔王様。これには深い訳が……」
魔王様、殺生です。これは魔王妃の陰謀なのです。
「魔王様、いかにもデュラハンっぽくて、いいじゃありませんか」
いかにもデュラハンっぽいって、やめてー!
たたた、耐えるのだ。
今は耐えて私もいつかは飛躍的な成長を遂げるのだ――。
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